今春スタートの新番組が軒並み低視聴率に苦しむ中、「唯一、好スタートを切った」と言われているのが、日本テレビ系バラエティ番組『ヒューマングルメンタリー オモウマい店』(毎週火曜19:00~)。視聴率は個人・世帯ともに好調で、SNSの動きも活発であるなど、非の打ちどころのないスタートとなった。前番組が同じグルメ系の『火曜サプライズ』だっただけに、日本テレビの制作と思っている人もいるようだが、名古屋の系列局・中京テレビが手掛けている。

そんな元気のいい在名局は中京テレビだけではない。TBS系列のCBCは、3月から情報番組『ゴゴスマ~GOGO!Smile!~』(毎週月~金曜13:55~)の関西エリア放送をスタートし、ほぼ全国ネット放送を実現。フジテレビ系列の東海テレビも、今年に入って『その女、ジルバ』『最高のオバハン 中島ハルコ』と、業界内評価の高い話題作ドラマを連発しているのだ。

なぜ名古屋のテレビ局が今、これほど全国区の評価を得られているのか――。

  • 『ヒューマングルメンタリー オモウマい店』に出演するヒロミ(左)と小峠英二 (C)CTV

■得意分野と「本気で勝負」の一体感

在名局の強みは、各番組を掘り下げていくと分かりやすい。

まず『オモウマい店』の中京テレビは、とにかくグルメ番組に強い。中京テレビは90年代から東海ローカルで『P.S.愛してる!』『PS』『PS三世』『PS純金』というグルメ系バラエティを放送し続け、常に高い人気をキープしてきた。「それくらいなら他のローカル局もやっているのでは」と思うかもしれないが、企画の切り口、取材力、構成・演出の多彩さ、撮影技術などは、どれもハイレベルで、キー局の日本テレビも一目置いていると聞く。

もともと、キー局がさまざまなジャンルを扱うのに対して、ローカル局はグルメへの熱が高い。とりわけ中京テレビのグルメ熱はすさまじく、長年視聴者を飽きさせないための策を考え続け、労力を惜しまずに密度の濃い番組を作り続けている。『オモウマい店』は、そんな中京テレビがこれまで培ってきたノウハウと努力を注ぎ込んだ番組であり、早期に失速することは考えづらい。

次に『その女、ジルバ』を手がけた東海テレビは、キー局にも負けないドラマ制作ノウハウを持っている。その礎となったのは、2016年まで52年にわたって放送された昼ドラ。東海テレビ制作の昼ドラと言えば、『牡丹と薔薇』『真珠夫人』のような愛憎劇のイメージが強いかもしれないが、実はラブコメ、サスペンス、ヒューマン、医療、人情、勧善懲悪、ファンタジーなど、作品ジャンルの広さは屈指のものがあった。

つまり、東海テレビは「それだけ幅広いジャンルの連ドラを手がけられるノウハウを持っている」ということ。さらに、平日の昼ドラから土曜深夜の『オトナの土ドラ』(毎週土曜23:40~)に移ったことで、制作の自由度と思い切りが増した感がある。

事実、今月5日にスタートした『#コールドゲーム』も、「隕石衝突の影響で氷河期になってしまった地球で生きる疑似家族を描く」という思い切った設定の物語であり、しかもオリジナル。どのドラマ枠よりも多様でインパクトのある作品を手がけていることが分かるだろう。

両局のようにそれぞれ得意ジャンルがあり、それがノウハウとして局内に蓄積されているのが在名局の強みではないか。その得意ジャンルの番組が全国ネット、さらにゴールデン・プライム帯の放送であればなおさら、在名局のモチベーションは上がっていく。局のトップスタッフを選抜し、キー局を満足させるべく局を挙げて「本気の勝負」ができる一体感も、他のローカル局へのアドバンテージとなっている。

  • 『#コールドゲーム』第3話より(左から 和田琢磨、中村俊介、羽田美智子、椿鬼奴) (C)東海テレビ

■ローカル局に求められるポジティブさ

もともと、関東と関西にはさまれた名古屋エリアは両所から日帰りで行き来できるため、「大物から若手有望株まで人気やスキルの高い人材を集めて番組制作できる」という好環境で知られている。

そんな立地上の良さもあって、制作力の水準は一定以上をキープしている上に、ローカル局にありがちな「芸能人をお客様扱いしすぎてしまう」という失敗ケースも少ない。

一方、キー局は広告収入のダウンで、よりリスクを避けた編成戦略が求められていて、ローカル局の力を借りることは、その一環とも言えるだろう。もしかしたらコロナ禍が長期化して厳しい状況が続くほど、在名局制作の全国ネット番組が増えていくのかもしれない。

TVerが全世代かつ全国的に浸透しつつある上に、ネット同時配信も待ったなし。さらに、YouTubeなどの無料動画に加えて、NetflixやAmazonプライム・ビデオなどの有料動画配信サービスも日に日に存在感を増している。

ネットの発達によって今、ローカル局の危機感は、かつてないほど高まっているという。「キー局(=東京)や準キー局(=大阪)の番組を全国どこでも見られるようになったことを嘆く」のか。それとも、「全国の人々に自社制作の番組を見てもらえることをチャンスとみる」のか。

今月7日に発表された『第47回 放送文化基金賞』では、テレビドラマ番組の奨励賞に『その女、ジルバ』が選ばれたほか、テレビドキュメンタリー番組の最優秀賞にテレビ朝日系列の名古屋テレビ『メ~テレドキュメント 面会報告』、テレビエンターテインメント番組の最優秀賞に中京テレビ『ウマい!安い!おもしろい! 全日本びっくり仰店グランプリ』が選ばれた。

バラエティやドラマだけでなく、ドキュメンタリーでも『2020日本民間放送連盟賞』のグランプリと準グランプリを中京テレビが独占。その他、東海テレビのドキュメンタリーが2018年に『菊池寛賞』を受賞したほか、ギャラクシー賞でも在名局のドキュメンタリーは常連だ。

このように制作力は折り紙付きなだけに、ポジティブに自社制作番組を手がけていく姿勢が求められていくこれからは、その先頭を在名局が走っていくのかもしれない。

  • 『ゴゴスマ』MCの石井亮次アナウンサー 撮影:蔦野裕