コロナ禍を経て、コミュニケーションのあり方が大きく変わろうとしている。さまざまなソリューションが登場するなか、これらをどのように使い、どういったマインドで運用すべきなのか。IT全盛の時代に求められるコミュニケーションについて、有識者に伺っていきたい。

今回は、日本マイクロソフトの業務執行役員であり、エバンジェリストとして活躍する西脇資哲氏にインタビューを行った。ITやDX、ドローンなどに関する先進的な知見を備え、さらにはプレゼンテーションのコーチングも行っている同氏は、これからのコミュニケーションをどのように捉えているのだろうか。

■【後編はこちら】西脇氏の考える、働き方とコミュニケーションのこれから

  • 日本マイクロソフト エバンジェリスト(業務執行役員)  西脇資哲氏

コロナ禍を振り返り、改めて考えるテレワーク

「IT業界に身を置いている人間は、これまで『働き方改革』をずっと推進してきました。例えばフリーアドレスをやり、BYODをやり、リモートワークをやりましょうと何年も続けてきました。そして、IT技術もまた働き方改革に合わせて進化しています。Web会議もできるようになったし、動画で学ぶ時代にもなりました。この流れの中で、テレワークの普及は必然だとみんな考えてきたはずです。ですが2020年の3月に、実はそれほど浸透していないと思い知らされたんですね。『急にテレワークと言われてもできない』とわかったのが、この1年です」

西脇氏はこのように話を始める。新型コロナウイルス感染症の流行を受けて発令された緊急事態宣言によって、企業がテレワークを余儀なくされたのは記憶に新しい。しかし、働き方改革があれほどまでに叫ばれていたにもかかわらず、すんなりとテレワークに移行できた企業は決して多くない。

「マイクロソフトは長年、働き方改革に向けた取り組みを進めていたので、自然とテレワークに馴染むことができました。しかし多くの企業は突然"ドーン!"と背中を蹴飛ばされた気分でしょう。だからつまずくし、そこから立ち上がるのが難しい。ここから学びたいことは『自分たちで能動的に変えなくてはならなかったのに、誰かに蹴飛ばされるまでできなかった』という事実です。我々はどのような道を進むべきだったのか、この1年で再考する必要があるはずです」

何気ない雑談が育んでいたコミュニケーション

従来の働き方では、会社に行くと人の姿や様子を見ることができた。これは非常にコミュニケーションを密にしやすい環境といえる。例えば、エレベーターを降りて出会った同僚と、仕事とまったく関係ない話で盛り上がることもあるだろう。しかし、テレワークが進むことで、このような雑談が生まれる環境は減ってしまった。

「偶然生まれる雑談がコミュニケーションを密にしていたんです。これまで見えていた人の姿や様子が見えなくなり、こういった雑談が減るなかで、これからは"情報発信力"が重要になっていくと思います。私はこれを『見せる化』と呼んでいます」

西脇氏はこの状況をマラソンに例える。競技場では他の走者の様子がよく見えても、街路に出て行くと距離が離れ、どの走者がどこを走っていて、どんな状況にあるのかわからない。これを他の走者に見せるために、各走者が「今、何km地点を走っている」「給水場に辿りついた」「リタイアした」「ゴールした」といった状況を知らせ、そして反応を返す――これが『見せる化』だという。

  • 「情報を見せる化し、情報発信力を高めることが重要」と西脇氏は話す

情報発信ツールを「見せる化」に活かす

では、どのようにして情報を発信し、『見せる化』すればよいのだろうか。西脇氏は「情報を発信するツールは世の中にたくさんあり、しかも多くが"タダ"で利用できます。これを使わない手はない」と話す。

「昔だったら、相手の会社に行くために交通費を払い、さらに受付を通る必要がありました。ですがインターネット上にそんなハードルはありません。多様な人たちと繋がり、コミュニケーションできますし、私もそうしています。とくに若い世代は積極的に情報を発信してほしいですね。現在、物理的に出会える機会は減っていますが、オンラインではバンバン知り合うことが出来ますし」

コミュニケーションのハードルが下がり、2020年に最初の緊急事態宣言が発令されてから、西脇氏のもとにも大学生からどんどん連絡が来るようになっているという。

「ところが、会社のなかで長年仕事をしている人は『いや、そんな勝手にアプローチしちゃいけないだろ』みたいに考えてしまうわけです。ハードルが高いままなんですね。企業はこういった点を変え、ハードルを下げないといけない。昔ながらの考えでコミュニケーションをしている人は、若い人に学んでいく必要があります」

閉じた輪の中でイノベーションは生まれない

昨今、企業の業態は広がりを見せており、 創業当時とはまったく異なる分野にも手を伸ばしている例も多い。そして、異なる業種と手を取り合いながらビジネスをかたちづくっている。これは企業同士だけで無く、企業内の人同士でも同じ傾向があるだろう。多様な人たちとのコミュニケーションをベースとしたイノベーションがいま求められている。

「組織の中と外のコミュニケーションに差が無くなってきていると思います。組織内と組織外で壁を作ってしまうと、組織は変化をし続けられません。閉じた業界、閉じた企業は当然、イノベーションを起こせなくなりますし、生き延びていくことが難しくなります。多様な人たちとコミュニケーションし、多様なアイデアを吸収して、会社自身も多様性を持つことが重要なのです」

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