コロナ禍を経て、コミュニケーションのあり方が大きく変わろうとしている。さまざまなソリューションが登場するなか、これらをどのように使い、どういったマインドで運用すべきなのか。IT全盛の時代に求められるコミュニケーションについて、有識者に伺っていきたい。

本稿では、ヤフーのコーポレートエバンジェリストであり、Zホールディングス Zアカデミア学長、Yahoo!アカデミア学長、そして武蔵野大学アントレプレナーシップ学部の学長としても活躍する伊藤羊一氏にインタビューを行った。『1分で話せ2【超実践編】 世界のトップが絶賛した即座に考えが"まとまる""伝わる"すごい技術』などの著書でも知られる同氏に、コミュニケーション活性化の方法について聞いてみたい。

■伊藤氏の考える"1on1" の必要性 前編はこちら

  • Zアカデミア学長 伊藤羊一氏

コミュニケーションをデザインする

社内コミュニケーションで重要なことは、対面であろうとオンラインであろうと「1:1」の会話を大切にすることだ。しかし、この対面ではできていた「1:1」のコミュニケーションが、新型コロナウイルス流行を受けたテレワークによってできなくなっている企業も多い。伊藤氏はどのようにしてオンライン対話の環境づくりを行っているのだろうか。

「ポイントは3つあります。まず『チャットツールでみんなでコミュニケーションをすること』、次に『チャットは自由に使えるようにする』、そして『1:1で定期的にミーティングを行う』ということをやれば、対面とほぼ変わらないコミュニケーションができます」

伊藤氏はこのように持論を述べ、その具体的な方法について続ける。

「大前提として、オンラインにみんなが集まる場を作っておくことです。それはSlackでもTeamsでもかまいません。そこを、仕事の話でも趣味の話でも雑談を自由に投げこめる場所にしておく。内容を制限せずに『腹減った』でもなんでも自由に言い合える空間を作る。これによってチームの心理的安全性が確保されます。しかもオンラインならログが残りますから、そのときその場にいる人だけでなく、時空を超えてコミュニケーションができます。これは大きなメリットです」

ただし、対面と唯一異なる点があるそうだ。それは"乾杯"や"ハイタッチ"のような身体的な接触がないこと。また画面の先の人間を物理的な存在として捉えにくいため、相手の背の高さなども想像するしかない。対面でこそ意味のあるコミュニケーションは、テレワークであっても変わらず存在する。

「大切なのは『なんとなく対面』『なんとなくオンライン』をするのではなく、コミュニケーションをきちんとデザインすることです。『夜を明かして語り合いたいから、絶対に対面でやろう』とか、『いろいろな人が集まるからオンラインの方が良いだろう』とか、それぞれの良さを活かしてデザインしたいですね。その結果として、コミュニケーションは対面とオンラインのハイブリッドになると思います」

ポストコロナ時代に求められるマネジメントスキル

コミュニケーションが大きく変わったポストコロナ時代。これまでと異なる働き方が求められ、戸惑いを覚えるリーダーやマネージャーは多いだろう。ここからは、コロナ禍を経て求められるマネジメントスキルについて伊藤氏に伺いたい。

「まず、マネジメントとは何であるのかを理解することが大事です。マネジメントの"manage"には『管理する』という意味だけでなく、『なんとかする』『都合を付ける』といった意味もあります。マネージャーは、チームをゴールに導くために『なんとかする』のが仕事なんですよ」

もちろん、マネージャーには未来を見据える力や構造化できる力、チームに働きかける力などが求められる。だが結局のところ、求められるのは「コミュニケーション力」に尽きると伊藤氏は述べる。

「まず、『1:N』のコミュニケーションために、マネージャーはプレゼンテーション能力を上げてほしい、と声を大にして言いたい。必要なのは表面的なスキルではなくて、相手を動かすプレゼン力です。また、マネジメントの姿勢として『1:1』の関係をつくることも大切です。これまでのマネジメント研修では、『1:N』はできても『1:1』の働きかけができていない方が非常に多く感じました。チームのメンバーは個々人の違いを認め、意識しなければなりません」

  • 伊藤氏は「一人ひとり違ってみんな良い」という意識が大事と語る

「自分の譲れない想い」「相手の靴を履く」を追求しよう

最後に、コロナ禍の時代に社会人となった新卒社員、そしてコロナ禍の時代にキャリアアップを考えるビジネスパーソンに向けたアドバイスを聞いてみよう。

「これは全ビジネスパーソンに求められることですが、僕は必要な要素がふたつあると思っています。ひとつは『クリティカルシンキング力』、もうひとつは『コミュニケーション力』です」

クリティカルシンキング力は、"ちゃんと考える力"、つまり「課題を立て」「構造化して」「意思決定をする」ことを指すという。この技術はビジネス本を読んだり、ビジネススクールで学べば習得できるそうだ。ただし、「スキルだけでなくマインドがないと答えは出てこない」と伊藤氏は述べる。

「学生と社会人で一番の違いは、意思決定をしなくてはならないこと。スキルがあれば考えをロジカルに整理することは可能ですが、意思決定をするには自分の軸を明確にする必要があります。課題を構造化し、選択肢をAかBかに分けて点数を付けたとしても、そんなことで成功は決まりません。社会人になったら自分で決めていく機会、そして最後に責任を取る機会が増えていきます。だからこそ自分の軸を持たなければいけないし、自分として譲れない想いを常に問い続けるマインドが大事なんです」

コミュニケーション力においても、スキルを学ぶことが第一となるが、スキルだけでなく、マインドもより一層大切になってくるという。

「コミュニケーションにおいてもっとも重要なのは、"相手の靴を履く"というマインドです。『1:1』で自分の意見だけを述べても相手は心を閉ざすだけですよね。いま相手はどんなことを考えているのか、何に興味関心を持っているのか、何が気がかりなのかをしっかり聞き、相手の世界を理解する必要があるわけです」

"靴を履く"という表現を伊藤氏は使うが、これは「いまここにいる私が、そこにいるあなたをこう見て、あなたはこうに違いない」と想像するのではなく、「自分があなたの場所にいて、あなたの気持ちになったらどうするか」と考える感覚を持つ必要がある、という意味だそう。「この感覚がわかれば、コミュニケーション能力に関する他のスキルはおまけのようなもの」と伊藤氏は話す。

「僕は大勢の方に対してプレゼンをするとき、まず観客席に座ります。そして登壇している僕の姿をイメージし、話している自分を想像する時間を作っています。例えば、僕のことを全く知らないおじいちゃん、おばあちゃんに講演するとき、『僕のことを見てどういう想像をするだろう。どういう話に興味を持つだろう』と考えるわけですね」

伊藤氏は「スキルを習得すると同時に、マインドを問い続けること」の重要性を強調し、「これは本を読んで学べることではない」と補足しつつ、次のようにビジネスパーソンへのメッセージを贈る。

「表面的なスキルの裏側にマインドは隠れています。自分の譲れない想いとは何か、相手の靴を履くとはどういうことか……。それを日々、自分の中で問い続けることがなによりも大事。これができたらイケてるビジネスパーソンになれる、僕はそう考えます」

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