女優の池脇千鶴が9年ぶりの連ドラ主演を務める東海テレビ・フジテレビ系ドラマ『その女、ジルバ』(毎週土曜23:40~)に、多くの反響が寄せられている。物流倉庫で働く人生に行き詰った40歳独身の主人公が、超高齢熟女バー「OLD JACK&ROSE」の扉を偶然叩き、そこでホステスとして働き始めたことから人生を変えていく…というハートフルな人間ドラマだ。

超高齢熟女バーのメンバーには、草笛光子、品川徹、中尾ミエ、中田喜子、久本雅美、草村礼子といった、他のドラマではなかなか見られない大ベテランが名を連ね、主人公が昼間働く物流倉庫のメンバーにも、江口のりこ、真飛聖、山崎樹範といった個性豊かな俳優陣がそろい、まさに“オトナ”のドラマに仕上がっている。

このドラマのプロデューサーを務めるは東海テレビの遠山圭介氏。個性豊かな役者陣の魅力や、心温まるドラマの秘密、制作の裏側を聞いた――。

  • 『その女、ジルバ』に主演する池脇千鶴 (C)東海テレビ

    『その女、ジルバ』に主演する池脇千鶴 (C)東海テレビ

■翻ろうされる役に「面白そう」

今作に多くの人が心を動かす原動力となっているのが、40歳の主人公を飾ることなく等身大の姿で演じる池脇千鶴だ。そのキャスティング理由を尋ねてみると、「まず原作の主人公がお団子ヘアでかわいくて、池脇さんと似てるなって思ったんです。あと原作もそうなんですけど、主人公の新(あらた)はすごく素直なんですね。熟女バーのメンバーから言われたことを、ものすごく素直に受け止める。40歳なのに少女みたいに純粋な主人公なので、そのキャラクターが池脇さんにピッタリだなって思いました」と明かす。

さらに、「やっぱりこのドラマは“40歳女性”というのがポイント。いかに名前がある女優さんでも30代前半の女優さんに演じてもらうわけにはいかないと思っていたので、40歳に近い女優さんにお願いしたいなと思っていたんです」と起用に至った。

池脇自身も積極的に参加している様子で、「池脇さんも原作を読んで、これだけ熟女の方たちにワチャワチャ囲まれて翻ろうされる役もなかなかないので、『面白そう』って言っていただきました」とのこと。

現場での演技には毎回驚かされるといい、「役作りとかこちらからの指示は一切なくて、『本人が楽しんでいただけるように』としか言っていなかったんです。台本って『…』というト書きがムチャクチャ多いんですけど、その『…』のときの表情が素晴らしくて、はにかんだ顔とか、うれしさをかみ殺した顔とか、なんでこんな表情できるんだって、毎回現場行くたびに思います。なので、池脇さん自身が良い作品へ導いてくださっているんだなと感じています」と、手応えを語ってくれた。

  • (C)東海テレビ

■登場人物たちの履歴を作る“準備”

このドラマは等身大の40歳を演じる池脇のほか、順調にキャリアを積み重ねてきたにもかかわらず物流倉庫へ出向させられ、自分の人生に大きな決断を下すみか役の真飛聖、物流倉庫の仕事にプライドを持っており、孤独な過去を抱えているのだがそれをおくびにも出さないスミレ役の江口のりこなど、キャラクターとキャスティングが見事にはまっている。その秘密は脚本を作る前の“準備”にあったようだ。

「脚本の吉田紀子さんの作り方なんですけど、各登場人物に履歴書というか、何年に生まれて、どういう生活をしていってっていう、物語に関係ないところの根っこの部分をものすごく丁寧に作られるんです。それを2~3か月やってから脚本作りに入ったので、この人はどういう人かって分かった上でキャスティングできました。だから、みかさんで言うと、“国立四大を卒業して、経済をバリバリ勉強して、銀行で働きたいキャリアウーマンを目指していたんだけど、就職氷河期でつらい目にあった女性”…というように、そこからイメージして真飛さんをキャスティングできたんです」

原作があるにもかかわらずやっているこの“準備”は、吉田氏が学んだ富良野塾(『北の国から』などで知られる脚本家・倉本聰氏が立ち上げた脚本家や役者を育てる養成所)の教えだそう。

「だからどのキャラクターもすごく深いんですよ。ちゃんと全部そろえてからやると、台本を作る上でも展開に迷いがなくなるというか、この人はこういう過去があるからここでこれを出そうかとか、そういう物語づくりを建設的にできるので、プロデューサーとしてもすごく勉強になりましたね」

  • (左から)真飛聖、池脇千鶴、江口のりこ (C)東海テレビ

■他作品で見られない大ベテランたちが集結

このドラマは、他の作品でめったに見られない大ベテランのメンバーがそろっている。現場の様子を聞いてみると、「大体のドラマはトメ(=クレジット序列の最後)のポジションって1人か多くても2人じゃないですか、だけど今回は5人くらいいらっしゃるので(笑)、僕らなんかよりも当然経験は豊富ですし、現場での立ち振舞いですとか、盛り上げ方や引き締め方を熟知されていますよね。中でも久本さんはやっぱりお上手な方で、いろんなバラエティで司会もされているので、久本さんがいると空気が変わって、楽しく現場を回してくれますね」と、百戦錬磨の面々が織りなす雰囲気を教えてくれた。

作品に深みを与えてくれるのが、登場人物たちの“歴史”で、「草笛さん演じるきら子ママは第2話で、『戦災孤児だった』という過去をセリフで少し語るんですが、もうその少しのセリフだけで全てを表現できるって言うのは、草笛さんだからですよね。そういうすごさを感じています」と舌を巻く。

  • (左から)品川徹、草笛光子

  • (左から)中田喜子、草村礼子、中尾ミエ、久本雅美

  • (C)東海テレビ

過去の回想で用いられる写真も、代役で撮り直したものではなく、実際の写真を使用することで、よりリアルにそのキャラクターの“歴史”を感じられる演出を施していた。

「過去の回想って若い方が吹き替えでやったりするのがドラマのセオリーだと思うんですけど、今回は過去のシーンでも極力全部自分でしゃべっていただいたり、昔の写真も出てくるんですけど、それも視聴者の方がなるべくこの人の過去なんだよっていうのが分かるようにしたいなと思って、あえてご自身の昔の写真を使わせていただきました。だけど一緒に写ってる方の権利もあるので、使えない写真もいっぱいあって大変でしたね(笑)」と、“歴史”を視聴者に感じてもらうための苦労が伺える。