大河ドラマ『青天を衝け』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか』第7回「青天の栄一」(脚本:大森美香 演出:村橋直樹)で印象的な言葉は「インテリ農民」by 徳川家康(北大路欣也)。インテリ農民である栄一(吉沢亮)が己の生きる道(青天を衝く)を見出すと同時に、千代(橋本愛)への恋心も実感し、ついに「お前が欲しい」となかなかストレートな告白をする。ここからが本格的なはじまりを感じさせるドラマティックな回だった。子供だった尾高平九郎が成長し、本役の岡田健史になって、こちらの今後の活躍にも期待が高まった。

  • 『青天を衝け』第7回の場面写真

千代をめぐって栄一と喜作が喧嘩

尾高長七郎(満島真之介)が江戸に出ていくことになって送別会が行われ、そこで長男・惇忠(田辺誠一)が餞に漢詩を作って読む。「名を高め世に知れ渡る偉大なる仕事をするのはおまえの役目だ」と言って、自らは家を守るという惇忠が、本当は外に出て自身の力を試したいのだろうと思う栄一。長七郎が旅立っていった日、喜作(高良健吾)がお千代を賭けて長七郎に勝負を挑んだ

ことを、惇忠が知って、話を聞こうと言う。先を越された栄一はしゅんとなっている。男たちが自分を巡って勝手に盛り上がっていることを知らない千代。令和3年的な視点で見ると、女性が男たちの功名心を満足させるもののひとつになっている印象を受けるが、当時はそうだったと受け止め、是非は問わずに視聴したい。

栄一はなんとか喜作を諦めさせようと、あれこれ邪魔をする。喜作を持ち上げて機嫌をとって考え方を変えようとするところが策士的。頭のいい栄一らしい。でも結局怒らせてしまう。

喜作「お千代が欲しい」
栄一「お千代は駄目だに。おまえはおしゃべりで威勢のいいおなごにしろ」
と大喧嘩に。

ここも令和3年的視点だと「おしゃべりで威勢のいいおなご」差別になりかねないが、この時代はこうだったのと、血気盛んな男子たちのおバカっぷりと広い心で受け止めたい。

やがて、開国して西洋文化が日本に一気に流れるとレディファーストの文化も入ってきて女性観が変わってくるのである。

今後も注目したい美賀君や篤姫の言動

開国の流れは進みつつあったが、それを認めない徳川斉昭(竹中直人)はまたも朝廷に連絡をとり、慶喜(草なぎ剛)が説得を試みる。

妻・美賀君(川栄李奈)はいずれ、公方になるつもりではないかと尋ねるが、一橋家だけでも荷が重いと応える慶喜。第6回ではあんなに乱暴だった美賀君がすっかり慶喜に付き従う姿勢を見せていることに注目したい。

本人の考えはよそに、慶喜を次期将軍に推す動きが活発になってきた。篤君(上白石萌音)をめとったばかりの家定(渡辺大知)は反発する。篤姫が家定をなだめているのに、乳母・歌橋(峯村リエ)が余計なことを言って家定を焚きつける。インテリ農民たちの家よりも、武士の世界の女性たちのほうが、控えめなふりして男性たちを動かす裁量をもっているように見える。

これまでの大河ドラマでも『篤姫』のほか、山内一豊の妻・千代が主人公の『功名が辻』、秀吉の妻・ねねが主人公の『おんな太閤記』、前田利家とその妻・まつのダブル主人公だった『利家とまつ』など武士の妻の視点から描いた作品は好評を博してきたこともあり、美賀君や篤君の言動は興味深い。家定が菓子作りを好んでいることも男女の役割の固定観念から解き放たれている。

江戸に出た長七郎は、真田範之助(板橋駿谷)と合流、儒学者・大橋訥庵(山崎銀之丞)に出会う。山崎銀之丞が大森美香脚本の朝ドラ『あさが来た』で九州の炭鉱の親分役を演じていた。

千代にストレートな告白「お前が欲しい」

江戸でおおいに刺激を受けている長七郎から栄一に手紙が来て、千代と栄一は思いやっているものと思っていたと書いてあり、「お前の欲しいものはなんだ お前の志はなんだ」と問いかけてあった。それに影響された栄一は、藍の商いに風流人の格好をしてでかけ、道すがら、そのときの気持ちを漢詩にしたためる。さすがインテリ農民。冒頭の惇忠の漢詩はここからの場面の前ふりになっていたのである。

「私は青天を衝く勢いで白雲を掴む勢いで進む!」

若く体力のある栄一は険しい山をぐんぐん登っていく。はあはあとした荒い息遣いがふと静寂になり、360度の青い空。OP曲に乗って手を青天に突きつける。映画のようなワンシーンだった。

帰宅した栄一は猛然と走って、千代に「お前が欲しい」と告げる。「お前の欲しいものはなんだ お前の志はなんだ」という問いの答えが「千代」のことだけ? と思ってしまうけれど、そういうわけではなく、栄一はあの瞬間、もっと広い社会にも目を向けたのだろう。ただ、あれだけの強烈な体験によって愛に確信を持つことも悪くなく、情熱的なラブストーリーとして見ても楽しめた。

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