ビジネスパーソンにとって重要とされる力には、創造力や判断力、問題解決力など様々なものが挙げられます。そのなかで「もっとも重要なものは?」と問われると答えるのはなかなか難しいと思います。

  • 「質問力」こそが最強のビジネススキル /博報堂フェロー・ひきたよしあき

その質問に対して、まさに「質問力」と断言するのは、大手広告代理店・博報堂のフェローであり、スピーチライターやコラムニスト、大学講師としても活躍するひきたよしあきさんです。

■質問とは、「相手が持っている情報を引き出す」こと

「質問」というと、みなさんはどんなイメージを持っているでしょうか。わたしは大学で講師もしていますが、講義の最後に「質問はありますか?」と聞くと、ほとんどすべての学生が下を向いてしまいます。質問とは、自分がわからないことを尋ねることであり、どこか無理強いされるようなものというイメージを持っている人がどうも多いようなのです。

たしかに、質問は、自分がわからないことを尋ねることです。でも、それ以上に、「相手が持っている情報を引き出す」ということなのです。

ビジネスパーソンに重要とされる力には、たとえばプレゼン力や発想力など様々なものがあるでしょう。もちろん、それらも重要であることは間違いありません。ただ、わたしは、相手が持っている情報を引き出す「質問力」こそが最重要の力であると考えます。

顧客との会話のなかで、その場で必要とされないプレゼン力を無駄に発揮してしまったらどうなるでしょうか? 会話全体の8割を自分が話して、相手は2割しか話さないといったようなことが起こり得ます。

それでは相手から重要な情報を引き出せず、本当に相手が求めていることを摑めずにニーズを見誤るということだってあると思います。そういう人が顧客から評価されることはないでしょう。

発想力についても、重要となるのは発想力を発揮する以前の情報収集力、情報編集力です。発想力とは、下地となる情報があって、それをどう解釈するかという編集力を発揮したあとの最後のインスピレーションのようなものだからです。

極端な例ですが、顧客が求めることを一切知らない、持っている情報がゼロという人間がどんなにうんうんとうなって考えたところで、その結果生まれた発想が顧客を満足させることはありません。

ビジネスの場で強いのは、相手に質問をして、相手の情報を引き出すことができる人間です。ビジネスパーソンである以上、100人中100人が他人とかかわりながら仕事をします。人とかかわることが大前提なのですから、社内外問わず周囲の人たちから多くの有益な情報を引き出すことがビジネスパーソンにとっての最重要課題なのです。

これこそ、あらゆるビジネススキルのなかで質問力が最強だとわたしが考える理由です。

■日常的に「5W1H」を使って、質問体質になる

では、早速みなさんも質問力を高めていきましょう。最初に紹介するのは、基本でありいちばん簡単な方法で、「二人称を使って考える」というものです。「あなた」を使って考えるのです。

「わたしはこう思います」とはいえても、「あなたはこう思います」というのはちょっと変ですよね? 少なくとも断言はできません。そのため、日頃から二人称を使って「あなたは〜」「あなたは〜」と考えていると、「あなたはどう思いますか?」というふうに自然と相手に問いかける言葉が出てくるようになります。

この習慣が、日常のなかで質問力を高めることにつながります。

また、「5W1Hで質問する」ことも、二人称を使って考えることと同様に基本です。いうまでもないと思いますが、5W1Hとは、英語の疑問詞の「Who(誰が)」「When(いつ)」「Where(どこで)」「What(なにを)」「Why(なぜ)」「How(どのように)」の頭文字をとったものですよね。これらが数ある疑問詞の基本であり、意識的に使う流れのなかで質問力のベースをつくってくれます。

たとえば、日常会話のなかで友人が「このあいだ食べたパスタ、すごく美味しかったよ」といったなら、「このあいだっていつ?」「どこのお店?」「どんなパスタ?」というふうに質問をするという具合です。こういった日常会話は、どうしても「へー、そうなんだ」で終わらせてしまいがちです。そうではなく、5W1Hで返す癖をつけることで、どんどん質問体質になっていくと思います。

「質問力を高める」というと、なにかすごい質問をしなければならないと思うような人もいるかもしれません。でも、最終的に目指すべき相手の情報を引き出すための質問も、疑問詞の基本である5W1Hでできています。そう考えると、やはり5W1Hをつねに使って自分を質問体質に変えていくことが、質問力を高めるための正しいルートであり近道だといえるはずです。

■深いところにある情報を引き出す「縦型ドリル」

次に紹介するのは、わたしが「縦型ドリル」と呼んでいる方法です。質問をして相手の情報を引き出すということは、相手のことを「掘り下げる」といういい方もできると思いますが、ドリルを横に進めていては相手の深いところにある重要な情報を引き出すことはできません。

話は少し飛びますが、「モテない人」はまさに横にドリルを進めるような人だとわたしは見ています。好きな人に対して、こんな会話をしてしまう人を想像してみてください。

A:好きな料理ってなに?
B:中華料理かな。
A:へー。いま、行きたいところは?
B:ハワイに行きたい。
A:そうなんだ。誕生日っていつだったっけ?
B:○月×日だけど…。

自分の興味本意で聞きたいことをぶつけていくため、ただアンケートをしているように会話が完全にぶつ切りです。これでは相手から「この人って本当にわたしの話を聞いてくれているのかな?」と思われますから、会話は弾みませんし、深いところにある情報を引き出すこともできません。もちろん…モテないのは明白ですよね……(苦笑)。

そうではなく、相手の回答に対してさらに質問を投げかけて縦に深く掘り下げていくのです。この例なら、こんな具合です。

A:好きな料理ってなに?
B:中華料理かな。
A:中華にもいろいろあるけど、どんなメニューが好き?
B:エビチリ!
A:いいね。どこかエビチリが美味しいおすすめの店はある?
B:△△ってところ。有名ではないけどいいお店だよ。

モテない人には知り得なかったたくさんの情報を得ることができました。まさに、質問力によるものです。しかも、Bさんがおすすめする店でのデートに誘うこともできそうですね(笑)。

質問力が重要だというと、「とにかく質問をすればいいんだ」というふうに考えてしまう人もいるかもしれません。でも、ただやみくもに質問すればいいわけではないということも理解しましょう。相手の回答をしっかり傾聴し、ドリルを縦に進めるつもりで深いところにある情報を得てこそ、はじめてその質問に意味があったといえるのです。

わかりやすくするために、ここまで日常会話での例を挙げましたが、これらはもちろんビジネスシーンに応用できるものです。「質問力」をどんどん高めていき、デキるビジネスパーソンを目指してください。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人