電気自動車=バッテリーEV(BEV)が自動車メーカー各社から続々と登場している今、BEVの老舗である日産自動車は何を目指し、どんなクルマづくりを進めているのか。同社のBEVラインアップで新たな基幹車種となる「アリア」に試乗し、現状を探ってきた。

  • 日産「アリア」

    日産の新型「アリア」に試乗!

まずは「アリア」の内外装を確認

日産は2019年10月の東京モーターショーでアリアの「コンセプトモデル」をお披露目し、翌2020年7月にワールドプレミアを実施、2021年6月に予約注文を開始した。初めて見てから随分と時間が経ったが、ようやく先ごろ、アリアに試乗することができた。

日産によれば、車名の「アリア」(ARIYA)とは「古来より敬意と称賛のイメージを呼び起こす言葉」とされるという。カーボンニュートラル社会の実現に向けEVラインアップの拡充を図る日産だが、アリアは歴史や伝統を大切にしながらもクルマの未来を感じさせる、新時代のフラッグシップモデルを目指して開発したそうだ。

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    日産新時代のフラッグシップモデルとなる「アリア」

アリアが搭載するバッテリーは66kWhと99kWhの2種類。それぞれに2駆と4駆(e-4ORCE)があるので、バリエーションは計4つとなる。日産の鈴木理帆JAPAN-ASIAN企画本部主担によると、「この4つには“上下”という関係性がなく、ユーザーのライフスタイルによって最適なグレードを選んでいただければ」とのことだ。

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  • 「アリア」のバッテリーは66kWhと99kWhの2種類

試乗したのは5月にデリバリーが始まる66kWhバッテリー搭載の「B6 2WD」。最もベーシックなモデルだ。搭載するAM67型モーターは最高出力160kW(218PS)/5,950~13,000rpm)、最大トルク300Nm/0~4,392rpmを発生。一充電走行距離はWLTCモードで470kmを公称しており、日本の多くのユーザーの要求を満たせるものだとしている。

ちなみに、今年の夏以降に出てくる「B6 e-4ORCE」(4WDバージョン)は最高出力250kW、航続距離430km、「B9 2WD」は178kW、640km、「B9 e-4ORCE」は290kW、580kmとなっている。航続距離を重視するなら少し待ってB9 2WD、雪道や悪路での走行を意識するならe-4ORCE版を選択すれば間違いないはずだ。

アリアのボディサイズは全長4,595mm、全幅1,850mm、全高1,655mm、ホイールベースは2,775mm。同社のSUV「エクストレイル」に比べると全長は95mm短く、全幅は30mm幅広く、全高は65mm低いというサイズ感なので、日本国内でも使いやすい大きさといっていい。

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    「アリア」は日本でも扱いやすいサイズ感にまとまっている

内外装には日本古来の伝統美に着想を得たデザインを施した。コンセプトは「タイムレス ジャパニーズ フューチャリズム」だ。正面には幾何学模様の「組子」を落とし込んだブラックのフロントシールド(内部に配置したセンサーを守る役目もある)を装着。ノーズやショルダーのラインが「粋」を、そこからリアまで伸びるラインの機能美は「整」を、左右につながるリアコンビネーションランプは日本のミニマリズムである「間」を、ダイナミックなボディ全体は「移ろい」を表現したとの説明だ。

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  • フロントシールドには組子パターンを採用

試乗車のボディカラーはアリアのテーマカラーであり、カラー担当者もイチオシという「暁-アカツキ-:サンライズカッパー」と「ミッドナイトブラック」の2トーン。写真を見ておわかりのように、野山の新緑とまだ花が咲き残る桜をバックにしたその出立ちが、日本的な美しさをしっかりと表現していてなかなかいいのである。

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    「暁-アカツキ-:サンライズカッパー」はモーターに使われる銅コイルの色もイメージしているとのこと

車内は広々としていた。室内長は2,075mmで、Mクラスのコンパクトな全長にLクラス並みの室内空間を実現できている。しかもインパネや床面がフラットなので、さらに広い感じがするのだ。フロントに搭載するe-パワートレインを小型化し、空調ユニットを前出しすることができたことと、クロスメンバーを内蔵したバッテリーをフロアと一体構造としたことが功を奏している。

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  • 室内は広々

電動パワートレインの小型化は、クルマの最小回転半径にも関係する。アリアは19インチあるいは20インチの大径タイヤを装着しているが、前に積むパワートレインの横幅が縮まったことで前輪の転舵スペースが拡大。最小回転半径は5.4mと意外に小回りが利くのだ。

車内は湾曲した12.3インチ+12.3インチの統合型インターフェイスディスプレー、落ち着きのある木目調の薄型インストルパネル、シフトやドライブモードスイッチを手元に配置した移動型電動コンソールで構成。エアコンやドライブモード、e-ペダルなどの操作部分には、電源を入れると浮かび上がるハプティクススイッチを採用していて先進感は十分だ。触れると小さな振動を伝えてくるので、そのためのコストもかかっているはずである。

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  • 車内の随所から先進性が感じられる

一方で、ドア内張やスピーカー、ペダルなどには日本古来の組子デザインを採用。さらに床下センター部には行燈のような柔らかな光で足元を照らす間接照明が取り付けられていて、石庭をモチーフにしたフロアマットを浮かび上がらせるという「粋」な演出を見せてくれる。日産によると、こうした「和」テイストをカーデザインに持ち込むことにより、海外のユーザーへの訴求に効果があるとのこと。日本の高級BEVとして売り出す戦略の中で、「和」が重要なピースになっているようだ。

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  • 「和」のテイストが「アリア」の個性になっている

静けさが圧倒的、EVの知見が詰まった走り

アリアのBEVとしての走りは、「リーフ」や「ノートe-POWER」などで長く培ってきた技術をしっかりと突き詰めてきたな、と感じさせる部分だ。モーターの大パワーを誇るような唐突感がなく、また車体の重さを感じさせることもない。常に静かで心地がいい。

加速時には一定のGがスーッと続いていくイメージで、どこまでも車速が伸びていく。一方で「e-Pedal」走行の減速は回生ブレーキの介入具合がかなり上手で、アクセルを緩めた際の減速が乗り手の思ったような動きにきちんとリンクしてくれる。ワンペダルでもクルマを完全停止させるにはブレーキペダルを踏む必要があるタイプで、これからの日産車はこの方式に統一されるとのこと。安全のためには「ブレーキを踏んでクルマを止める」という操作をドライバーに意識させることが重要であり、クリープ走行ができた方が微速時のコントロールもしやすいので、これが世界的な動きとなっているようだ。

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  • BEVは増えているが、電気の走りについては日産に一日の長がある

これ以外にも、「プロパイロット」を使用したハンズオフの高速走行や2種類のボイスコントロールなど、いろいろな機能を試すことができたのだが、そちらはまた別稿で。

先行予約を受け付けたアリアの「limited」には6,800台もの注文が入ったとのこと。他メーカーや輸入車からの乗り換え組も多いというから、アリアに対する日産の期待も相当に高めのようだし、それにふさわしい出来栄えであるのは間違いなさそうだ。

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