日産自動車は新型電気自動車(EV)「アリア」の予約受付を開始した。日本専用の予約注文限定車「リミテッド」の全4グレードで、価格は660万円~790.02万円だ。これだとメルセデス・ベンツやレクサスのEVと似たような価格帯になるが、アリアはお買い得なのか。グレード構成と性能を詳しく見ていきたい。

  • 日産「アリア」

    日産の新型車「アリア」。2019年の東京モーターショーで世界初公開となったクロスオーバーEVだ

バッテリーと駆動方式は2タイプ

日本で発売するアリアは4グレード構成。66kWhバッテリー搭載の「B6」と91kWhバッテリー搭載の「B9」に、それぞれ2WDと4WD「e-4ORCE」を用意する。

グレード構成は昨年の発表時と同じだが、今回は「B6」「B9」という呼び名が明らかになった。これは、わかりやすいと思う。日産のEV「リーフ」には40kWhと62kWhがあり、後者は「e+」というグレード名になっているが、こちらもそのうち、「B4」と「B6」になるのかもしれない。

ちなみに、バッテリーの総電力量は、昨年の発表時には65kWhと90kWhだったので、わずかではあるが拡大している。しかし、加速性能や最高速度、満充電での航続距離は変わっていない。

予約受付が始まったのは、発売記念限定車「リミテッド」だ。4グレードすべてに用意される。価格は「B6リミテッド」の660万円から「B9 e-4ORCEリミテッド」の790.02万円までとなる。

  • 日産「アリア」

    発売時期が明らかになっているのは「B6リミテッド」のみで、2021年冬の予定だ

リミテッド以外のグレード(標準車)は、後に発売するとのこと。日本以外の市場でも今後、予約注文を開始するという。つまり、アリアの予約受付については日本が最初ということになる。アリア標準車(カタログモデル)の実質購入価格(省庁や自治体からの補助金を差し引いた金額)は約500万円からになるそうだ。

比較のために見ておくと、同じEVであるリーフ(すべて2WD)の価格は332.64万円~429.88万円。アリアはボディサイズが全長4,595mm、全幅1,850mm、全高1,655mmとリーフよりもひと回り大きく、日産の新しいデザインランゲージや完全新設計のEV専用プラットフォームなどを採用しているので、同社のEVラインアップの中ではプレミアム的な位置付けになっているようだ。

アリアの2WDは前輪の位置にモーターを1個、4WDは前後に1個ずつ搭載する。気になる航続距離(WLTCモード)はB6の2WDが最大450キロ、4WDが430キロ、B9の2WDが610キロ、4WDが580キロだ。

  • 日産「アリア」

    「アリア」の動力性能はグレードごとに異なる。「B6リミテッド」の2WDは最高出力160kW、最大トルク300Nm、「B9リミテッド」の4WDは同290kW、600Nmといった具合だ

あの「プロパイロット2.0」を標準装備

日本で買えるクロスオーバーEVの中から価格面で近い車種を探すと、いずれもプレミアムブランドのレクサス「UX300e」(580万円~635万円)、メルセデス・ベンツ「EQA」(640万円)が思い浮かぶ。

しかし、これら2車種はボディサイズがリーフと同等だ。おまけに、航続距離はUXが367キロ、EQAが422キロで、アリアが上をいく。こうした数字を含めて考えれば、アリアはリーズナブルなクルマであるといえる。しかも、今回受注を開始したのは発売記念限定車のリミテッドだ。メルセデスのEQAでいえば、790万円で50台を限定発売した「エディション1」に相当する。リミテッドは後に発売となるカタログモデルに比べ、装備面が充実しているはずだ。

例えばリミテッドは、先に「スカイライン」が採用して話題を集めた先進運転支援技術「プロパイロット2.0」を全グレードで標準搭載する。自動運転レベル2相当の技術ではありながら、多くの高速道路でのハンズオフ、つまり、手放し運転を可能としているシステムだ。

