千代は飾りとして男性と共に公的な場に出るのではなく、むしろ奥の仕事で力を発揮する。グラント夫妻が栄一の家にも来ることになって、準備中だった飛鳥山邸を急遽、整えた。その時も千代が活躍する。
千代「ぐるぐる致します」
栄一「ぐるぐる?」
栄一の口癖が千代にも移った。どんなに張り切って働いていても千代は栄一の妻として尽力していることが感じられる。常に千代は栄一を熱い眼差しで見つめている。彼の一挙一投足を見逃すまいとするように。だから「ぐるぐる」も使用してみるし、栄一が海外視察に行ったとき、一番印象に残った食べ物は「ポトフ」だったと言うと、血洗島の地元の味・煮ぼうとうを用意して、グラント夫妻を喜ばせる。
グラント氏はものすごくもてなされていたが、大統領ではないので日本に有利に働きかけることはできないと栄一に語っている。長い期間、使節としてアメリカから離れて疲れているうえ、自分がさほど役に立たないと後ろめたさは精神的な疲労にもなるだろう。そんな時、あたたかい家庭料理を出されたら、どんなにかホッとしたことか。また、千代がこれまで磨いてきた審美眼が調度品選びにも役に立つ。きれいにして男性の横に立っても立たなくても、家の中のことのスペシャリストになることだって素敵なことだと千代は物語るようだった。
千代の働きに感激した栄一は「おめえはすげえ」「かけがえのねぇ奥様だ」と「惚れ直した」と抱きしめる。決して出しゃばることなく栄一の仕事に最大限協力する千代。こういう描き方であれば女性の大河は……と男性視聴者が興味を失くすこともないだろう。むしろこういう妻がいてほしいと思うのではないだろうか。
北区にある飛鳥山邸の曖依村荘と呼ばれた屋敷は、栄一が関わった王子製紙の工場のそばに最初は別荘として作られた(1878年、明治11年)。内外の賓客を招く公の場として活用され、本邸として家族で暮らすようになったのは1901年。史実から言えば千代が飛鳥山邸で過ごす時間は長くはない。次回「栄一と千代」。どきどきします。
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