ぽかんと口を開けている様子を表す「開いた口が塞がらない」。よく見聞きする言葉ではあるものの、ポジティブな意味にも使っていいのか、類語は何かなど、正確に意味を把握している人は意外と少ないものです。

今回の記事では「開いた口が塞がらない」について、意味や類語、使い方など、例文を交えながら解説します。正しい意味と使い方を知って、誤解を招かないようにしましょう!

  • 「開いた口が塞がらない」の正しい使い方を知りましょう

    「開いた口が塞がらない」の正しい使い方を知りましょう

「開いた口が塞がらない」の意味

「開いた口が塞がらない」とは、「一般的にあり得ないような、あまりのことにびっくりし、あきれて何を言ったらいいのか分からなくなってしまうこと」です。一般的に、相手のひどい態度や様子などに対する心境を表現します。「開いた口が塞がらぬ」ともいいます。

単純に「自分が驚いた」というだけでなく、「ひどすぎる」「あきれる」という意味も含んでいるため、使い方によっては相手を非難するようなニュアンスになってしまう点に注意が必要です。

「開いた口が塞がらない」の読み方

「あいたくちがふさがらない」と読みます。「塞」という字は、「閉塞(へいそく)」などにも使われるように、ふさぐ、とざす、という意味の字です。

褒め言葉やいい意味として使うのは誤用?

感動などにより、ぼうっと恍惚(こうこつ)状態になってうっとりしているときも、口が開いたまま何も言えなくなってしまうことがあるでしょう。

そこで、「開いた口が塞がらない」を、「予想を上回っていて、いい意味でびっくりした」「感動して何も言えなくなった」といった意味でも使えるのではないか、と思う人もいるかもしれません。しかしこの用法は、現代では避けた方が当たり障りがないといえます。

実は「開いた口が塞がらない」について、「言葉も出ないほどうっとりしている様子」という意味が掲載されている辞書もあります。江戸時代である1748年に初演された浄瑠璃の『仮名手本忠臣蔵』の中でも、「師直は明いた口ふさがれもせずうっとりと」というせりふがありました。そのため、いい意味で使うことが完全に誤用というわけではありません。

しかし一般的には使われない用法であり、2021年にはアナウンサーが「感動した」という意味で「開いた口が塞がらない」を使ったことを「不適切な表現だった」と訂正する出来事もありました。

いい意味で使うのは一般的な用法ではなく、褒めたつもりでも相手の気分を害してしまったり、正しい日本語が使えないと思われてしまったりなどのデメリットが多いため、「あきれ返った」という悪い意味でのみ使う方が無難です。

  • 「開いた口が塞がらない」は「あきれてしまって何も言えない」という意味です

    「開いた口が塞がらない」は「あきれてしまって何も言えない」という意味です

「開いた口が塞がらない」の使い方と例文

「開いた口が塞がらない」はあまりにも驚きあきれてしまい、相手に対して掛ける言葉が見当たらなくなってしまったときや、悪い意味でとても驚いてしまった心情を伝える際に使います。「あきれた」よりも強い語感になるため、大きなショックを受けたことを表せるでしょう。

ただし、「相手の状態がひどい」というネガティブな要素も強まります。目上の人に対してや、相手の耳に直接入るところでの使用は避けるようにしましょう。

例文

  • 久しぶりに娘の部屋を訪問したら、冷蔵庫の中で野菜が腐っており、開いた口が塞がらなかった
  • 知識もお金もないのに起業したいだなんて、開いた口が塞がらないね
  • あんなに確認したのに契約書類を忘れてくるなんて! 開いた口が塞がらないよ!
  • 彼の部屋のあまりの惨状を見て、彼女は開いた口が塞がらないようだった
  • 彼が、3度目の離婚をした1カ月後に再婚したと聞いて、僕は開いた口が塞がらなかった
  • 彼らのあまりのずうずうしさに、開いた口が塞がらない
  • 「開いた口が塞がらない」はとても驚き、あきれた心情を表す際に使いましょう