  • 日産「アリア」

    「アリア」は高速道路でのハンズオフ走行が可能な「プロパイロット2.0」を標準装備する

ほかにも、エクステリアではエアロダイナミックなデザインと専用色をおごった19インチのアルミホイールカバーを専用装備として装着しているし、インテリアでは電動チルトとスライドが可能でリモート機能も付くパノラミックガラスルーフ、ブルーグレーのナッパレザーシート、アリア専用のBOSEプレミアムサウンドシステム&10スピーカー、枯山水をモチーフとした専用色フロアカーペットなどを用意している。

  • 日産「アリア」

    「リミテッド」専用のアルミホイールカバー

  • 日産「アリア」

    パノラミックガラスルーフ

  • 日産「アリア」

    ブルーグレーのナッパレザーシート

  • 日産「アリア」

    枯山水がモチーフの専用色フロアカーペット

特別仕様車のボディカラーは5色。シングルトーンはブラックのみで、残りはすべて2トーンだ。このうち、バーガンディー/ミッドナイトブラックとシェルブロンド/ミッドナイトブラックは特別仕様車専用となっている。バーガンディーはワインレッド、シェルブロンドはシャンパンゴールドに近い色だ。

  • 日産「アリア」

    「リミテッド」専用色のバーガンディー(左)とシェルブロンド(右)

アリアは予約注文の手法もこれまでとちょっと違う。日産車初となるグローバル共通の専用予約ウェブサイトを開設しており、こちらで受付を行っているからだ。

さらに日本国内では、専用会員サイト「クラブアリア」に入会することで、購入検討、予約注文、商談などをデジタルで行うことができる。実店舗での試乗や商談を組み合わせることも可能だ。さらに、クラブアリア会員限定のオンラインイベントやリアルな試乗体験にも参加できる。

  • 日産「アリア」

    「アリア」は販売方法も最先端だ

「クラブアリア」のコンテンツに興味津々

筆者はアリアをすぐに購入したいという状況ではないのだが、気になったのでクラブアリアの会員になってみた。登録は簡単に完了し、すぐに専用サイトに入ることができた。

そこには興味深いコンテンツがいくつもあった。中でも注目したいのは、サイト内で見られるエンジニアやデザイナーたちの言葉。通常、メディア関係者でもない限り、開発者の言葉をじかに聞く機会はあまりないはずだ。

個人的にも興味のあるシニアデザインダイレクターのジオバーニ・アローバ氏の言葉を収録したページでは、インテリアデザインについての言及で、以下のフレーズが目に留まった。

「我々のチームはある段階で、日産アリアにピュアでクリーンな形を与えることに成功していました。しかし私は、今の状態はクリーンすぎると感じていました。まだ何かが足りない。もっと引き込まれるような美しさ、シンプルさと美のバランスが必要だと思ったのです」

「そんな時、ふと日本の伝統的なモチーフを取り入れるというアイデアが降りてきました。日本の家屋が持つ美しさは、電動化されたクロスオーバーモデルとの親和性が高いはずだ。私は、『これを表現するのは今しかない』と確信しました」

外国人のアローバ氏が日本家屋の美しさに着目したことには、日本人のひとりとして素直に感謝したいし、それをEVクロスオーバーに取り入れようという発想には感心するしかない。

いずれにせよ、アリアのデザインが単にシンプルかつモダンなだけではなく、日本車ならではのメッセージが巧みに織り込まれていることが理解できた。「タイムレス・ジャパニーズ・フューチャリズム」というデザインコンセプトが、このコンテンツのおかげでリアルにスッと入り込んできた。

  • 日産「アリア」

    「アリア」のデザインコンセプトは「タイムレス・ジャパニーズ・フューチャリズム」

それとともに筆者は、私たちがクルマを買うという、人生の中でのイベントのひとつが、変わりつつあることも感じた。

個人的にはリアルに販売店に足を運び、試乗したうえで決めたいとは思うが、コロナ禍ではオンライン販売のテスラが欧米で大きく販売を伸ばしたという報道もあり、そうではない人も多くなっていることを実感している。

アリアはデザインやメカニズムだけが新しいのではない。それ以外の部分もまた革新のカタマリであり、新生・日産が全社を挙げて取り組んだ結晶であることが、情報を探っていくほどに理解できる。

日頃からイノベーティブなモノやコトに注目している人ほど、アリアを高く評価するのではないかという気持ちになった。