混同されがちな「的を得る」と「的を射る」という2つの言葉。これらの違いは何なのか、またどちらが正しいのかがわからないという人も多いでしょう。

本記事では「的を得る」と「的を射る」の意味や違い、使い方・例文に、類類や英語表現などを紹介します。

  • 「的を得る」と「的を射る」

    「的を得る」と「的を射る」について正しい理解を深めましょう

「的を得る」と「的を射る」はどちらが正しい? 一方は誤用なの?

詳しくは後述しますが、「的を射る」とは的確に要点をとらえることを意味する言葉であり、「的を得る」はこの「的を射る」の誤用だと長きにわたって考えられていました。

国文学者の吉海直人氏によると、『三省堂国語辞典』の第三版(1982年)が最初に「的を得る」という表現を「的を射る」の誤用としたそうです。ただ、第七版(2013年)では誤用という表現が削除され、「的を得る」そのもので正しい使い方として掲載されました。

平成24年に文化庁が行った『国語に関する世論調査』では、10代から60代以上のすべての年代で「的を射る」を使う人の方が「的を得る」を使う人より多かったという結果が出ています。しかし、「的を得る」を使う人もかなり多く、特に30代では「的を射る」が48.8%、「的を得る」が46.0%という、ほぼ同率の結果が出ました。

有識者の間にも「本当に『的を得る』は『的を射る』の誤用なのだろうか」といった疑問を呈す人が出始め、世論調査の結果もあってか、近年は「『的を得る』は『的を射る』の単なる誤用ではない」とする風潮になってきていると言えそうです。「的を得る」というのは「的を射る」から派生してできた「新語」ととらえることができるかもしれません。

慣用句「的を得る」と「的を射る」の意味とは

ここでは、改めて「的を得る」と「的を射る」の意味を確認しておきましょう。

「的を射る(まとをいる)」の意味

「的を射る」について、広辞苑では「物事の肝心な点を確実にとらえること」と説明されています。言い回しとしては、「的を射た発言」「的を射た意見」のような、「的を射た○○」がよく使われます。

「的を得る(まとをえる)」の意味

広辞苑に「的を得る」の意味は掲載されていません。一般的に話し言葉で使用され、「ぴったりと要点をとらえる」という意味で使われています。

「的を得る」と「的を射る」の違い

両者に厳密な違いはありませんが、「的を得る」は話し言葉として、「的を射る」は書き言葉として使用されがちです。

日常会話ではどちらを使っても問題はないでしょうが、ビジネスシーンや正式な場ではいまだ広い年代で使う人が多い「的を射る」を使った方が無難と言えます。

「的を射る」の使い方と例文

ここからはビジネスシーンで使用されることが多い「的を射る」の使い方や例文、類語を説明していきます。

「的を射る」の「的」とは「目標、要点」。「射る」は「肝心なポイントを的確にとらえること」という意味です。そのため、「目標や要点を的確にとらえる」という意味で使うのが正しい使い方です。

例えば、会議での誰かの発言に同意するときや、質問や指摘が本質をとらえていることを述べるとき、提案や企画に意見を述べるときなどに「的を射る」を使います。

<例文>

  • 上司の話はいつも的を射ているなあ
  • 彼女の的を射た発言で、その場にいた全員が納得した
  • 質疑応答にて、的を射た質問をすることは大切だ
  • 的を射た内容なので、相手もきっと感心してくれるだろう
  • 大体の内容は的を射ているが、もう少し企画書の精度を高めるように
  • 的を射るの使い方

    「的を射る」は要点を的確にとらえるという意味です

「的を射る」の類語や言い換え

「的を射る」にはいくつかの類語や言い換え表現が存在します。

当を得る

「当を得る(とうをえる)」とは、要点を押さえること、道理にかなっていることという意味の言葉です。「当(とう)」自体が道理にかなう、理屈に合うことを意味します。

なおこの「当を得る」と「的を射る」の意味が似ていることと、「当を得る」に「得る」という動詞が使われていることから、両者を混同して「的を得る」という表現が生まれたのではないか、という説もあります。

