俳優の吉沢亮が主演を務める大河ドラマ『青天を衝け』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)。2日放送の第12回「栄一の旅立ち」では栄一の人生の転機が描かれ、吉沢が涙の熱演で見事に表現した。チーフ演出の黒崎博氏に、第12回に込めた思いや撮影の裏話について話を聞いた。

  • 『青天を衝け』主人公・渋沢栄一役の吉沢亮

攘夷への思いを強めていた栄一は、惇忠(田辺誠一)や喜作(高良健吾)らとともに、高崎城を乗っ取り、横浜の異人居住時を焼き討ちにする計画に向けて準備。世の中を変えるために命をかける覚悟を決めていた。だが、京都から戻ってきた長七郎(満島真之介)が「これは暴挙だ」「お前たちの尊い命を犬死で終わらせたくねえんだ」と涙ながらに中止を訴え、計画は取りやめに。尊王攘夷の志士たちの計画がことごとく失敗していることを把握している長七郎のほうが正しく、自分の考えが間違っていたと栄一は気づく。

家に戻った栄一は、妻・千代(橋本愛)に「俺は間違っていたんだ。自分が信じた道が間違っていたなんて」と吐露。さらに、長女・うたを抱くことを避けていたことについて、「俺は臆病者だ。このちっちぇえ、あったけえのを抱いて愛しんで、市太郎のときみたいに失うのが怖かった。その上、父親の役目も果たそうとせず、命を投げ出そうとしたんだ。うたに合わせる顔がねえ」と胸中を明かし、「でも、かわいいな。うた、お前なんてかわいいんだ」と泣き笑い。

そして、千代が栄一にうたを抱かせると、「許してくれ、うた。お前のとっさまは臆病だ。口ばっかりのとっさまだ」と号泣。「あーー、死なねえでよかった。うたを抱いたからには、俺は自ら死ぬなんて二度と言わねえ。どんなにみっともなくても生きてみせる」と、何があっても生き抜くことを心に決めた。

この回の栄一について、黒崎氏は「変な言い方ですけど、カッコ悪いと思う。大失敗の回なので。それまで自分がとりつかれていたものが完全に間違っていたことを認めるのは、男として悔しいし恥ずかしい。千代さんとの2人のシーンもみっともないセリフだと思う」と話し、「みっともなさをさらけ出してやろうねという話をして本番に臨んでもらいました」と吉沢とのやりとりを明かした。

横濱焼き討ち計画を断念した栄一は、「京でもう一度、天下のために何ができるのか探ってみてえんだ」と、村を出て京都へ向かうことを決意。喜作とともに旅立ち、血洗島編が完結した。

黒崎氏は「少年時代から描いてきた血洗島編がいったん幕を閉じ、次のステージへ栄一が飛び出していく大きな転換期。実際の渋沢栄一さんがそう言っていたように、『自分は生き抜くんだ』というところにやっとたどり着く決意の回」と解説。

「幕末や武士を表現をするときに、いかに美しく死ぬかという美学が描かれることがよくある。若かりし日の栄一は命を投げ出すことにとりつかれているところがありますが、ある時点で『俺は最後まで生きなきゃダメなんだ。生きてこの国のために何かしないと意味がないんだ』と、当時の人としては珍しく言い切った人だと思う」と語る、その転換期がまさにこの第12回であり、「死ぬ美学ではなく、どんなにみっともなくても生きるということを、これから最後まで貫いたテーマとしてブレずに描いていきたい」と力を込めた。

また、「キャストのみなさんが素晴らしい熱量で演じ切ってくれた」と俳優たちの熱演を称賛。千代とのシーンや、長七郎の涙の訴え、父・市郎右衛門(小林薫)に京都へ向かうことを告げるシーンは、ほぼ一発撮りで撮影したという。

「自分でも計算しきれない気持ちが出てくるのを狙おうという話をしました。ドキュメンタリーみたいに、やってみないとどうなるかわからない。カメラマンもどう動くかわからないけど、計算しないでやってみるという撮り方をしました」と狙いを説明。よりリアルな感情が生まれたようで、「長七郎がみんなを命がけで止めるというやりとりは、それぞれがどんな間合いで怒り出すとか、計算ずくでやっているはずなのに誰も予想がつかないような感覚に陥っていました」と振り返った。

今後、物語の舞台は、京都、パリへ。京都では徳川慶喜(草なぎ剛)との出会いが待っている。黒崎氏は「徳川慶喜と全く縁のない栄一がどうやって出会うのか。どんどん人生のステージが変わっていく物語を楽しんでいただけたら」と視聴者にメッセージを送った。