    「開いた口が塞がらない」はとても驚き、あきれた心情を表す際に使いましょう

「開いた口が塞がらない」の類語

「開いた口が塞がらない」に似た慣用句や熟語を紹介します。少しずつ意味が違うため、適宜言い換えを行って、正確に自分の気持ちを伝えられるといいですね。

二の句が継げない(にのくがつげない)

「二の句が継げない」も、あきれたり驚いたりして言葉が出なくなってしまったときに使う慣用句です。「開いた口が塞がらない」と同様、相手のひどいふるまいなどにショックを受け、悪い意味で何も言えない様子を表します。

漢字は「告げない」ではなく「継げない」である点に注意しましょう。

呆れが礼に来る(あきれがれいにくる)

「呆れが礼に来る」とは、ものすごくあきれ返ってしまった様子を誇張した表現です。あまりにもあきれているので、「呆れ」がわざわざお礼に来てしまうほどだ、という擬人化表現です。ただ「あきれた」というだけでは表しきれない、度を越してあっけにとられている状態を表します。

「呆れが宙返りをする」も同じ意味で、非常にあきれた様子をコミカルに表しています。

何をか言わんや

「何をか言わんや」も、あきれてしまってもう何も言えない様子を表す慣用句です。「何を言おうか、いや何もいうことはない」という反語表現で、あきれて掛ける言葉もないという状態を強調しています。

呆然(ぼうぜん)

「呆然」は、びっくりしてあっけにとられている様子、あるいは心ここにあらずで、ぼんやりとしている様子を表します。前者の意味が「開いた口が塞がらない」と近いでしょう。

唖然(あぜん)

「唖然」とは、思いもよらないことに驚きあきれてしまって、声も出ないことを指します。 「唖」とは言葉が話せない状態を表します。

  • 「二の句が継げない」や「呆然」が「開いた口が塞がらない」の類語です

    「二の句が継げない」や「呆然」が「開いた口が塞がらない」の類語です

「開いた口が塞がらない」の英語表現

「開いた口が塞がらない」を英訳するなら、以下の表現が当てはまります。

open-mouthed

「mouth」はご存じの通り、口のことです。驚きなどにより口をぽかんと開けた、という意味です。例文は以下です。

He kept repeating the same mistakes no matter how many times I warned him, and I was in open-mouthed.
(彼は何度注意しても同じ失敗を繰り返したので、私は開いた口が塞がりませんでした)

jaw-dropping

「jaw」は顎(あご)のことです。顎が落ちるほど、つまり驚いて口をあんぐり開けるほどの、という意味です。あきれたというよりは、単純に驚いた、また口をあんぐり開けて見とれるほどすごい、というような、ポジティブなニュアンスで使えます。

Her dance performance was jaw-dropping.
(彼女のダンスはあっと驚くほどすばらしかった)

speechless

「口を開けた」ということにこだわらないのであれば、「speechless」も使えます。強い感情により言葉が出てこない状態を表します。

Wonder left me speechless.
(私は驚きでものが言えなくなった) 

dumbfounded

何も言えないほど驚いた、唖然としたという意味を表します。

I was dumbfounded when he said he wanted to marry me.
(彼に「結婚したい」と言われたときはびっくりして何も言えませんでした)

too surprised to say a word

too~to構文を用いた「too surprised to say a word」「too surprised to say anything」でも、「驚きすぎて言葉も出ない」という意味を表現できます。

She was too surprised to say a word.
(彼女は驚きすぎて、言葉を失った)

  • 「開いた口が塞がらない」は英語で「jaw-dropping」や「speechless」などと表現します

    「開いた口が塞がらない」は英語で「jaw-dropping」や「speechless」などと表現します

「開いた口が塞がらない」はポジティブな意味の使用を避けた方がいい慣用句

「開いた口が塞がらない」は、驚きあきれる様子を指す慣用句です。ただ「あきれる」というだけでは表しきれない強い気持ちを伝える際に活用できるでしょう。

「開いた口が塞がらない」は元々、いい意味と悪い意味、両方を指し示すものでした。しかし、現在は主に悪い意味にのみ使われているため、誤解による不快感を与えないためにも、いい意味では使わないほうが無難です。

誤用と思われて「開いた口が塞がらない」と言われないように気を付けましょう!