9月14日から15日にかけ、コミュニケーションロボット「Sota (ソータ)」を用いた実証授業を行った台東区立上野中学校。全国でも珍しいこの取り組みは、子どもたちにどのような学びを提供できるのだろうか。同校およびプログラミング教育ツールを開発したゼッタリンクス、そしてNTT東日本に話を伺った。

  • 「Sota (ソータ)」を用いた実証授業を行った台東区立上野中学校

コミュニケーションロボット「Sota (ソータ)」とは?

「Sota (ソータ)」は、NTT東日本が展開するクラウド型ロボットプラットフォームサービス「ロボコネクト」に対応した、ヴイストン社製のコミュニケーションロボットだ。インテリジェントマイク技術による明瞭な集音によって、日本語や英語などで人と会話することが可能。また声色を変えたり、ロボコネクトを利用して3体までロボット同士での掛け合いをしたりもできる。

デザインはロボットクリエイターの高橋智隆さんが担当しており、色はオレンジ・ネイビー・ライトブルーの3色。身長は28cmで、持ち運びや収納もしやすい。ロボットに興味が薄い子どもたちからも「かわいい」と評判で、興味・関心が非常に高いという。

  • かわいらしいデザインと扱いやすいサイズでロボットに興味のない人も親しみやすいSota

すでに公共交通機関のインフォメーションやホテル・オフィスの受付、介護現場でのレクリエーションなどで活躍しており、コロナ禍においてはSotaを使って検温を促すことで協力者が2倍に増えたネットカフェもあるそうだ。

この「Sota」を利用したプログラミング教育ツール「Sotaとはじめるプログラミング」を開発したのがゼッタリンクス。2019年からNTT東日本とともに実証実験などを行っており、2021年から始まる中学校のプログラミング教育必修化を見据えた取り組みを進めていた。代表取締役の山田邦裕氏は、Sotaを教育に活用した理由を次のように話す。

「Sotaは実際に実世界で活用されていることに魅力を感じていました。これまでのプログラミング教育では、おもちゃのようなものや、画面上だけで動くゲームのような教材が多く、あまり興味を持てない子もいたのではと思います。ですがSotaは子どもたちの関心を引き起こしやすく、また実用を想像しやすいのです。我々は学校の中だけでなく、実際の社会に関わりながらプログラミングを学ぶことを目指しておりますので、Sotaは非常に有用なツールだと思いました」(ゼッタリンクス 山田氏)。

  • ゼッタリンクス 代表取締役 山田邦裕 氏

上野中学校が実証授業の現場になったワケ

Sotaの大きな特長のひとつは、多言語でコミュニケーションが行えること。今回の実証授業は、その特性を活かした使い方の提案と訴求にあるという。山田氏は、「身近で英語を話す機会は、外国人観光客の案内がもっとも多い」と考え、東京の観光案内を授業にできないかと思案していた。

そんなとき、山田氏のお子さんが中学生だったころ関わりのあった上原一夫氏が、台東区立上野中学校で校長を務めていることを知る。上原氏はもともと、新学習指導要領にともなう授業改善を模索しており、山田氏の提案に賛同。2021年4月から、実証授業に向けた取り組みが動き始めた。

「いままでの学校教育で行われてきた"教え込み"からの脱却が大きなキーワードです。順序立ててプログラムを組み、指示を出すことによってロボットを動かすことによる論理的な思考、あるいは試行錯誤が大きな目的です。なによりも子どもたちは我々が思っている以上にAIに対する関心が高い。つまり主体的に学べる題材なのです。そして、なにか形にできるのであれば、表現力も養うことができます。山田さんから実証授業のお話を頂いたときは『しめた!』と思いました」(上野中学校 上原氏)。

  • 台東区立上野中学校 校長 上原一夫 氏

学校がやりたいことはたくさんあっても、現代の教員は非常に多忙でやれることには限りがある。教員が学び、教えることは非常に難しいが、多くの人のバックアップによってそれを実現する今回の取り組みは、教育を肉付けしていく一助になると考えたそうだ。

安定した通信環境が授業のカギ

ゼッタリンクスにおいても、英語とプログラミングをかけ合わせた教科横断型の授業は初の取り組みだったという。ロボットと英語に関連性を持たせるために、子どもたちにSotaが実際に活躍しているビデオを見せたり、上野公園に外国人観光客が来たことを想定した事前授業を行ったりしたそうだ。実は前職が塾の英語講師だというゼッタリンクスの高橋氏は、今回の実証授業における上野中学校の熱意に驚いたと話す。

準備段階で懸念されたのは、学校の通信環境。外部スタッフが学校のネットワークに入ることは難しいので、当日はモバイルルーターを持ち込んだという。それでも繋がらない可能性があったため、前日には一度校内に入り、Wi-Fiの実験も行われている。

「以前であれば授業でなにかデジタル作品を作れば良かったのですが、学習指導要領が変わり、ネットワークを利用して双方向性のある授業が求められるようになりました。Sotaはネットを介して繋がるロボットなので、非常に理にかなった授業だと思います。ですが、通信に障害があればそもそも授業になりません。そんな体験になっては子どもたちがかわいそうなので、通信環境には気を配りました」(ゼッタリンクス 高橋氏)。

  • ゼッタリンクス 高橋裕生 氏

NTT東日本の岸氏は、「通信環境については、本来は光回線が望ましいのですが、それが難しい今回のような場合は複数のモバイルルーター等での対応で通信環境を担保いただいています」と補足する。

  • NTT東日本 ビジネス開発本部 岸美津子氏

さらに上野中学校の盛氏は、「今回、学年教員7名が関わりましたが、このような授業は全員が初めてです。全員が同じ方向を向くためにマニュアル作りから始め、どれだけのコマ数を割り振るかなど、一から作り上げましたので、苦労と同時にやりがいもありました」と授業の準備について語る。

