俳優の吉沢亮が主演を務める大河ドラマ『青天を衝け』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)第35回は、女たちの大河だった。

  • 大河ドラマ『青天を衝け』第35回の場面写真

サブタイトルは「栄一、もてなす」(脚本:大森美香 演出:田中健二)ではあるが、アメリカ使節ユリシーズ・グラント夫妻をもてなすのは夫人たち。栄一(吉沢亮)の妻・千代(橋本愛)、喜作の妻・よし(成海璃子)、大隈重信夫人・綾子(朝倉あき)、井上馨夫人の武子(愛希れいか)、大倉喜八郎夫人の徳子(菅野莉央)、益田孝夫人・栄子(呉城久美)が集まって、「Here we go!」と英語の掛け声でもてなし準備をはじめる。まずは欧米の文化を学ぶ。笑う時に歯を見せること、握手、ハグ……慣れない行為にいちいち驚く女性たち。でも「おなごも変わらなくてはならねえ」と千代の決意は固かった。

ここでおもしろいのは夫人たちの会話だ。

「髷って粋だったわよね」
「明治男の髭もいや」
「御一新前の男はさっぱりとして美しかったわ」
「芸は売らども操は売らず 泥の中にも蓮の花」
「やだ まさか 幼い頃から思い合っていたとか」「きゃあ」
「なんと甘酸っぱいんでしょ」
「いやまさに開明よ」

西洋式の椅子に座ってかしこまっていた千代たちは、いつの間にか床に直に座り、リラックスしてきゃっきゃうふふとおしゃべりに花を咲かせる。大河ドラマは男たちの戦いを描くものというイメージが強い。戦いとは剣を交えることのみならずスケールの大きな仕事に従事することも含まれる。だが歴史を作ってきた男たちの物語を影には必ずそっと寄り添う女性たちがいる。大河ではまれに彼女たちが本音を漏らすおもしろいセリフが発せられる。

例えば、『真田丸』(2016年/三谷幸喜脚本)の第4回の女子トークで語られた「さみしさが募るとかかとがかさかさになる」。または『おんな城主 直虎』(2017年/森下佳子脚本)の第20回の女子トークの中で出てきた「なんという二枚舌。おのれ、すけこましが。我らは共にみごとにすけこまされたということでございましょう」が衝撃的だった。

『真田丸』と『直虎』は男性に対する愚痴で、『青天を衝け』も最初は男性の西洋化の愚痴のようだったがそこから自分たちの萌え語りになる。どれもかなり現代口語になっているとはいえ、きっといつの世でも女性たちが集まったら男性たちへの愚痴もあればあの人かっこいいというようなことを語り合っていたであろう。そんなシーンがあると大河ドラマも息抜きになる。ただし、それ以外の主たる部分をしっかり描いてこそ楽しい会話シーンも評価されるのだ。

こうしてユリシーズ・グラント夫妻を男性陣も女性陣ももてなしまくる。夫人たちは和装、洋装、思い思いの正装を着用する。西洋のウエストがぎゅっとしまったドレスを着た者は「女はもうほんとに苦労だわ」と嘆く。着物の帯も相当苦しい。洋装でも和装でも女性は体を締め付けがち。欧米では歩きづらい靴(千代いわく「小さな器」)も履かないとならない。それもこれも機能よりも美を優先している。「西洋の男性は女性にカインド」とはいえ「女を飾りとしてしか見ていない」との指摘は鋭く、それが現代の#KuToo運動につながっていくのだなと感じた。