伏線の回収に次ぐ回収で、真犯人の特定ボルテージが高まっているドラマ『マイファミリー』(TBS系)。6月12日(日)の放送で、最終回を迎える。

放送当初は伏線云々の以前のことで、内容がはっきりと脳内に沈み込んでこなかった。「誘拐ドラマ?」「え、夫婦問題?」「友達とうまくいってない?」「会社のこの女、怪しくない?」。物語の本テーマがどこにあるのか所在不明で、このまま最終回まで見終える自信がなかった。

ところがどっこい、第三話くらいから物語に引き込まれる。二宮和也、多部未華子、賀来賢人……元々、実力も人気も申し分のない主要キャストたち。今回のドラマで彼らの底力を見せつけられた。皆年齢は30代。日曜9時枠の代替わりを見せつけられているようだった。「俺らの時代が始まったんだ」と、背中と横顔が語っていた、と言ったら怒られそうだけど。

と、何かと話題の『マイファミリー』。物語を静かに引っ張っていたひとりに、濱田岳の姿があったことは間違いない。少なくとも、私は第8話で号泣していた。

同情、共感、哀れみ。この誘拐犯にはどんな言葉も歪に

  • 濱田岳

『マイファミリー』はゲーム会社社長・鳴沢温人(二宮)と、未知瑠(多部)の一人娘が誘拐されたことから始まる。警察を通さず、自力で娘を犯人から奪還。これで一安心と思いきや、鳴沢夫妻の友人の娘たちも誘拐され、都度、数億円の身代金が真犯人の手に渡っていく。

おいおい、どうなると思っていたら、鳴沢夫妻の娘を誘拐したのは大学時代からの友人である東堂樹生(濱田)だと、仲間の前で自供……。彼もまた五年前に一人娘を誘拐されていた被害者だったのだ。

泣き震えながら鳴沢夫妻に詫びる濱田の演技は、すごかった。誘拐事件はこの世で最も残酷で卑劣な事件。その事実を滝のようにこぼれる涙が教えてくれた。なんだろう、誘拐なんていう行為を誰が考えたんだろう。自分の命と引き換えにしても守りたいと自然に思う存在を奪い、現金を要求する。そんなことをしでかす犯人の余命には、影しかないことを願わんばかりだ。でもこのドラマでは、そんな憎悪ではなく、ただただ無性の愛が渦を巻いている。

日本の名作シリーズの主演をすべて継いでくれ

私が濱田さんの演技をきっちりと認識したのは、やはり『プロポーズ大作戦』(フジテレビ系・2007年)の鶴見尚役。完全無欠のイケメン山Pといつも一緒にいながら、きっちり味は出してくる人。それが印象に残った。どうやら金八にも出演していたらしいが、制服という黒波に消されたらしい。

その後もドラマを見ていて「面白いな」と思うと、いつもその影に濱田さんがいた。『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-2nd season』(フジテレビ系 2010 年)の第3話のゲスト出演で、事故から死亡していく演技は忘れられない。あの時も大事な人を助けるために、命を差し出す大学生。彼は身を呈する演技がよく似合う。

確かな演技力に、パブリックイメージ。それらを損なうことなく、着々と大人になり『釣りバカ日誌~新入社員 浜崎伝助~』(テレビ東京系 2015年)で主役を演じたときには、拍手喝采。非常によく似合うキャスティングではないか。ドラマも面白かったし、このまま『男はつらいよ』シリーズを彼で再開してくれないかという希望さえ湧いた。ミニマムボディをフル活用して、全身で引っ張っていく演技をする俳優、日本国内、他に誰かいる?

そんな勝手な希望を具現化してくれたのが『じゃない方の彼女』(テレビ東京系 2021年)の、モテなかったはずの大学准教授役。それから朝ドラ『カムカムエヴリバディ』(NHK総合 2021年)の橘参太役。ああ、ここでもわずかな余命を差し出して、姪っ子に会いに行っていた。そして『マイファミリー』の最終話へつながる。

頼むから東堂、生きてくれ。罪を償って、どこかで生きているかもしれない心春ちゃんともう一度逢おう。誘拐犯ではなく、あなたは愛情あふれるヒーローだ。