  • 台東区立上野中学校 主幹教諭 盛雅央 氏

上野中学校の上原氏はこれを受け、「今回は6台のSotaをご用意いただいたおかげで、子どもたちがみな手に取ることができました。これは極めて大きなことです。頭で考えるだけでなく、実際に操作し、楽しさや協力を体験できたからです。6人、そしてバックアップとしてそれ以上の方がご協力くださったからこそ、なしえた授業だと思います」と改めて感謝の意を表した。

それぞれの立場で新たな発見があった実証授業

こうして9月14日、15日、無事に実証授業が開催される運びとなる。当日の詳しい様子は、マイナビニュースの記事「中学生がロボットと挑む英会話×プログラミング授業 『パズルみたいで楽しい』」で紹介しているので、ぜひご一読頂きたい。実証授業を振り返って、上野中学校の上原氏はその感想を話す。

「上野は外国人も多い場所ですし、もともと地域学習もやっていました。だが極めて英語が難しかった。正確な英文を作り、正確な発音をしないとうまく動かない。英語をしっかり学ばないと苦しいということを子どもたちはまさに思い知らされたと思います。また機械は正しく操作しなければ動かないことも学んだでしょう。これは教員では対応しきれないことです」(上野中学校 上原氏)。

  • 9月14日、15日にかけて行われた上野中学校の実証授業

また、ゼッタリンクスの高橋氏は子どもたちの反応を見て次のように所感を述べた。

「想像以上に子どもたちが授業に前向きで驚きました。英語の発音によっては認識されないこともあったのですが、『しっかり発音しないとプログラムは認識してくれない』と伝えたところ、いわゆる"ジャパングリッシュ"のような発音も減りました。通常の英語の授業に活かしても良いのかもしれませんね」(ゼッタリンクス 高橋氏)。

  • 班ごとに協力して英文作成とプログラミングに臨む生徒たち

実際に授業を受けた上野中学校の2年生からも感想を聞くことができた。彼ら、彼女らはどのように感じたのだろうか。

「もともとPCを使うことが好きだったので、とてもうれしい気持ちで授業を受けました。Sotaくんに動きを覚えさせたり、班のみんなとどういうことを伝えたいのか一緒に考えるのが楽しかったです。『英文を考えてプログラミングを行うのは難しそう』と感じていたのですが、周りの人のおかげで思っていた以上に楽しむことができました。将来どんな職業を目指すかは決めていないのですが、私たちの世代で必要とされるプログラミングを学べましたし、外国人に日本を紹介する立場についたときに今回の授業が活かせると感じました」(上野中学校 女子生徒)。

「実際にロボットを動かしてみたいという気持ちと、プログラミングをどのように行うんだろうという不安が最初はありましたが、プログラムによって思い通りにSotaくんを操作できるのが楽しかったです。外国人との会話として成り立たせるために、できるだけ相手の回答が短くなるようにプログラミングを工夫しました。また英語の文章や発音をしっかりしていないと動かなかったので、英語の基礎知識も必要だと気づきました。今回の授業は、プログラミングの職業に就いたときだけでなく、段階を踏んで考える力にも繋がると思います」(上野中学校 男子生徒)。

  • 実証授業を振り返ったアンケートの結果(一部抜粋)から、多くの生徒が楽しさを感じたこと、プログラミングに悪戦苦闘したことが伺える

プログラミング授業で養われる力とこれからの教育

さまざまな大人が関わり、大きな成果を収めた今回の実証授業。最後に、今後の展望と活動、そしてこれからの教育について、授業に関わった方々からのメッセージを紹介しよう。

「Sotaの特性である"実用品"という点を活かし、子どもたちの作ったものが実社会の中で役立つような授業を作っていきたいと考えています。例えば、今回作ったものが役所や観光案内所で実際に利用されるような形ですね。そうすれば、子どもたちは自分たちの作ったものが社会の役に立つとわかります。そのためには大人も積極的に関わっていく必要があるでしょうし、それによって実社会で活躍するプロの方と子どもたちが触れあう機会にもなるでしょう。地域社会の中で学ぶ、そんなプログラミング教育を展開したいと思います」(ゼッタリンクス 山田氏)。

「プログラミング教育は、ネットワークやプログラムを学習すると同時に、論理的思考を育むものです。ですが現場の先生方には、プログラミングという言葉に縛られてしまう方もまだまだいます。今後はこういった授業スタイルが日常的に存在しなければならないと思いますし、我々の活動を通して、プログラミング教育が思考力を養成できることを伝えていきたいと思います」(ゼッタリンクス 高橋氏)。

「教育の現場には、いろいろな仕事をされている方々の大きな力が必要だと思っています。ネットワークやハードウェア、ソフトウェアなどいろいろな知識がひとつになって、今回の実証授業が実現できました。技術面では"おんぶに抱っこ"状態でしたが、どうすれば2時間で完結するか、そのためにはどんな準備が必要か、生徒に寄り添う形で考えることができたと思います。我々も本当に勉強になりました」(上野中学校 盛氏)。

「非常に優れた実証授業になりましたが、やはり教員だけでは到底やりきれません。NTT東日本さん、ゼッタリンクスさんの協力がないと実現は不可能でした。大人のみなさんには、『ぜひ持ってらっしゃる得意分野を教育に活かしてください』とお伝えしたいです。一緒に生徒を育てましょう。保護者のみなさんの中にも多くの人材がいらっしゃるでしょう。そういう方々と一緒にこれからも良い授業を実施していきたいと思います」(上野中学校 上原氏)。