大河ドラマ『青天を衝け』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)で主演を務め、今月8日にクランクアップを迎えた吉沢亮。主人公・渋沢栄一を演じた約1年4カ月は俳優人生においてどのような経験になったのだろうか。
渋沢栄一は約500の企業を育て約600の社会公共事業に関わるなど、数々の功績を残した“日本資本主義の父”。13歳から91歳まで、約1年半かけて演じた吉沢は「ずっと無我夢中でした」と言い、役が染み込む大河ならではの感覚を味わったと明かす。また、徳川慶喜役の草なぎ剛との共演も大きな経験になったようで、「同じ仕事をしている人間としてすごいなと思うことばかりで、たくさん刺激をいただきました」と語った。
――約1年4カ月にわたって栄一を演じ、大河ドラマの大変さや面白さをどのように感じていますか?
一番大変だったのはセリフ量です。栄一がめちゃくちゃおしゃべりというのもあるのですが、とんでもないセリフ量を短期間で覚えて一気に消費することを1年以上繰り返すというのは、ほかの現場では味わえない苦労がありましたが、役者としての基礎が鍛えられた気がしています。また、1年半くらいかけて1つの役をこの濃度で演じ続けることで役が染み込み、何もしなくても栄一として立っていられる安心感というか、自分が積み上げてきたものがちゃんと形になっていると感じられ、すごくうれしいし、ほかではなかなか味わえないなと思いました。
――13歳から栄一を演じられ、最後は91歳まで。27歳の吉沢さんにとって未知の年齢ですが、晩年を演じる際に意識したことを教えてください。
難しかったです。年齢感を意識しすぎると栄一としてのエネルギー、勢いが落ちてしまうので、監督と相談しながら演じました。言葉のスピードや声質、体の動きなど、年を取っているという芝居を細かく作っていますが、1話から続いている栄一のエネルギーは最後まで続くように、そこを一番に考えました。
――晩年まで演じられた今、渋沢栄一さんをどのように捉えていますか?
演じる前は、素晴らしい功績をたくさん残されたすごい人だと思っていましたが、実際にお芝居をしていると、世の中を変えないといけないというパワーを持ったスターが栄一の周りにたくさんいるんだなと。慶喜だったり、円四郎さんも栄一からしたら理想的なお武家様で、栄一はそういう人たちが時代の波にのまれていく瞬間や、何かが生まれて何かが終わる瞬間をずっと横で見てきた人物。いろんな人にいろんなものをもらった人物なんだろうなと思いました。
――役が染み込む感覚になったということですが、役はすぐに抜けそうですか?
わからないです。終わったらすぐ切り替えられるタイプなのですが、これだけ長いこと演じ、いろんな年齢のお芝居をしてきたので、等身大の27歳を完全に忘れている気がします(笑)。一気に老けないか不安がありますが、全力で切り替えて次の役に向かわないといけないなと思っています。
――大河ドラマの座長という大役を経験されて、ご自身の中で変化や成長は感じていますか?
ずっと無我夢中で、余裕を感じる瞬間はそこまでないです。人もどんどん変わるし、年齢もどんどん変わっていくので、栄一を演じる中で人との関わり方や声の質など、いろいろ変えていく。やらなきゃいけないことは最後まで変わらないので、結局、無我夢中なんです(笑)。でも、長台詞をしゃべることがすごく多く、そのリズム感や技術的な部分は身になっていると思います。
――大河ドラマの主演と聞いた当初、本当は戦国武将を演じたかったという気持ちはありましたか?
織田信長など、いわゆる日本の歴史上のヒーローに対する憧れはもちろんありましたが、知らなかった人物を深く知れるというのもこの仕事の醍醐味だと思います。渋沢栄一さんって聞いたときに、お札になる人くらいの認識しかなかったので、そこからいろんなものを探ってどんな人物なのか知って、さらにお芝居をしていく中で見え方が変わり、人は一面じゃないと痛感する瞬間があったので、渋沢栄一さんを演じられたことは何よりもうれしかったです。