大手バーガーチェーンでも増えつつある「代替肉」(肉を使わないパティ)を挟んだハンバーガーは、はたしてうまいのか。「本来はゴリゴリのビーフ推し」だというハンバーガー探求家の松原好秀さんに、各社の代替肉メニューを実食レポートしてもらった。まずはモスバーガーとロッテリアだ。

  • モスバーガーの「グリーンバーガー」

    肉を使わなくてもおいしいハンバーガーは作れる? 以下、ハンバーガー探求家・松原好秀さんのレポートだ(写真はモスバーガーの「グリーンバーガー」)

アメリカ人工肉市場の二大勢力、「ビヨンド・ミート」と「インポッシブル・フーズ」。両社が開発した植物由来の代替肉(=人工肉)を使った商品は、米国内の大手スーパーマーケットやファストフードチェーンなどで売られ、さらには東南アジアを含む世界に販路を広げているところだが、日本ではまだ販売されていない(2021年5月現在)。アマゾンでも、コストコへ行っても、両社のハンバーガーパティは買えない状況だ。

そうした中、日本国内の大手バーガーチェーン各社は、植物由来のパティを使った商品の開発を独自に進めてきた。現時点では「モスバーガー」「ロッテリア」「フレッシュネスバーガー」「バーガーキング」の4社が合計18品の植物性パティ商品を販売している。それぞれどんなものなのか、気になる中身を順に見ていこう。

ソイパティの先駆者・モスバーガー

日本で植物性パティをいち早く導入したのはモスバーガーだ。6年前の2015年3月に「ソイパティ」を使ったバーガー2品を発売した。2020年5月にはパティをリニューアルし、あわせて動物性食材や五葷(ごくん)を使わない「グリーンバーガー」を全国発売している。

  • モスバーガーの「グリーンバーガー」

    モスバーガーの「グリーンバーガー」(580円)

ソイパティとは、大豆由来の「植物性たんぱく」をベースにしたパティのこと。リニューアル「前」のモスバーガーのソイパティは、そこへさらに、たまねぎ、セロリ、マッシュルーム、レンズ豆、ひよこ豆などを混ぜ合わせ、ふっくらとした食感を出すために「卵白」も使用していた。リニューアルでは動物性食材に加え「五葷」(仏教において避けるべきとされる臭いの強い野菜のこと)の不使用も目指し、卵白やたまねぎを抜いた。

はたして、卵白なしで肉の「ほぐれ感」をどう出すか。旨味はどう表現するのか――。1年半かけた商品開発の末、肉の旨味を「しいたけエキス」で、ほぐれ感を「こんにゃく」で、たまねぎの甘みや食感を「キャベツ」で表現した新ソイパティが完成することになるのだが、こうして聞いてみると、使えない食材の役割を他の食材に置き換えて考えるという、まるで「パズル」のような複雑な作業だ。

新しいソイパティによる新商品「グリーンバーガー」では、バンズにも動物性食材を使っていない。生地にバター状にした豆乳クリームを加え、ほうれん草ピューレを練り込んだベジタブルバンズである。にんじんやゴボウで食感を出し、隠し味の甘酒でコクを加えたトマトソースも同バーガー専用だ。さて、一体どんな味がするのか……。

  • モスバーガーの「グリーンバーガー」

    バンズを含め、一切の動物性食材を排した「グリーンバーガー」。ハンバーガーとしての満足感は得られるのだろうか…

かぶりつくと、バンズに練り込まれたほうれん草のほろ苦い風味が微かに感じられ、そこへトマトソースのコク味がほどよく乗って、大変ヘルシーな印象。すっきりと食べやすくまとまっている。ソイパティは肉のような主役のポジションにはなくて、むしろ、構成する食材すべての「総合力」で味わうバーガーといった組み立てだ。

肉なしでも食べていてヤマ場があり、見せ場があり、一編のストーリーが感じられて、飽きない。豆や野菜だけで「よくここまで表現できたな」という、ちょっとした感動を覚えるほどである。ただし、風味が繊細なので、一回でそれらすべてを感じ取るのは難しいかも知れない。何度か食べるうちに良さがわかるバーガーに思う。

さらにモスバーガーは、看板商品の「モスバーガー」(390円)をはじめとする定番商品のパティをソイパティにしたメニューを11品販売している。つまり、お肉のパティかソイパティかを「選べる」仕組みで、これをやっているのは国内4社の中でモスバーガーだけだ。

  • モスバーガー
  • ソイモスバーガー
  • 「モスバーガー」(左)と「ソイモスバーガー」(右)のアップ写真。見た感じもほぼ同じで、まさに"肉迫"の再現度。なお、ソイパティシリーズの一番人気は「ソイモス野菜バーガー」だそう

通常の肉のパティもソイパティも、どちらを選んでも価格は同じ。パティのボリュームもほぼ同じだが、ソイパティの方は少し厚みを持たせてあり、噛んだ際の食感を肉に近づける工夫がなされている。

