19番勝負の最終ラウンド。豊島竜王が意地を見せるか、藤井三冠がタイトル戦3連勝か

第34期竜王戦(主催:読売新聞社)七番勝負第1局がいよいよ10月8日に開幕します。豊島将之竜王に挑戦するのは藤井聡太三冠です。豊島竜王が防衛を果たして3連覇を達成するのか。それとも藤井三冠が奪取し、史上最年少四冠になるのか。大注目のシリーズです。


第34期竜王戦七番勝負の日程表

2021年が始まったタイミングで、いや、6月6日に第92期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負が開幕した時点で、現在このような状況になっていると予想できた人はどれだけいたでしょう。竜王と叡王の二冠を保持していた豊島竜王があわや無冠の危機となっており、一方の藤井二冠は四冠王になるチャンスを迎えています。

6月頭の時点では、藤井二冠はピンチを迎えているようにも見えました。藤井王位・棋聖に挑みかかるのは、棋界最高峰のタイトルを分け合う渡辺明名人(棋王・王将)と豊島将之竜王(叡王)。最強の挑戦者2名を迎え、流石の藤井二冠でも苦戦するかと思いきや、棋聖戦では渡辺名人を3勝0敗で、王位戦では豊島竜王を4勝1敗で撃退します。

さらにタイトルを防衛するだけでなく、叡王戦、竜王戦で立て続けに挑戦者となり、叡王戦では豊島叡王を3勝2敗で破ってタイトル奪取。史上最年少三冠になると、返す刀で竜王戦でも豊島竜王に挑戦です。

豊島竜王と藤井三冠の過去の対戦成績は、豊島竜王の9勝8敗。初対局から豊島竜王が6連勝と圧倒したものの、今年に入ってからは藤井三冠が8勝3敗とリードしています。

藤井三冠が挙げた8勝の内訳は、朝日杯将棋オープン戦準々決勝が1勝、王位戦七番勝負が4勝、叡王戦五番勝負が3勝。朝日杯ではその後優勝、王位戦は防衛、叡王戦は奪取と、どれも非常に大きな勝ち星でした。

豊島竜王VS藤井三冠による、2021年炎の19番勝負はいよいよ最終ラウンドの竜王戦七番勝負を迎えました。ここまでは藤井三冠が2つのタイトル戦を制しています。豊島竜王は虎の子の竜王位は何としてでも死守したいところです。

このシリーズのカギを握るのは、「序盤戦」になるでしょう。

豊島竜王が今年藤井三冠に勝利した3局の内、2局(王位戦第1局、叡王戦第4局)は序・中盤でリードを奪ってそのまま押し切ったもの。叡王戦第2局は豊島竜王の大逆転勝利の一局でしたが、これは持ち時間が短い1日制タイトル戦だったというのも大きな要因と言えます。事実、2日制対局の王位戦では、藤井三冠が優位に立ってからは、逆転を許すことなく勝利を収めています。

また、王位戦第2局では豊島竜王は序盤で優勢を築くことに成功しています。終盤で逆転負けを喫してしまいましたが、豊島竜王の序盤研究は藤井三冠をも上回っていたのです。

実際、藤井三冠は王位防衛の記者会見で「王位戦の対局を振り返ると序・中盤でリードを奪われてしまうような展開が多かった。特に2日制の長い対局だと、結構その序中盤の差というのが大きく出てしまって。結構こちらにとって課題が多いシリーズだったのかなと思います」と振り返っています。

竜王戦も2日制。王位戦同様、豊島竜王が序・中盤でリードを奪う将棋が多くなれば、豊島竜王が防衛に近づくでしょう。逆に序・中盤でリードできなかったり、むしろ悪くなってしまうと、評価値がいわゆる「藤井曲線」を描く、藤井三冠の必勝パターンになってしまいます。流石の豊島竜王をもってしても、この「藤井曲線」のレールに乗っかってしまうと逆転は容易ではありません。

※藤井曲線:対局開始から終局まで、将棋AIの評価値が右肩上がりの曲線を描いて勝利を収めるさま。二転三転するような対局では評価値は乱高下するが、藤井三冠の将棋は悪手が出ることが少なく、波乱なく完勝することが非常に多い。

叡王戦でタイトルを失冠してから、豊島竜王は竜王戦に照準を合わせて研究のストックを蓄えてきていることでしょう。もちろん、高度な研究をしているのは藤井三冠も同様。棋界の頂点に君臨する両者による、ハイレベルな序盤戦術にまずは注目です。

王位戦第5局1日目朝、対局室に入る藤井王位(右)と豊島竜王(提供:日本将棋連盟)
王位戦第5局1日目朝、対局室に入る藤井王位(右)と豊島竜王(提供:日本将棋連盟)