所得から控除(差し引ける)できる項目のうち、人に関して適用される「人的控除」の中に「寡婦控除」というものがあります。令和2年の税制改正で、寡婦控除の適用範囲が変更になりました。ここでは寡婦控除についての概要と、いくら控除されるのかを説明していきます。

  • 寡婦控除やひとり親控除の概要を説明します

    寡婦控除やひとり親控除の概要を説明します

寡婦控除とひとり親控除とは

2020年分より寡婦控除の制度が変更され「寡婦控除」と「ひとり親控除」の2つに分けられることとなりました。寡婦控除とひとり親控除の要件は以下のとおりです。

【ひとり親控除】

ひとり親とは、原則としてその年の12月31日に、婚姻をしていないこと又は配偶者の生死の明らかでない一定の人のうち、次の3つの要件の全てに当てはまる人です。
(1)その人と事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる一定の人がいないこと
(2)生計を一にする子がいること
(3)合計所得金額が500万円以下であること

【寡婦控除】

寡婦とは、原則としてその年の12月31日に、いわゆる「ひとり親」に該当しない人で、次の要件のいずれかに当てはまる人です。納税者と事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる一定の人がいる場合は対象となりません。
(1)夫と離婚した後婚姻をしておらず、扶養親族がいる人で、合計所得金額が500万円以下の人
(2)夫と死別した後婚姻をしていない人又は夫の生死が明らかでない一定の人で、合計所得金額が500万円以下の人
なお、この場合は、扶養親族の要件はありません。

令和2年度の税制改正による見直し内容

2020年度の税制改正により、一般の寡婦控除、特別の寡婦控除および寡夫控除の要件の見直しが図られました。その結果、ひとり親控除が新たに制定され、寡婦控除についても「一般」と「特別」という分け方がなくなりました。

改正前までの寡婦控除では、夫と離婚もしくは死別した人のみが対象となっており、未婚で子どもを育てているシングルマザーは対象となっていませんでした。一方の「ひとり親控除」では12月31日現在で結婚していないこととなっているため、その前に結婚していたかどうかは問われていません。つまり未婚で子どもを育てている人も対象となる点が、改正前の「寡婦控除」との大きな違いです。

また改正前の「一般の寡婦控除」では、扶養する子どもがいれば所得の額は問われませんでしたが、改正後の寡婦控除とひとり親控除では、すべての対象者が合計所得金額500万円以下であることという所得要件が追加されています。

加えて、すべての対象者に「事実婚関係にある人がいないこと」が要件になりました。事実婚関係にあるとは、

住民票に世帯主との続柄が世帯主の未届の夫又は未届の妻、もしくは世帯主と事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる続柄である旨の記載がされた者

とされています。つまり住民票にそのような記載があるかないかで判定されます。

「寡夫控除」はひとり親に該当する場合のみ適用となり、「寡夫控除」という名称は使われなくなりました。

寡婦控除・ひとり親控除の控除額

改正前と改正後の寡婦控除と寡夫控除、ひとり親控除を比較すると、以下のようになります。

  • 国税庁資料より監修者作成

    国税庁資料より監修者作成

未婚のひとり親は今回から新たに控除を得ることができます。

【改正前】……控除額が0円

【改正後】……扶養する子どもがあり、合計所得金額が500万円以下で、かつ事実婚関係にある人がいない場合はひとり親控除として所得から35万円が差し引けます。

改正前に「一般の寡婦」に該当していた人は、改正前と後で以下のように変わります。

【改正前】……控除額が27万円

【改正後】……合計所得金額が500万円以下で、事実婚関係にある人がいない場合には、これまでと同様に寡婦控除として27万円を所得から控除することができます。合計所得金額が500万円以上であったり、事実婚関係にある人がいたりする場合には非該当となり、控除額は0円となります。

改正前に「寡夫」「特別の寡婦」に該当していた人は、改正前と後で以下のように変わります。

【改正前】……寡夫は控除額が27万円で特別の寡婦は控除額が35万円

【改正後】……事実婚関係にある人がいなければひとり親控除が受けられることになり、所得から35万円を差し引くことができます。「特別の寡婦」に該当する人は「ひとり親」に該当しても控除額は変わりませんが、「寡夫」に該当していた人は「ひとり親」に該当すると控除額が27万円から35万円に上がります。

寡婦控除・ひとり親控除の申告方法

令和2年以降に寡婦控除、ひとり親控除の対象となった方は、給与所得者であれば、年末調整時に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出することで寡婦控除・ひとり親控除の申告を行います。

これまでに寡婦控除や寡夫控除の適用を受けていた場合には、改正後に引き続き控除の該当者になるかどうかで、申告の有無が異なります。

改正前に一般の寡婦控除の適用を受けていた人で、改正後も引き続き寡婦控除を受けられる場合には新たに年末調整で申告する必要がありませんが、非該当となった人は該当しない旨を年末調整時に申告する必要があります。

改正前に「寡夫」「特別の寡婦」の適用を受けていた人で「ひとり親」に該当する場合は、新たに年末調整で申告をしなくても「ひとり親控除」を受けることができます。一方で非該当となった人は、該当しない旨を年末調整時に申告する必要があります。

なお、改正後の「寡婦」や「ひとり親」に該当し、年末調整時に申告を忘れてしまった場合には、確定申告でその申告を行うことができます。申告は5年前まで遡って申告できますので、忘れてしまったとしても期間内であれば諦めずに申告するようにしましょう。

まとめ

2020年度の税制改正によりひとり親控除が制定され、未婚で扶養する子どものある人もひとり親控除の対象となりました。一方で所得要件・事実婚要件が対象者すべてに適用されることとなり、改正前に控除が適用されていた人が該当しなくなるケースも出てきます。新しい寡婦控除およびひとり親控除をよく理解して、自分が適用されるかチェックしてみてください。