グリーンバーガーと合わせて12品ものソイパティメニューをそろえたモスバーガーだが、この先どこへ向かってゆくのだろう。本部に聞いてみたところ、「あくまでハンバーガー屋なので、軸はぶらさず、選択肢を増やしてゆく」という回答だった。肉が苦手な人、食べられない人でも看板メニューの「モスバーガー」が食べられるよう、「ソイモスバーガー」という「選択肢」を用意しているとの考え方だ。

この「選択肢」という言葉を胸に留めつつ、次のロッテリアを見てみたい。

BBQ味も新登場! ロッテリアのソイバーガー

モスバーガーに続いてソイパティのバーガーを売り出したのはロッテリアだ。2019年5月に「ソイ野菜ハンバーガー」(407円。以下、テイクアウトの場合、価格は異なる)を発売し、1年後の2020年5月にはリニューアルにあわせて「ソイ野菜チーズバーガー」(429円)をメニューに加えた。

  • ロッテリアの「ソイ野菜ハンバーガー」と「ソイ野菜チーズバーガー」

    ロッテリアの「ソイ野菜ハンバーガー」(左)と「ソイ野菜チーズバーガー」

ロッテリアのソイパティは、大豆から油を搾り出した後の「脱脂大豆」を利用したもの。食品油脂メーカー大手の不二製油と協力して開発に取り組んだ。脱脂大豆を加工して作る「大豆ミート」をふっくらと粒状に膨らませて使うところがポイントで、「ぷりぷり」とした弾力あるパティに仕上がっている。肉ともまた違う、新しい食感の食べ物のように筆者には感じられた。

  • ロッテリアのソイパティ

    ロッテリアのソイパティ。「ぷりぷり」とした弾力が感じられる新しい食感だ

ソイパティの開発には大まかにいうと3つの課題がある。「旨味」「食感」「におい」だ。大豆由来の植物性たんぱくには大豆特有のにおいがあり、ロッテリアでも開発当時、まさにその「におい」の問題で壁にぶち当たっていたという。

2019年5月に発売した初期モデルの「ソイ野菜ハンバーガー」では、香辛料をふんだんに利かせたエスニック料理のような味付けを施す方法でこれに対応。それがリニューアルを経て、現在はむしろ、あっさりとクセのない味付けに変わっている。中身はトマト、レタス、生オニオン。さらにはケチャップと、ノンコレステロールかつカロリー50%オフのマヨネーズが「エビバーガー」などに使うバンズの間に挟まる。軽めのバンズに強めのケチャップ、そして、ねっとり濃厚なマヨネーズドレッシングがリードする、パティを「感じさせない」味付けのバーガーだ。

  • ロッテリアの「ソイ野菜ハンバーガー」

    「ソイ野菜ハンバーガー」はあっさりとしてクセのない味付けだ

2021年2月には「ソイBBQチーズバーガー」(400円)を発売。これまでの2品とは明らかに路線の違う新商品で、バンズは「絶品バンズ」を使用、トマトとレタスは入らない作りになっている。

味の決め手はBBQソース。チャツネやマスタードを隠し味に数種類のスパイスをブレンドし、ヒッコリーでスモークした本格派だ。その芳ばしい風味と刺激的な甘味が利くところへ、ピクルスの酸味が「キュッ!」と合わさると、これが大変美味。下にはアルゼンチン産のはちみつを使ったハニーマスタードソースが敷いてあり、さらにはスライスした生オニオンが辛味を利かせている。つまり、刺激の強い味を多く集めることで、やはりパティの存在をあまり感じさせない作りとしてあるのだ。

  • ロッテリアの「ソイBBQチーズバーガー」

    ロッテリアの「ソイBBQチーズバーガー」は刺激的な味が絡み合いつつも、非常にポップな一品に仕上がっている

この傾向は、ロッテリアのソイバーガー3品すべてに共通して見られる。中でもソイBBQチーズバーガーが面白く感じられるのは、「スナック」としてのおいしさを強調している点だ。低カロリーをうたうヘルシーなイメージを醸成しつつも、一方では全く逆方向の、気軽に食べられるスナックとしての魅力が全開に発揮されている。

ロッテリアによると、「これらは入り口の商品」だという。その次の段階にある、より本格的な植物性バーガーの前段の商品として、「まずはおいしく」作ることを目指したそうだ。そう、「おいしい」は正義。おいしいからこそまた食べたくなり、店に足を向けたくも思うワケで、それはビーフのハンバーガーであっても植物性食材のバーガーであっても、何ら変わりはない。

それともうひとつ、ロッテリアのソイバーガー3品はすべて400円台前半に収まっており、ソイパティ向けに各社が開発したメニューの中では比較的低価格であることにも触れておきたい。試しに食べてみる上でも、手が出しやすい価格設定だ。