オークラ:オードリーも東京03みたいに自分たちの表現の仕方で悩んで、“ズレ漫才”というのを作り上げたと思うんですけど、彼らの進化というのはその先だったと思うんです。テレビと初めて向き合ったときに、東京03はコントライブに行ったけど、オードリーはテレビから逃れることができなかった。何も変わらないテレビ業界と向き合って、唯一のオアシスであるラジオで気持ちを吐露しながら、今の若林くんが形成されていった。

木月:そこを経ての『バチくるオードリー』ですから。

オークラ:たぶん、若林くんって今、自分のやるべきお笑い番組についていろいろ考えている時期じゃないかと…

  • 『バチくるオードリー』(フジテレビ系、1月1日23:30~) (C)フジテレビ

――現在のオードリーさんの番組は企画が立っている内容が多いですが、『バチくるオードリー』で何でもできる場を持てたというのは、やはりうれしそうですか?

塩谷:この間の『バチくる』の収録終わりでは、「夢のような1日でした」って言ってましたもんね。

木月:今回(1月1日放送)は、オードリーの漫才で春日さんの役割を他の人にやってもらい「カス-1グランプリ」という企画をやります。若林さんが錦鯉の長谷川(雅紀)さん、ハリウッドザコシショウさん、アルコ&ピースの平子(祐希)さんを相手にやるんですけど、ベースの漫才はありながらも、そこからの展開は完全にアドリブでしたね。すでにネットニュースで報じられていますが最近、若林さんが欽ちゃん(萩本欽一)とラジオ収録したときに「大好きなコント55号のネタをください」と直訴したと。この辺の若林さんと欽ちゃんとのリンクが面白くて。コント55号のネタは基本設定が決まっている以外はアドリブで進行していたらしく、それと同じで若林さんも最近アドリブ多めで漫才をやっていく感じを楽しんでいる気がするんです。前回の「とんでもない人生を送っている人とプロのツッコミが漫才したらバチーンときそう!」でも、ヒモ生活13年の男性とほぼ合わせずにアドリブでネタをやってましたし。

オークラ:だから『バチくる』は、『欽ドン!』とか『欽どこ(欽ちゃんのどこまでやるの!)』みたいな番組にしてもいいんじゃないかと思うんですよ。欽ちゃんって挑戦者に信じられないムチャブリをして、それによって自分も応えるという形だったじゃないですか。若林くんも投げっぱなしじゃなくて、それがはね返ってきたときに自分がどう受け答えするかというのが欽ちゃん的でもあり、新しいですよね。そういう形の企画をやっていきたいな……なんか企画会議みたいになっちゃいましたけど(笑)

木月:いいですよ、ここで会議しましょうか(笑)。あと、『バチくる』には“過去の自分にタイムスリップして悩みを吐露する”というのが、全体的な匂いとしてありますよね。

オークラ:やっぱり若林くんが常に自分と対話してるイメージがあって、「現状に腹立つな、でも自分も悪いんだな」というのを延々とやり取りして、そこから毎回答えを絞り出している感じがするんです。だから、他の人も強烈に共感してくれるし、先輩たちも自分の苦労を若林くんに言いたくなるんじゃないかな。そういう若林くんが抱えてきた苦悩をバラエティーショーに持っていくというのができればいいですよね。何度も言いますが、あくまでも推測の話ですが…

木月:前にOAした「ピュアな芸人が作詞したラブソングをプロのミュージシャンが作曲したらバチーンときそう!」もそういう企画でした。

■裏テーマは「東京芸人連合」

――若林さんが泣いてしまった企画ですね。改めまして、元日の『バチくるオードリー』の見どころとしては、いかがでしょうか?

塩谷:裏テーマは「東京芸人連合」ですかね。

オークラ:先輩がおらず、オードリーの仲の良い世代しか出てこないです。そういうノリの番組って、ありそうであんまりないですよね。

木月:そうですね。ハライチの岩井(勇気)さんとか、平子さんとか、トム・ブラウンさんとか。

オークラ:40代になっても、やりたいことができる。しかも自分たちがプレイヤーになってというのがいいですよね。

木月:スタジオでVTRを見るんじゃなくて、完全に自分たちが中に入ってやりたいという感じなんですよね。

――オードリーさんは企画段階から結構関わっているのですか?

オークラ:そうですね。企画は若林くんと打ち合わせして、彼らのやりたいものをやれればいいと思っています。若林くん発案の企画もいっぱいありますね。

木月:「カス-1グランプリ」もそうですし、ロケ苦手なオードリーさんと岩井さんが達人のなすなかにしさんに教わるというのもそうですね。ぜひ楽しんでいただければ。

  • 若林正恭(左)とアルコ&ピース・平子祐希=「カス-1グランプリ」より (C)フジテレビ

次回予告…~東京芸人を知る裏方編~<2> お笑いライブから日曜劇場まで…オークラ氏の流儀

●オークラ
1973年生まれ、群馬県出身。97年にプロダクション人力舎に入って芸人として活動し、その後放送作家に転向。バナナマン、東京03の単独公演の初期から現在まで関わり続け、『トリビアの泉』『はねるのトびら』『そんなバカなマン』『とんぱちオードリー』(フジテレビ)などを担当。現在は『ゴッドタン』(テレビ東京)、『バナナサンド』『週刊さんまとマツコ』(TBSテレビ)、『バチくるオードリー』『関ジャニ∞クロニクル』(フジテレビ)、『バナナマンのバナナムーンGOLD』(TBSラジオ)などを担当する。近年は日曜劇場『ドラゴン桜2』(TBSテレビ)の脚本のほか、乃木坂46のカップスターWeb CMの脚本監督なども手がけ、21年12月に著書『自意識とコメディの日々』を出版した。

●塩谷泰孝
1977年生まれ、福島県出身。日大東北高校卒業後、『ガチンコ!』 (TBSテレビ)の番組ADを担当。27歳で制作会社・シオプロを設立し、『リンカーン』『神さまぁ~ず』『ヒムケン先生』『バナナサンド』 『オオカミ少年』(TBSテレビ)、『コレアリ』(日本テレビ)『ゴッドタン』『ウレロ☆シリーズ』(テレビ東京)、『そんなバカなマン』『とんぱちオードリー』『ウンナン出川バカリの超!休み方改革』『バチくるオードリー』(フジテレビ)、『日村がゆく』(ABEMA)などを担当する。

●木月洋介
1979年生まれ、神奈川県出身。東京大学卒業後、04年にフジテレビジョン入社。『笑っていいとも!』『ピカルの定理』『ヨルタモリ』『とんぱちオードリー』などを経て、現在は『新しいカギ』『痛快TV スカッとジャパン』『今夜はナゾトレ』『キスマイ超BUSAIKU!?』『ネタパレ』『久保みねヒャダこじらせナイト』『出川と爆問田中と岡村のスモール3』『バチくるオードリー』『人間性暴露ゲーム 輪舞曲~RONDO~』などを担当する。