近藤七段の意表の袖飛車を相手に自在の指し回しで快勝

お~いお茶杯第62期王位戦(主催:新聞三社連合)の白組、▲羽生善治九段-△近藤誠也七段戦が3月24日に東京・将棋会館で行われました。ここまで2勝0敗の羽生九段と0勝1敗の近藤七段との一戦は、137手で羽生九段が勝利を収めました。


第62期王位リーグ表

本局は後手の近藤七段が序盤から変化球を投じました。2手目に△3二金、4手目に△7二飛と指して、袖飛車と呼ばれる力戦を採用。非常に珍しい作戦です。

近藤七段が袖飛車を公式戦で指すのは初のこと。羽生九段は一度だけタイトル戦という大舞台で採用があります。それは2018年の第89期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第3局でのことで、豊島将之八段(当時)相手に指していますが、結果は豊島八段の勝ちでした。

羽生九段は右金を6七に配置して陣形を膨らませたのに対し、近藤七段は右金を5一に構えて低い構えをとります。そして、近藤七段が△3五歩と桂頭攻めを繰り出して本格的な戦いが勃発しました。

本局はここからの羽生九段の桂使いが見事な一局でした。狙われた桂を相手の桂と交換し、その桂をすぐに▲5七桂と自陣に設置。相手の銀を撤退させ、数手後には逆サイドに▲6五桂と跳ねてさらに桂交換を行いました。この桂交換によって、自陣で眠っていた角の利きが通ったのも一石二鳥です。

そして羽生九段は再び手にした桂を▲2六桂と攻めに活用。角を細かい動きで5七に配し、飛車・角・銀・桂で敵陣を集中砲火できる理想の形を築きます。

一方の近藤七段は、せっかく持ち駒にした桂を△3二桂と受け一方にしか利かない地点に打たざるを得なくなってしまいました。桂は金銀とは異なり、自玉を守るのには不向きな駒。むしろ自玉付近にはいない方がありがたい駒でもあります。実際、本譜でもこの桂が今後働くことはありませんでした。

敵玉上部を制圧した羽生九段は、今度は6~7筋方面に目を向けます。まずは馬を作った後に、飛車を成り込むことに成功。いつまでも3筋からの攻めに固執するのではなく、盤上を広く見た切り替えは、アマチュアにとってとても参考になる指し回しでした。

縦横からの攻めを食らっては、近藤七段も粘ることは困難でした。最後は羽生九段が馬を切り飛ばして、近藤玉を寄せ切りました。

この勝利で羽生九段は白組無傷の3連勝。長谷部浩平四段、池永天志四段、近藤七段と若手有望株を次々と撃破しました。第60期以来の挑戦者決定戦、さらに、第58期以来の王位戦七番勝負登場に向けて、羽生九段の歩みは止まりません。

有望な若手を寄せ付けぬ強さを見せた羽生九段(写真はA級順位戦最終局のもの)
有望な若手を寄せ付けぬ強さを見せた羽生九段(写真はA級順位戦最終局のもの)