孤独死や死亡事故などが発生した「事故物件」。何かとメディアで注目される機会も多いが、「縁起が悪い」「心霊現象がある」などのイメージが強く、次の入居者が見つかりにくいことから、不動産業界では敬遠されてきた存在だ。しかし、不動産会社「MARKS」が運営する物件紹介サイト「成仏不動産」では、そんな事故物件の情報をオープン化。その流通を促すことで物件の所有者や遺族、買い手の救いの手となってきたという。
今回は2019年4月のサイト開設当初から、「成仏不動産」の専任スタッフとして業務にあたる有馬まどか氏と佐藤祐貴氏、同社執行役員の笹尾里枝氏に、事故物件を取り巻く現状などをうかがった。
現場で対応する社員のケアも
築年月などの基本的な物件情報に加え、過去に発生した事故の概要を記載して物件を掲載している「成仏不動産」。「お墓や火葬場、葬儀場などが見える物件」、「発見まで72時間以上の孤独死物件」、「火事や事故で人が亡くなった物件」、「自殺物件」など、7つの区分で物件を紹介する。
「MARKS」では事故物件の仲介のほか、自社で事故物件を買い取り、従来のイメージを払拭させるようなリノベーションを施した後に再販売する事業にも注力。直近で販売した3物件は、いずれも孤独死のあったマンション物件で、売り出して20日以内に成約したという。単身女性の購入者もいたそうで、事故物件の購入者や賃借人も多様化しているようだ。
「事故物件を気にしない人も徐々に増えていて、問い合わせ件数も多いです。事故物件に限らず、特に不動産の内装で大切なのが明るさ。天井の高さや柱の関係で暗い印象の部屋であれば、色合いなども考えて明るい印象の部屋にする工夫を施しています」(有馬氏)
もともと「MARKS」は通常の中古物件の再販売などが中心的な事業だったが、不動産業界で働き10年目という佐藤氏は「成仏不動産」事業の立ち上げ以来、その最前線で業務に従事してきた。
「お客様を事故物件にご案内したことはありましたが、事故物件と深く関わるようになったのはこの事業が始まってから。それまではネガティブな印象がやはり強かったです。ただ、事故物件とはいえご遺族の方にとっては自分の親族が住んでいた場所で。清掃会社のスタッフさんやご遺族さんと現場で話をするうちに、変な偏見や抵抗感はなくなっていきました」(佐藤氏)
もっとも、普通の人ならショックを受けてしまうような状況の現場へ足を運ぶことも少なくない。笹尾氏は会社のフォローアップ体制について語った。
「2~3カ月に一度は全社朝礼に神主さんや住職さんを招き、読経や焼香、お祓いを実施するなど、家族のいる社員も安心して働ける環境を整えてきました。実際に心霊現象を体験したスタッフもなく、社員の抵抗感もだいぶ少なくなっていますが、通常の物件より心理的な負荷がかかることは確かなので。お守としてお寺から頂いたお経の書かれた紙を現場スタッフに配って、みんなお財布などに入れて持ち歩いています」(笹尾氏)
地方の孤独死の現状
「同じ孤独死でもリフォーム費用は状況によって変わり、費用を安く抑えられれば、それだけ高く買い取れます。他社さんですと、相場より何割減という感じで、一律的に決められることが多いんですが、あくまで弊社は不動産に対する相場と現場の状況に応じて金額を設定していますね。孤独死や病死は最近の懸念事項ではなくなってきていて、わりと相場に近い価格でも需要があります」(佐藤氏)
腐敗が進むほど臭いなども充満し、体液の侵食状況も変わるため、大規模な改修が必要になる。一般的に人体の腐敗は死後72時間超えると進んでくるそうだが、季節などによっても当然スピードは変わる。
「暑い季節なら1~2日で始まりますし、夏場でもエアコン掛けていれば遅くなる。逆に冬場でもお部屋などが暖かい環境なら早いです。ゴミなどが体液を吸収して床下まで侵食しないケースなどもあります」(佐藤氏)
不動産の買い取りは一都三県だが、地方の物件の問合せも受け付けている。全国の業者と提携するため特殊清掃に関しては全国で請け負えるそうだ。孤独死というと都市部のイメージが強いが、地方の事故物件との事情に違いはあるのか?
「都市部は2~3カ月、長ければ半年気づかれない案件もありますが、郊外エリアは地域のコミュニケーションも比較的あり、早ければ1週間くらい、長くても1ヶ月ほどで異変に気づかれる傾向があります。場所によっては不動産の価格的に買い取りが難しいエリアもあり、そこは心苦しいところです」(佐藤氏)
事故物件の現場の共通点としては湿気やカビ、ゴミが多く、全体的に暗いといった点が挙げられるという。
「心を病んでそうした状態になってしまう可能性もありますが、そもそも住まい環境の影響も大きいと感じています。いま弊社では『建築医学』の勉強をしていて。部屋が明るければ気持ちも明るくなるし、暗ければ気持ちも沈んでしまう。弊社のリノベーションでも実践していることですが、なるべく風通しのいい明るい印象の部屋を選んだり、そうした観点でインテリアなどを工夫したりする意識が大切だと思いますね」(有馬氏)
事故物件の再生はサステナブルな事業
「ご遺族さんからヒアリングをしていると、「コロナがなければお見舞いに行けたのに」といった話を聞くことなどもあり、コロナ禍の影響も感じますね。新型コロナで亡くなられた案件もあり、特殊清掃の現場での感染予防には、より細心の注意を払っています」と語る有馬氏。
「成仏不動産」では物件の買い取り後、特殊清掃と抗ウイルス・抗菌施工、お祓いをした物件に「成仏認定書」を発行している。
「外国籍のお客様をご案内すると、「なぜ日本人が事故物件を気にするのかわからない」という声もいただきます。特にヨーロッパなどは石造の家を200年、300年と使っているので、事故物件じゃない家なんてほぼないくらいの認識で。心霊的な懸念はすごく日本人的な感覚ですね」(笹尾氏)
事故物件をリスクと考えてきた不動産投資家の認識も少しずつ変わりつつあるようで、国内でも事故物件への抵抗感はかつてより減ってきている。とはいえ、まだまだ一般的には選ばれづらい面があるのも事実だ。
「心霊的な問題だけでなく、『住んだ後に臭いがしてくるのでは?』といった心配もよくあります。事故物件という名前もよくないんですが、『成仏不動産』という言葉には不動産も成仏させたいという思いも込められていて。少しでもお客様の懸念を払拭していきたい。ある住職さんは『人の亡くなっていない場所なんて、ほとんどない』と仰っていましたが、今後も孤独死の件数は増えるでしょうし、不動産選びの選択肢のひとつとして、こうした物件も検討してもらいたいです」(有馬氏)
人口減少・高齢化が進む日本で空き家や孤独死の問題は回避できない課題だが、「成仏不動産」の事業はサステナブルにもつながる取り組みでもある。
「ご遺族さんの思いを汲み取り、物件をリノベーションして新しい形で売り出す仕事にやりがいを感じています。将来的に自分が物件を持って事故物件になったときも、こうした受け皿があると嬉しいですし、その意味では将来の自分のためにもなる取り組みだと思っていますね」(有馬氏)