3日に放送された大河ドラマ『青天を衝け』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)第29回は、第14回以来15回ぶりにサブタイトルが“栄一”に戻った。「栄一、改正する」(脚本:大森美香 演出:田島彰洋)は明治2年~4年までの渋沢栄一(吉沢亮)の活躍を軽やかに描いた。栄一の達者な話術もますます冴え渡った。大河ドラマは戦国ものが好まれ近代ものは見る人を選ぶと言われてきたが『青天を衝け』は江戸時代から明治になっても人気を保っている。それはなぜか。第29回でいうと2点の強みがあった。

  • 大河ドラマ『青天を衝け』第29回の場面写真

第一は、現代の企業モノのような雰囲気があり見やすいこと。魅力的なキャラクターによる会話も楽しい。第二は、人間の善意に訴える道徳的な安心感である。渋沢栄一役の吉沢亮が明るく実直で才気煥発で老若男女に愛され、従来の大河ドラマファン以外の新しい層を呼び込んでいるのではないだろうか。洋装が華やかなのもいい。

第29回で主に描かれたのは明治2年の改正掛の発足と明治3年の富岡製糸場建設準備、明治4年、東京~大阪間で官営の郵便事業開始である。

栄一は新政府に出仕するとさっそく、「改正掛」という大蔵省や民部省や外務省の垣根を超えて大事なことを決定する部署を作ろうと提案する。経済、外交、技術に関する新しい知識をもった能力のある者たちを集めるために異国で学んできた旧幕府の人たちを呼ぼうと考える。こうして杉浦譲(志尊淳)、前島密(三浦誠己)、赤松則良(上村海成)らが呼ばれる。「直参なめんなよ、この野郎」と強気な栄一。吉沢亮の「この野郎」の言い方が江戸っ子のような気風の良さで心地いい。栄一は血洗島出身だが、世話になった恩師・平岡円四郎(堤真一)に影響されている印象がある。

旧幕臣の栄一が先導することが気にいらない者たちもいるが、会議は白熱、「租税の改正」「貨幣」「丈量」「測量」「度量衡」「メートリック」「駅逓」「戸籍の編纂」「殖産興業」「飛脚」「電信」……と様々な単語が飛び交い意見が交わされ、栄一は「いいぞ もっとだもっと来い!」と熱くなる。猛スピードで栄一は改革していく。「さてと時が足りねえ!」と頼もしい。

生糸の生産を行うため富岡製糸場を作る役目も、お蚕様の知識がある栄一が抜擢される。このときのお蚕様がいかにすばらしいものか語る場面も蚕の姿が見えるような生き生きした話術だった。これだけ口跡良く鮮やかに語れる俳優もなかなかなく、語りで説得する『半沢直樹』の堺雅人を思わせるような気さえしてくる。吉沢は、半沢の下の世代が活躍するスピンオフドラマ『半沢直樹イヤー記念・エピソードゼロ~狙われた半沢直樹のパスワード~』の主役もやっている。彼が現代の企業もののような勘所も掴んでいることがドラマの魅力に寄与しているように感じる。