日本テレビ系大型特番『24時間テレビ45』(27日18:30~)のスペシャルドラマ『無言館』(同21:00頃~)の監督・脚本を務める劇団ひとりがこのほど、取材に応じ、今作に込めた思いを語った。

劇団ひとり=日本テレビ提供

戦争で亡くなった画学生(=美術学校の学生)の作品を集めた実在する美術館「無言館」設立のために全国を駆け巡ったある男の物語で、実話をもとに描く同ドラマ。ひとりにオファーがきた段階で、「無言館」というテーマは、いくつかあった候補のうちの1つだったが、「画集を見て、美術館の建物の雰囲気も含めて魅力的だと思って、この題材を選ばせてもらいました」と明かす。

「無言館」に決めたのは、もう1つ大きな理由があった。

「この企画を決めるときは、ちょうどウクライナの問題が起こった頃で、連日そのニュースばかりだったんです。僕みたいな世間知らずでさえ、戦争についてすごく考えるところがある中でこの話があったので、戦没画学生というテーマにひかれたというのもあったと思いますね」

脚本を執筆するにあたってまず参考にしたのは、主人公のモデルとなった窪島誠一郎さんの著書。とにかく多くの著書を出していることから、「参考資料に困ることはなかったです」というが、苦悩したのは窪島さんのパーソナルな部分を描くべきかどうかだった。

幼い頃に生き別れた父と戦後30年経って劇的な再会を果たすなど、波乱の半生を過ごしていただけに、「これだけネタがある人だったら脚本にしやすいと思ったんですけど、それを描いた上に『無言館』のために絵を集めるということを描くとなると、とてもじゃないけど2時間じゃ収まらない。連ドラでやらないと消化しきれないボリュームになってしまうんです」という問題が発生。

そこで、「戦没画学生の絵を大事にしている方々、その絵を預かりに行く窪島さんとバディを組む野見山さんの2人というところに焦点を当てることにして、窪島さん自身のドラマチックな部分は、泣く泣くですけども、全ては描かないと決めました。そういう意味で言うと、すごくすっきりした脚本になっています」と、ポイントを絞った。

  • 主人公のモデルとなった窪島誠一郎さん(左)と劇団ひとり=同

窪島さんの著書から感じたのは、「無言館」設立への不思議な原動力だ。「窪島さんは、自分がなぜこういう活動をやっているのか、よく分からないと書いていたんです。なぜか分からないけど、使命感みたいなものを感じて、意味を持ってから動きだしたんじゃなくて、やりながら自分自身で意味付けをしていく。そういった部分を、今回は反映させていただきました」と明かす。

また、「反戦をテーマにした美術館にはしたくない」という思いも、ストーリーに投影させた。

「絵と戦争は直接は関係ないことだから、あくまで作品として楽しんでもらいたいというのを、結構しきりに書いていて、実際に窪島さんにお会いしたときも、『とにかく美談にはしないでくれ』と言われたので、ドラマも反戦をテーマにした内容にならないように気をつけました。もちろん、戦没画学生を扱うので避けて通れないんですけど、あまりそれを前面に押し出して、反戦プロパガンダになってしまうのは良くないなと。だから、絵に向き合った戦没画学生の思いや、その絵を守ろうとするご家族の思い、それを引き継ごうとする窪島さんや野見山さんの思い自体はすごく美しいものだと思ったので、その美しい部分に極力焦点を当てて、脚本を書いたつもりです」

実際に「無言館」に足を運んで、戦没画学生の絵を目の当たりにしたというひとり。そこで、絵というものに込められた強い思いを感じ取ったという。

「作品というのは、自分の分身だったり、魂を込めて描くものなので、そこにはやっぱり力を感じますよね。僕らって美術館に行って絵を見るときに、作者と同じ立ち位置にいるんですよ。作者がこの絵を描いたときに、その先にどういう風景があるのかが見えてきて、空気感が伝わってくるんです。だから絵というのは特別なもので、遺族の中には、これをずっと守り抜いてきて、頭を下げられても『この絵だけは渡したくない』とおっしゃる思いもすごく良く分かりました」

また、自身の子どもの絵を思い出しながら、「子どもたちの描いた絵というのは、何よりもかけがえのないのもですよね。うちの5才児がクレヨンで描いた何でもない車の絵でも、僕は大事に取ってますから。窪島さんの著書にも描いてあったんですけど、やっぱりみんな大好きな絵を描くときは、すごく喜んでいるんですよ。当時の画学生たちも、戦争に行くことになるんだけど、絵を描くことが楽しくてしょうがないというのが伝わってくる。だからこそ、遺族の方にとっては、故人の楽しんでいた瞬間だから愛おしいんですよね」と想像した。

このように捉えることによって、「今回のドラマの中では、絵をただの小道具にしちゃいけないと思いました。ものすごい数の絵があるので、全てにスポットライトを当てられないのですが、ドラマで扱う絵に関しては、しっかりとしたライティングでお見せしないと失礼に当たると思いました」と、リスペクトを持って映し出している。

  • 寺尾聰(左)と浅野忠信=同

戦後生まれで戦争を知らない世代の1人として、この題材を描くにあたって、どのようなことを意識したのか。

「僕らは直接知らないけど、だからこそ想像するしかないですよね。『分からない』だけで片付けたら、もうそこでおしまいですから、いろんな本を読んだり、いろんな人の話を聞いて、もし自分の家族が巻き込まれたらというのを想像するしかない。その残酷さや痛みを想像する思いが引き継がれていくことが、戦争を繰り返さないことになると思うんです。このドラマもそういう性質を持っていて、見てくれて、また無言館に足を運んで何かを感じる子どもがいるかもしれないですけど、僕は直接的に戦争に対する思いは書いてないです。そこはすごくデリケートなものだし、おそれ多いので、いろんな資料の中から、ご遺族の方や野見山さんがおっしゃっていた言葉を拝借して、書かせていただいたつもりです」

それを踏まえ、今回のドラマを描くにあたって最も大事にしたのは、戦没画学生の作品を守り続けた遺族、そしてそれを大切に引き継ごうとした窪島さんや野見山さんの“思い”だと決意したひとり。

「この思いはすごく尊いものなので、ちゃんと丁寧に描かないといけないと思いました。“こんな事実がありました”というのをただ並べていくんじゃなくて、そこにそれぞれどういう思いがあったのかというのを、なるべく純粋に描いていく。脚本を書いてると、『ここでちょっとひと盛り上がりほしいな』って思うこともあるんですけど、無理やりそういうことを作るのは、このドラマにおいてはゲスだなという感じがしたので、事実の輪郭をはっきりさせて分かりやすく視聴者に届けるということが、僕らの使命だと思います」