日産自動車は新型電気自動車(EV)「アリア」を発表した。流行りのSUVで航続距離は600キロ超、価格は500万円からということで、EV市場のライバルたちに対するアドバンテージを豊富に持っていそうなアリアなのだが、商品企画に携わった日産社員によれば、「電気で走ることは、このクルマの特徴のほんの一部」だそう。一体、アリアの何が強みだと日産は考えているのだろうか。

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    日産の新型EV「アリア」

技術の日産の集大成

「リーフ」で市場を切り拓いた日産から、2台目のEV「アリア」が登場する。世界的に人気の「クロスオーバーSUV」というスタイルで、気になる航続距離は最大610キロ(2WD、90kWhバッテリー搭載モデル、WLTCモード、社内測定値)。2021年中ごろに日本から販売を開始する予定で、実質的な購入価格は500万円からとなる見込みだ。

SUV型のEVといえば、ジャガー「I-PACE」(WLTCモードの航続距離は438キロ、価格は976万円~1,183万円)やメルセデス・ベンツ「EQC」(WLTCモードの航続距離は400キロ、価格は1,080万円から)といったクルマがすでに販売中であり、今後はマツダ「MX-30」、テスラ「モデルY」、アウディ「e-tron」などが登場してくる見通し。トヨタ自動車とスバルは共同で電動SUVを作ると発表済みだ。そんな中で、アリアは何を武器に戦うのか。アリアの事前撮影会で商品企画担当の日産社員に話を聞いた、

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    「アリア」のボディサイズは全長4,595mm、全幅1,850mm、全高1,655mm。ボディカラーは仕向け地により異なるが9種類のツートーンと5種類のモノトーンをラインアップするとのこと。写真はカッパー(銅)とブラックのツートーン

「電気で走ることは、このクルマの特徴のほんの一部です。アリアは『ニッサン インテリジェント モビリティ』の粋を集めて作った新しい乗り物、という風に打ち出していきたいと思っています」

既存のSUV型EVに対しては、少なくとも航続距離と価格に優位性がありそうなアリア。そのあたりを踏まえて、ライバルに対する強みを尋ねてみると、こんな答えが返ってきた。「なぜSUVにしたのか。ファクトでいえば、SUVセグメントがグローバルで伸びていて需要もあり、日産はSUVを得意としているからなのですが……」という断りも入ったが、日産としては、人気の分野においてスペックで勝負するためというよりも、「技術の日産」の現時点での到達点として、このクルマを作ったようだ。

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    「アリア」には65kWhと90kWhのバッテリーサイズ(総電力量)があり、駆動方式は2輪駆動と4輪駆動「e-4ORCE」(イーフォース)から選べる。組み合わせは全部で4通りだ。性能は65kWhの2輪駆動が最大出力160kW、最大トルク300Nm、90kWhの4輪駆動が同290kWh、600Nm。航続距離は90kWhの2輪駆動が最大610キロと最も長い

では、EVとして、どんな技術がアリアには盛り込まれているのだろうか。

「電気で走らせることひとつを取り上げても、強みはあります。まずはe-4ORCEというEVの四駆の技術ですが、これは『モーターを2個付ければできる』というものではありません。日産には『GT-R』で使っているパフォーマンス四駆の技術もありますし、『パトロール』(大型SUV、中東などでカルト的な人気を誇るそう)で使っている本物のオフロード四駆、砂漠でも『ズバーッ!』と走るような技術もあります。それからシャシー制御技術、電気で制御するバイワイヤーのステアリング、あとはインテリジェントトレースコントロール(ブレーキを制御して曲がりやすくする技術)、そういう制御を全部入れてe-4ORCEを作っているので、他社には簡単に真似できないものになっているんです」

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    荷室容量は2輪駆動が466L、4輪駆動が408L。写真は後席を前に倒した状態なので、容量はもっと広がっているはずだ

もうひとつ、日産が注力している自動運転につながる技術でも、アリアは最先端だ。2019年発売の「スカイライン」から採用が始まったハンズオフ機能搭載の運転支援技術「プロパイロット 2.0」を、このアリアも備えている。

「アリアは2021年に発売するので、その時、また完全な自動運転の世界は到来していないと思いますが、完全自動運転の、その一歩手前の時代が来たときに、車内にはどういう空間があるべきなのかということを、最初から考えて作りました。これとプロパイロット 2.0の組み合わせで、お客様に全く新しい移動空間を提供できると考えてます」

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    「アリア」はアマゾンの「Alexa」を搭載しているので、口頭でのさまざまなコマンドに対応してくれる

広々として質感の高い室内と、ハンズオフでの自動運転。これが組み合わさると、「子供のころに思い描いたような未来都市の、張り巡らされたチューブの中を自動運転のクルマが行き交うような、あの感じ」を感じてもらえるのではないかというのが、アリアの商品企画に携わった日産社員の考えだ。

リーフでEV普及の先駆的な役割を果たし、プロパイロットで未来の自動運転社会の一端を垣間見せてくれた日産は、アリアで何を伝えようとしているのか。「やっぱり、乗って楽しいのが日産車ですから」という同氏の言葉で、アリアに対する期待はふくらんだ。

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  • EVの「アリア」はエンジンルームを冷却する必要がないため、普通であればフロントグリルが付いている場所にはパネルが付いている。日産ではこれを「シールド」と呼ぶ

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  • メーターパネルとインパネのディスプレイは一体型。途中で曲面を描いていてなかなかカッコいいが、これがもしフラットな画面だと、運転席から左腕を伸ばしても、センターディスプレイの左端が操作しにくいので、こんな造形にしてあるそうだ