<例文>

  • 誰もが混乱していたが、その場においても彼女は当を得た発言をした

正鵠を得る

「正鵠を得る(せいこくをえる)」とは、物事の急所を正確につくことをいいます。「正鵠」とは中国で生まれた言葉で、もともとは「的の中心」という意味があります。そこから転じて「物事の急所や要点」という意味で使われるようになりました。

<例文>

  • できるだけ端的に、正鵠を得た発言をするように心がけている
  • 彼女はいつも正鵠を得た発言をするので、社内で信頼されている

核心をつく

「核心をつく(かくしんをつく)」とは、「物事の最も重要な問題点を鋭く指摘する」という意味のことわざです。人の気にしている点や、痛いところをついた、というときにこの言葉が使われることが多いです。

人の痛いところをつく、というとあまりいい印象を受けないかもしれませんが、正論や物事の本質を見抜くという点では、核心をつくのは優れた能力だともいえます。実際、物事の本質をとらえられる人は、議論や会話をまとめたり盛り上げたりしてくれるので、芸能の世界でも物事の核心をつく発言をするタレントは大活躍しています。

<例文>

  • 同期に核心をつく発言をされて、傷ついた
  • あまり核心をつきすぎると、他人から嫌われてしまうだろう
  • 彼はいつも核心をついた発言をするので、周りからは距離を置かれている

看破する

「看破する(かんぱする)」とは、「見破ること、物事の真相や裏側を見抜くこと」という意味です。

<例文>

  • 副業をしていることを上司に看破された
  • 彼氏の浮気を看破した彼女
  • 母にテストの点数を隠していたことを看破された
  • 試合で戦う相手の戦略を看破して、見事勝利を収めた
  • 「的を射る」の類語、言い換え

    「的を射る」の類語や言い換え表現は?

「的を射る」の英語表現

「的を射る」は英語でどう表現するのでしょうか。ここからは英語での表現方法を紹介します。

hit the nail on the head

的を射るを英語で表すと「hit the nail on the head」となり、直訳すると「頭の上で釘(くぎ)を打つ」です。「一体どういう意味?」と思いますよね。

これは英語の慣用句なので「hit the nail」と「on the head」に分けて考えることで説明ができます。この2つは、下記のような意味があります。

「hit the nail」 : 釘を打つ

「on the head」 : 釘の頭・釘の平らなところ

そのため、「釘の平たい部分にしっかり金槌を当てれば、釘がよく打てる」→「的を射た発言で深く心に刺さる」=「うまく言い当てる・核心をつく」と解釈したと考えられます。

<例文>

  • I think David hit the nail on the head when he said that kids won't want to buy this product.
    (デイビッドの、子どもたちはこの製品を買いたくないだろうという発言は的を射ていた。)

さらに、「hit the nail on the head」の言い換え表現としては、下記のようなものがあります。

・That's right! (そのとおり!)

・Exactly! (わかる!/そのとおり!)

英語の慣用句も直訳からの解釈を考えてみると、新しい発見があって面白いですね。

  • 「的を射る」を英語で表すと?

    「的を射る」の英訳には釘を使った慣用句が当てはまります

「的を得る」は間違いとは言い切れないが、「的を射る」を使った方が無難

混同しやすい「的を得る」と「的を射る」はどちらが正しいのかを説明しました。

どちらも「物事の肝心な点を確実に抑える」という意味で通じ、「的を得る」も単なる誤用ではなく新語だとする説もありますが、正式な場やビジネスシーンにおいて使用されるのは「的を射る」の方です。

類語や英語表現なども一緒に覚えることで、言葉に対する知識も広がります。「的を射る」という言葉を正しく理解して、使いこなせるようになりましょう。