生命保険会社の大手である日本生命は、企業から預かって運用している企業年金の予定利率を来年2023年4月から引き下げることを決定しました。予定利率は現在の1.25%から0.5%になります。これを受けての企業の対応、ひいては企業年金をもらう我々にどのような影響があるのか、わかりやすく解説します。

  • 日本生命が企業年金の予定利率を引き下げへ、どんな影響があるの?

■企業年金の予定利率とは

企業年金は、公的年金である国民年金や厚生年金の上乗せとして、企業が従業員のために用意する私的年金です。大きく分けて、「確定給付型」と「確定拠出型」の二つがあります。

「確定給付型」は先に給付額を決めて、それによって掛金を算定します。厚生年金基金や確定給付企業年金がこれにあたります。

「確定拠出型」は先に掛金を決めて、給付額は運用結果によって変動します。確定拠出年金の企業型と個人型(iDeCo)がこれにあたります。

●確定給付型・・・先に給付額を決めて、それによって掛金を算定
●確定拠出型・・・先に掛金を決めて、給付額は運用結果によって変動

今回の予定利率引き下げは「確定給付型」の企業年金のことです。

予め約束をしている運用の利率「予定利率」によって、給付額が確定していたものが、この利率が変わってしまうことで、給付額も変わってしまう事態となるわけです。

日本生命は、企業から企業年金の資金を預かって、管理、運用する役割を担っています。現在の運用利率は1.25%ですが、来年の4月からこの利率が0.5%に引き下げられます。つまり、企業がこれを受けて、掛金を積み増さないと、従業員が受け取る年金額が減ることになります。

■予定利率引き下げの背景

そもそも、なぜ日本生命が予定利率を引き下げることになったのか、その背景についても説明しておきましょう。

確定給付企業年金は事業主と信託会社、生命保険会社などが契約を結び、母体企業の外で年金資金を管理、運用をし、年金の給付を行うものです。日本生命と契約している企業は5200社、運用額は5兆6000億円に及びます。

引き下げの理由については、日銀の大規模な金融緩和による超低金利の影響で国債などの利回りが低い状況が長期化し、運用が難しくなっているためと説明しています。

実際の市場金利より高い予定利回りを約束している場合、負債が膨らみやすくなるので、予定利率の引き下げはやむを得ない措置ということでしょう。

企業年金の予定利率をめぐっては、すでに第一生命が2021年10月に引き下げに踏み切っています。日本生命の今回の決定はそれに次ぐものです。今後も生命保険会社などで同じような動きが続くことが考えられます。

■引き下げによる3つの影響

予定利率の引き下げは、どのような影響があるのでしょうか。次の3つが考えられます。

*企業が掛金を積み増す

予定利率が下がれば、給付額が減ってしまうので、企業はそれを補うために掛金を増やさなければなりません。運用責任は企業にあるためです。掛金は従業員の同意があれば1/2を上限として従業員が負担することも可能ですが、原則、事業主負担となります。確定給付企業年金は企業側にとって負担が大きく、業績を圧迫するリスクもあります。

*年金の受給額が減る

確定給付企業年金は会社が運用の責任を負いますが、年金資産の運用や企業の業績が著しく悪化した場合には、給付額が減額される可能性もあります。確定給付企業年金は基金型と規約型があり、今回のような企業と生命保険会社が契約するものは規約型となります。 規約型は会社独自のルールを設定することができるため、会社の一存で制度運営が行われるリスクがあります。年金の受給額の引き下げを回避するためには、労働組合が、会社に定期的な報告を求めて制度運営の情報を入手し、必要に応じて意見の申し入れを行うなど、積極的に関わっていくことが必要です。

*「確定拠出型」への移行が進む

確定給付企業年金は企業が運用の責任を持つため、予定利率の引き下げによるダメージは企業が引き受けなければなりません。そのため、企業としては、加入者が運用の責任を負う「確定拠出型」に移行することで負担を減らすことができます。今回の引き下げによって「確定給付型」から「確定拠出型」への移行が増えるとの見方があります。

信託協会が公表している「企業年金の受託概況」によると、2021年3月末現在、確定給付企業年金の加入者数は 933 万人(前年から7万人減)、確定拠出年金(企業型)の加入者数は 750 万人(前年から 25 万人増)となっています。今回のような予定利率の引き下げが続くと、確定拠出型への移行が促進されるでしょう。

■まとめ

企業年金の予定利率の引き下げは、そのまま加入者の年金額が減ってしまうわけではありません。企業は運用の責任を負うため、まずは企業が掛金を増やして不足分を穴埋めする必要があります。ただ、運用が著しく悪化した場合や企業の経営状況によっては、年金額が減るリスクもあるため、労働組合(組合員となる加入者自身)が積極的に関与して、必要に応じて要求していくことが求められます。