コロナ禍を経て、コミュニケーションのあり方が大きく変わろうとしている。さまざまなソリューションが登場するなか、これらをどのように使い、どういったマインドで運用すべきなのか。IT全盛の時代に求められるコミュニケーションについて、有識者に伺っていきたい。

今回は、日本マイクロソフトの業務執行役員であり、エバンジェリストとして活躍する西脇資哲氏にインタビューを行った。ITやDX、ドローンなどに関する先進的な知見を備え、さらにはプレゼンテーションのコーチングも行っている同氏が考える、働き方とコミュニケーションのこれからについて話を聞いていこう。

■【前編はこちら】「情報の見せる化」とは? 西脇氏の考える"情報発信力"

  • 日本マイクロソフト エバンジェリスト(業務執行役員)  西脇資哲氏

コミュニケーションの速度と質をAIで補う

コロナ禍によってテレワークの重要性が浮き彫りになり、多くの企業がその運用に奔走している。一方でコミュニケーションのあり方は変化し、自らを『見せる化』する情報発信力が問われるようになっている。西脇氏は「これからは、コミュニケーションの"速度"と"質"の両方を上げていく必要があります」と話す。

「速度というのは、いかにクイックレスポンスができるかということ。メールであれば、ワンタッチで定型文書を打てるようにしたり、あるいはAIが重要性を判断しクイックリプライをしたりしてくれる、そのような仕組みが必要になります」

また、「質」の面についてはこう語る。

「質を上げるには、希薄化が進む従業員同士のコミュニケーションを助けるような仕組みが必要です。緊急事態宣言から一年が経過して、昨年どんな新入社員が入ったのか、だれがどの部署に行ったのかわからないこともあるでしょう。出社していれば簡単に把握できますが、オンラインではこういった"人"と"情報"を探すのは大変なんです。これからは自分に必要な人と情報を、AI側から提供してくれるような仕組みが整備されていくでしょう」

マイクロソフトは、働き方改革というキーワードのもと、テレワークを浸透させるために、チャットやメール、Web会議などさまざまな取り組みを行ってきた。代表的な例がコラボレーションプラットフォーム「Microsoft Teams」だ。AIを使って"速度"と"質"を上げる仕組みは、「Microsoft Teams」でも整備が進められているという。

西脇氏は「AIの発展によって、離れた場所でも、情報が少なくても、言語や国境を隔てたとしても、人や情報にたどり着けるような社会になってほしい」とその思いを語った。

テレワークに必要なのは無駄や余裕

コミュニケーションの変化に伴い、働き方も変化を見せている。昨今は、長く続くテレワークによって不調を訴える人も増加した。西脇氏は、いまだ模索の続くテレワークでの働き方について自身の考えを述べる。

「私は、テレワークでコミュニケーションを深めるためには無駄や余裕が必要だと考えています。テレワークだからストイックに仕事をしなくてはいけない、時間を守って働くべきだとは思いません。いろいろな生活スタイルや多様な価値観に合わせて、雑談や遊びがあったほうが豊かだし、発言も面白くなるし、健康的じゃないですか」

テレワークが始まってからというもの、多くの企業でフルタイムと呼ばれる従来の"9時~5時"縛りが緩んできているという。このフルタイムとは「この拘束時間内でしっかり働き、その時間を給料と引き換える」という考え方といえる。

「しかし、仕事の時間もコミュニケーションの時間も伸びています。それなら、そのぶん昼に寝たり、欧州のように昼休みを2時間取ったりしても良いですよね。時間に拘束され、時間と給料を引き換えるのではなくて、自分の生活スタイルのなかで時間をコントロールして給料と換えていくべきなんです。セカンドワーク・サイドワークが入っても良いし、株の取引をしたって良い。そうすればやがて成果主義が進みますし、時間管理も無くなっていくでしょう」

  • 西脇氏は「自分の時間をコントロールして給料と換えていく」ことを勧める

新しい才能が芽吹く一億総YouTuber時代

だれもが情報が発信し、受信できる現代を指し、「一億総YouTuber時代」と呼ぶ人もいる。西脇氏は「このような時代では、これまで発掘できなかった新しい才能を見いだすこともできる」と話す。

「テレワークがさらに浸透すれば、これまで自分の家から外に出られなかった、体や心に不自由がある方たちをも雇用できるようになります。また、何らかの理由で登校できなかった人たちも自宅学習で知識を深めることが可能です。彼らが世界中にアクセスできること、また逆に世界中からアクセスできることは絶大なチャンスです」

現在、もっともテレワークが進んでいるのは首都圏だ。それは地方でテレワークが不要であることを意味するものではない。首都圏がテレワークをしているからこそ、地方で健康的な生活を送りながら首都圏の仕事ができる。大学も今はどこも遠隔授業だ。

若い人は遠慮せずに物事を進めてほしい

テレワークが進むことでマネジメントの単位が変わり、労働の価値を時間やコミュニケーションで測ることが難しくなってきている。これからは、より仕事の成果が評価される時代に変わっていくだろう。

「正しく評価するためには、自分の所属する組織がどのようなゴールに向かっているかを考える必要があります。しかし、役員はともかく、多くの中間管理職はこのような評価軸を持っていません。企業の目的、グループの目的、チームの目的、個人の目的、これらをみんなで共有することがとても大切になると思います」

最後に西脇氏は、社会の一員となって間もなくコロナ禍という変化に立ち会うことになった若手社員や新入社員に向けて、次のような言葉を贈る。

「時代はちょうどいま、デジタルネイティブで若いあなたたちの時代になりました。いろいろな障壁がなくなっていく世界で社会人になったといえるでしょう。前の世代は会社に、上長に、同僚に遠慮をしてきましたが、あなたたちはぜひ遠慮せずに物事を進めてほしいと思います。あなたたちが遠慮なしに他の業種・業界とコミュニケーションすることで生まれたビジネスは、会社を救うかもしれません。それは古い世代には難しい、あなたたちが持つ力なのです」

■【前編はこちら】「情報の見せる化」とは? 西脇氏の考える"情報発信力"