大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)で、梶原善演じる善児が登場する回は間違いなく面白い。第11回「許されざる嘘(うそ)」(脚本:三谷幸喜 演出:吉田照幸)でも少ない出番ながら鮮やかな仕事を見せてくれた。

  • 善児役の梶原善

ついに鎌倉御所が完成、佐殿・源頼朝(大泉洋)が“鎌倉殿”になった。鎌倉殿は「一度口にしたことは必ず守る男だ」と和田義盛(横田栄司)に侍所別当(家人のとりまとめ役)を任せ、安達盛長(野添義弘)、梶原景時(中村獅童)など功労者をちゃんと立てる。坂東武者たちに所領を与えて主従の契を交わすことで関東に独自政権が芽生えたのが治承4年の暮れ。翌5年の2月、平清盛(松平健)が亡くなり、頼朝は平氏完全に滅ぼそうとやる気になる。余談だが清盛が松平健だったのは大河『平清盛』の清盛役・松山ケンイチと合わせて「マツケン」つながりという意味だったのだろうか。

話を戻して。平氏も源氏も血縁を大事にして、そのせいで血で血を洗う争いが起こった。これまでのやり方とは違う血縁だけが優遇されることのない仕組みが築かれたとき、家族の崩壊もはじまる。北条家と源氏の家族関係がぎくしゃくしてきた。

まず、八重(新垣結衣)を巡る家族関係。前夫である頼朝は義時(小栗旬)と彼女を結婚させようとする。八重と義時は叔母と甥の関係だが、当時は近親婚も当たり前だった。これもまた血縁を大事にするゆえであろう。だが、政子(小池栄子)は頼朝の目の届くところにおきたいからではないかと疑う。八重はきっぱり義時との再々婚を断り、義時はショック(このときの大仰な音楽が笑えた)。

一方、鎌倉殿の妻として地位が高くなった政子にりく(宮沢りえ)は嫉妬する。北条家が鎌倉殿と近親になったとはいえ、嫁に来た自分は血縁が薄いのでおもしろくない。2人の関係は嫁姑争いというよりも夫の出世競争にピリピリする妻同士という感じである。

仲の良かった北条家がゆらぎ始めているなか、源氏兄弟は、義経(菅田将暉)が優秀な義円(成河)にライバル心をむき出しにしている。頼朝は義円のことも義経のことも考えているのに、義経はそうとも知らず、ものすごくあからさまに義円を陥れ、叔父・源行家(杉本哲太)と一緒に西に戦いに出してしまう。義円が功を焦って戦死したのは義経に煽られたからだろう。そう思える描き方で、義経がいいとこなしのかなり嫌なヤツに見える。ついでにいえば、行家もひどい(義円がやられているときの表情はなんだ)。

義経は、義円が頼朝に宛てた手紙を破り捨てたところを梶原に見られ、たちまち頼朝に報告される。こんなに義経が残念な人物だなんて……。それにしてもびりびりに破かれた手紙を丁寧に張り合わせたのは誰なのか。梶原か、安達か……。どちらもそういう地道な仕事が似合いそう。

兄弟が力を合わせて……と義経に説く頼朝。本当にそう思っているのか。それとも内心、血縁は跡継ぎ以外、全部、始末してしまえと思っていたりはしないだろうか。兄弟同士潰し合いをさせているとしたらこわい。そういうちょっとわからないところが頼朝にはある。のんきに見えて、かなり用心深く、やるときはやる(残酷)。

政子が懐妊し、男子を望むあまり頼朝のとった行動は感心したものではない。徳を積むために恩赦を行おうと、伊東祐親(浅野和之)を救うことにしたものの、全成(新納慎也)が余計な占いをして事態は一気に悲劇へ――。北条一家の懐妊コントで笑わせておいて、奈落の底に落とすところは三谷幸喜さん、イジワルである。そこでまた暗躍するのが、俺たちの善児だ。

衝撃の出来事に義時は頼朝を責める。だが頼朝は「知らん」と言う。第10回で義円が「ツグミ」は「口をつぐむからツグミと呼ばれているようです」と言っていたのはこのことだったか。自分が命じたとは決して言わない頼朝に「一度口にしたことは必ず守る。おそろしいお方です」と義時は皮肉る。

すべては源氏の跡継ぎ・男子誕生のため。占いによれば亡くなった千鶴丸が成仏するために彼を殺した者を処分する必要があるのに、なぜ善児は放置なのだろうか。

『鎌倉殿』には2大の謎がある。ひとつは、善児が命令に従っただけとはいえあれほど悪事を行っているのに殺されないこと。北条家的には宗時の敵で、頼朝と八重にとっては千鶴丸の敵なのだ。許せないだろう。そして、もうひとつの謎は、八重が生き延びて頼朝を追いかけ続けていること。第10回で義村(山本耕史)は彼女に「先に進んだらいかがですか。せっかく生き延びることが出来たんだ。もったいない」と助言していたから、先に進むことを託されているのだろうけれど。

善児と八重、一筋縄ではいかない2人によって『鎌倉殿』は面白くなっている。ほかの登場人物は歴史に残され小説やドラマにもなって十分描かれてきてあらかじめどうなるか未来がだいたいわかってしまっているから、彼らのように、なんのために? とモヤモヤするキャラがいるからこそ楽しい。物語を存分にかき回し続けてほしい。

さて、第11回の演出はチーフの吉田照幸氏。朝ドラ『あまちゃん』や『エール』で面白いドラマが得意のようなイメージがあるが、BSの『金田一耕助』シリーズでは陰惨なドラマも手掛けていて、それが禍々しくて良いのである。苦味や毒という点では『鎌倉殿』はぴったりではないだろうか。放送開始したときははじめて手掛ける三谷脚本に慣れないところも感じたが、8回、11回とコツを掴んできているような気がして見やすくなってきた。

おそらく最初は主要の人物――北条家と頼朝たちを手厚く、脇役たちをやや薄めに扱っていたが、次第にそれぞれのキャラが認知されはじめ、主要人物たちと同等に扱われるようになってきたことで、三谷作品らしさが色濃くなってきたのだと感じる。梶原善をはじめとして、浅野和之、阿南健治、大泉洋、小林隆、迫田孝也、佐藤浩市、佐藤B作、鈴木京香、西田敏行、新納慎也、宮澤エマ、山本耕史(50音順)など三谷作品の常連たちがポイントポイントで楔を打っていることが効いてきた。彼らの芝居をしっかり撮れば面白くなるので彼らの表情と間をしっかり撮ってほしい。

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