JR東日本は、水素ハイブリッド電車FV-E991系「HYBARI」の報道公開を2月18日に実施。試験車両として新製されたが、営業車両を意識した車内設備で、シートデザインなどにもこだわりが見られる。撮影した写真とともに、「HYBARI」について紹介する。

  • JR東日本の水素ハイブリッド電車FV-E991系「HYBARI」

水素ハイブリッド電車「HYBARI」は、水素を燃料とする燃料電池と、蓄電池を電源とするハイブリッドシステムを搭載した試験車両。水素はさまざまな原料や再生可能エネルギーを活用して製造でき、エネルギーとして利用する際は二酸化炭素を排出しないという優れた環境特性があり、脱炭素社会の実現をめざす次世代の鉄道車両として開発された。

総合車両製作所「sustina」ブランドの次世代ステンレス車両で、1号車が「FV-E991-1」(制御電動車)、2号車が「FV-E990-1」(制御付随車)の2両編成(1M1T)。1号車の床下に日立製作所の主回路用蓄電池(バッテリー)と電力変換装置(コントロールユニット)、2号車の床下にトヨタ自動車が開発した燃料電池装置を搭載している。水素貯蔵ユニットは2号車の屋根上に設置された。

「HYBARI」の寸法は1両あたり車体長さ19,570mm、車体幅2,800mm、屋根高さ3,620mm。2号車は屋根上に水素貯蔵ユニットを載せているため、低屋根構造(高さ3,510mm)となっている。床面高さは1,130mm。1号車は39.2トン、2号車は37.3トン。最高運転速度は100km/h、加速度は「α=2.3km/h/s」、減速度は「β=4.2km/h/s」とのこと。

  • 車体全体をブルー系のカラーリングとし、「HYBARI」のロゴを掲出している

エクステリアデザインは、燃料電池の化学反応で水が生み出されることにちなみ、車体全体をブルー系のカラーリングとしている。デジタルをイメージしたデザインを取り入れることにより、スピード感と未来感も表現したという。車体前面・側面に掲げられた「HYBARI」のロゴは鳥のひばりをモチーフとしており、ひばりが大地に春の息吹を吹き込むように、車両に新しいエネルギーを吹き込むイメージをデザインした。

「HYBARI」は試験車両のため、一般の乗客を乗せて走る予定はないが、インテリアデザインは営業車両を意識した仕上がりになっている。シートは自然のエネルギーを感じさせるグリーン系を基調に、水をイメージしたブルーを組み合わせ、大自然の山並みを表現。鳥の飛び交う様子「HYBARI」のロゴで表した。床面は濃いブルーで山間の小川に見立て、燃料電池によって生み出された水が自然にかえる様子をイメージしたという。

1・2号車ともに運転台側の座席を優先席とし、シート・床面ともに一般座席とは異なる色分けとしている。連結部付近に車いす・ベビーカー利用者向けのフリースペースも設置した。その一方で、トイレがなく、車内の窓にカーテンを用意した点は試験車両らしさを感じさせる。2月上旬、「HYBARI」が武蔵中原駅まで輸送され、車両基地の鎌倉車両センター中原支所へ自走した際も、カーテンを閉め、車内を見られないようにしていた。

  • ロングシートの車内。大自然の山並みと飛び交う鳥をイメージしたというシートデザインも特徴。フリースペースも設置している

  • 車内の窓にカーテンも

  • エネルギーフローを示す車内情報表示器

  • 「HYBARI」1号車の運転台

2号車の天井を1号車よりやや低くしている点も、試験車両ならではの特徴といえる。水素貯蔵ユニットを屋根上に載せたこともあり、国内の規格に合わせたコンパクトな車両にするための工夫が見られた。1・2号車に1台ずつ、エネルギーフローを紹介する車内情報表示器を設置しており、水素ハイブリッド電車における電力の流れを車内で確認できる。「HYBARI」は燃料電池で発電した電力とバッテリーの電力で走行可能だが、車内を公開している間は燃料電池を使わず、バッテリーの電力だけで稼働している状態だった。

運転台については、燃料電池等のシステムを起動・停止するボタンを搭載しつつ、全体的には特別な操作を行うボタンを極力排除し、ヒューマンエラーを起こさないよう配慮した設計になっていると説明があった。なお、保安装置は「ATS-P、ATS-SN、デジタル列車無線、EB・TE装置、防護無線(自動発報装置)」とのこと。

水素ハイブリッド電車FV-E991系「HYBARI」は、3月下旬から実証試験を開始する予定。試験区間は南武線川崎~登戸間と南武線支線(浜川崎~尻手間)、鶴見線とされている。

  • 水素ハイブリッド電車FV-E991系「HYBARI」の車内・外観