双方が10代の記念対局は史上初

第52期新人王戦の記念対局が行われ、その模様が1月2日に放映されました。新人王戦優勝者は時のタイトル保持者と記念対局を行うことが恒例になっています。今期の新人王は伊藤匠四段で、藤井聡太竜王に挑むことになりました。結果は98手で藤井竜王が貫録を示しました。

■同学年の新人王記念対局は4度の前例

両者はともに2002年度生まれの同学年。記念対局が同学年同士の棋士で行われるのは第14期の谷川浩司名人―中村修新人王、第25、26期の羽生善治竜王・名人―丸山忠久新人王、第27期の羽生善治名人―藤井猛新人王という4度の前例がありますが、10代同士での記念対局は今回が初となります。10代で新人王戦を制した伊藤四段も凄いのですが、同じ年齢で迎え撃つ立場になる藤井竜王の凄さがよりクローズアップされます。

本局は伊藤四段の先手から相掛かりとなりました。相掛かりは最近の流行戦型ですが、本局は15手目の▲1六歩から早くも前例が無くなっています。以下、藤井竜王が後手番ながら端を絡めて先攻しました。対して伊藤四段も後手の攻めを軽くかわします。ですが、桂馬の当たりをかわした▲9六香がどうだったか。難しい局面での手渡しとしては一理ありそうな順ですが、本局では藤井竜王がそのスキを見逃しませんでした。△9八角と桂取りに打ったのが厳しい一着です。これは▲8八金と寄った手が桂馬にひもをつけつつ、打ったばかりの角を捕まえているようにも見えますが、そこで△8九角成の強手がありました。▲同金に△7七飛成で藤井竜王が先手陣の突破に成功します。相居飛車の将棋では多少の駒損があっても、先に敵陣へ竜を作ったほうが有利とも言われていますので、ここで藤井竜王の優位が確定したと言えるでしょう。

■藤井竜王が完勝

対して伊藤四段はもらった角を後手陣へ打ち込み、馬を作っての反撃を試みますが、64手目の△9五竜が辛い一着。直前の金取りを放置した手ですが、なんとこれで先手の馬の行き場所がありません。馬と金を取り合った局面は、駒の損得こそほとんどありませんが、持ち駒の数が段違いで、先手が後手陣を攻略するのは困難ですが、後手は盤上の竜を軸に攻めの足掛かりを作れば、先手がそれを受ける術がありません。以下も藤井竜王が的確に勝ち切りました。

本局は藤井竜王のいいところばかりが出た将棋となりましたが、伊藤四段もまだ若く、これからに期待がかかります。何といっても10代で新人王になったのは羽生善治九段、森内俊之九段の両永世名人をはじめ、直近でも藤井竜王など、この優勝を弾みとしてさらに飛躍した棋士が多くいます。あるいは両者によるタイトル戦も早くに実現するかもしれません。

対局者双方の年齢を足した数字が若いタイトル戦というと、1990年の第57期棋聖戦での屋敷伸之棋聖(18)―森下卓挑戦者(24)、1993年の第34期王位戦での郷田真隆王位(22)―羽生善治挑戦者(22)などといった例があります。将棋界の新時代を担う2人が、この数字を更新するでしょうか。注目です。

相崎修司(将棋情報局)

記念対局を制した藤井竜王
記念対局を制した藤井竜王