4日スタートの『卒業タイムリミット』(NHK)を皮切りに2022年の春ドラマが次々に放送され、24日の『金田一少年の事件簿』(日本テレビ系)で主要作が出そろった。配信の視聴数が右肩上がりなどドラマ全般が活性化する中、どんな作品がラインナップされ、どんな傾向が見られるのか。

主要ドラマがそろったこのタイミングで、「本当に質が高くて、今後期待できる作品」をドラマ解説者の木村隆志がピックアップ。俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視」したガチンコで、2022年春ドラマ計22作の傾向とおすすめ5作(第1弾)、目安の採点付き全作レビュー(第2弾 ※近日掲載予定)を挙げていく。

2022年春ドラマの主な傾向は「[1]各局で新枠が誕生! 令和のドラマ黄金期へ [2]女性プロデューサーの躍進」の2つ。

  • 『ナンバMG5』に主演する間宮祥太朗 撮影:蔦野裕

傾向[1]各局で新枠が誕生! 令和のドラマ黄金期へ

今春は各局で新ドラマ枠が誕生した。

まずフジテレビは水曜22時台にドラマ枠を新設し、第1弾の『ナンバMG5』を放送。次にTBSは火曜24時58分からのドラマ枠を新設し、第1弾の『村井の恋』を放送している。

テレビ東京は火曜24時30分からのドラマ枠を新設し、第1弾の『汝の名』を放送するほか、日曜午前11時台にもドラマ枠を新設し、第1弾の『よだれもん家族』を放送。NHKは月曜~木曜の22時45分に帯ドラマ枠を新設し、『卒業タイムリミット』を放送している。

今春は地上波だけでなくBSでもBS-TBSやBS松竹東急でドラマ枠が新設されたが、ここに来てなぜ急増しているのか。

最大の理由は、配信再生が増えたことによる評価指標化と配信収入化。コロナ禍に入ってから各局の配信再生数は右肩上がりで増え続け、たとえば前クールの『ミステリと言う勿れ』(フジ系)は放送中の段階で全局初の3,000万再生を突破した。

放送におけるCM収入減を補うためには、見逃し配信のネット広告収入、自局系動画配信サービスの有料会員数、海外配信での再生収入を増やすことが重要。また、今春から主要番組の同時配信がはじまるなど視聴環境が整うことで、スポンサーの好む若年層の視聴獲得も期待できる。つまり、各局は放送の視聴率に偏ったビジネスモデルからの脱皮を図っている最中であり、その基幹コンテンツがドラマなのだ。

さらに、ネット配信ではゴールデン・プライム帯だけでなく、深夜帯の作品にも同等のチャンスがあるほか、映画化、グッズ、イベントなどの収入を得られる可能性もあり、今後もまだまだドラマ枠は増えるかもしれない。

メディアが報じる視聴率は下がっているものの、配信再生数は右肩上がり。さらにネット上の記事やコメントも増えている現在は、80年代から90年代にかけてのドラマ黄金期再来と言っていいのではないか。

  • 左から関水渚、綾瀬はるか、大泉洋、浅野和之

  • 後列左から佐藤隆太、本仮屋ユイカ、板尾創路、石野真子、羽住英一郎監督、前列左からユースケ・サンタマリア、ディーン・フジオカ、岸井ゆきの

傾向[2]女性プロデューサーたちの躍進

もう1つ今春の傾向として顕著なのが、女性プロデューサーの躍進で、その筆頭はフジテレビと日本テレビの2局。

フジテレビは、『元彼の遺言状』を金城綾香プロデューサー、『ナンバMG5』を栗原彩乃プロデューサー、『やんごとなき一族』を宋ハナプロデューサーと、自社制作の3作すべてを女性プロデューサーが手がけている。

日本テレビは、『悪女(わる)~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?~』を諸田景子プロデューサーと小田玲奈プロデューサーら、『パンドラの果実~科学犯罪捜査ファイル~』を三上絵里子チーフプロデューサーと茶ノ前香チーフプロデューサー、『金田一少年の事件簿』を三上絵里子チーフプロデューサー、櫨山裕子プロデューサーらが手がけている。

テレビ朝日も、『特捜9』を神田エミイ亜希子プロデューサーと石田菜穂子プロデューサー、『卒業タイムリミット』岡本幸江プロデューサー、『家政夫のミタゾノ』と『妖怪シェアハウス―帰ってきたん怪―』を内山聖子エグゼクティブプロデューサーら、『俺の可愛いはもうすぐ消費期限⁉』を中川慎子ゼネラルプロデューサーと4人全員女性プロデューサーが手がけている。

男性の強力なプロデューサーがそろうTBSでも、『持続可能な恋ですか?~父と娘の結婚行進曲~』を吉藤目衣プロデューサーが手掛けている。

長きにわたってドラマのメイン視聴者は女性層であり、特に平日はその傾向が強い。そんな女性視聴者に受けるドラマを女性プロデューサーが手がけるのは自然な流れであり、実際に共感を集めるヒロインの物語が目立つ。

これまでテレビ業界では、「スタッフは男性ばかり」と言われ続けてきたが、最も女性の登用・育成が進んでいるのはドラマ。世代交代とともに女性の登用・育成がジワジワと進み、結果も出はじめている。もともと脚本家には女性が多いため、残るは演出家のみ。今なおそのほとんどが男性ばかりであり、今後は女性演出家の登用・育成も求められていくだろう。

  • 『メンタル強め美女白川さん』出演の井桁弘恵

  • 『クロステイル~探偵教室~』出演の鈴鹿央士

  • 『正直不動産』出演の山下智久

これらの傾向を踏まえた今クールのおすすめは、『ナンバMG5』、『メンタル強め美女白川さん』(テレ東系)、『クロステイル~探偵教室~』(東海テレビ・フジ系)の3作。

まず『ナンバMG5』は、ヤンキーのコミカルなシーンに目がいきがちだが、本質的な強みは本広克行監督が手掛ける映像美。1シーン1カットに情熱とこだわりを感じさせられ、俳優たちも監督の期待に応えている。

『メンタル強め美女白川さん』は、令和の今を生きるOLたちの描写がリアルかつハートフルで、しなやかでたくましいヒロインに元気をもらえる良作。『クロステイル』は、探偵学校という舞台の面白さを生かした八津弘幸の脚本が冴え渡る。

その他では、『正直不動産』は温かい人間ドラマに不動産知識を絡めた各話のエピソードに安定感があり、『マイファミリー』(TBS系)はツッコミどころこそあるものの意欲的なオリジナルミステリー。『やんごとなき一族』は東海テレビの昼ドラを思い起こすエンタメ度の高い作品であるなど、いい意味で好きなドラマがバラけそうなクールになっている。

「視聴率や先入観だけで判断して見ない」というのはもったいないだけに、TVerや各局の動画配信サービスなどでチェックしてみてはいかがだろうか。

■おすすめ5作

  • No.1 ナンバMG5 (フジ系 水曜22時)
  • No.2 メンタル強め美女白川さん (テレ東系 水曜24時30分)
  • No.3 クロステイル~探偵教室~ (東海テレビ・フジ系 土曜23時40分)
  • No.4 正直不動産 (NHK 火曜22時)
  • No.5 マイファミリー (TBS系 日曜21時)

春ドラマ計22作の解説と目安の採点は、近日中にアップされます。