台風や地震、火災などの災害や、シロアリの発生、盗難――。私たちの周りには、いつ起こるかわからないトラブルやリスクが多々あります。

そんなトラブルが発生した際、受けた被害額の一定金額を所得から差し引くことができる「雑損控除」という制度があることをご存知ですか?

上記のような被害を受けた納税者がこの制度を利用することで、支払った税金の一部が還付されます。本記事では、いざというときに悩まないために雑損控除の申告に必要な書類について説明いたします。

  • 「雑損控除」とは? またその必要書類とは?

    「雑損控除」とは? またその必要書類とは?

雑損控除の申告に必要な書類と書き方

会社員や公務員等の給与所得者は年末調整で払いすぎた税金が還付されるようになっています。しかし、雑損控除による還付は確定申告でしか申請できません。

そのため、いざ雑損控除の適用を受けようと思っても、普段は確定申告を申請していないような方にとっては戸惑うことも多いでしょう。ただし、焦る必要はありません。還付の確定申告は5年間のうちにできますので、その間に必要な書類を揃えていけばよいのです(※1)

確定申告で雑損控除の適用を受けるために必要な書類は下記のようになります(※2)

  1. り災証明書(罹災証明書)あるいは被災証明書(交付をうけている場合)
  2. 被害を受けた家屋・土地の所有者、取得時期、取得価額、面積のわかるもの(工事請負契約書、登記簿謄本、登記事項証明書、固定資産税明細書など)
  3. 被害を受けた家財等の取得時期、取得価額がわかるもの(売買契約書、領収書など)
  4. 被害を受けた車両の取得時期、取得価額のわかるもの(売買契約書、領収書など)
  5. 被害を受けた資産に係る修繕費、取り壊し費用、除去費用などがわかるもの(領収書、請求書、見積書など)
  6. 被害を受けた資産について、保険金や補助金などを受け取った場合(見込まれるものを含む)その金額がわかるもの(支払通知書、通帳の写しなど)

上記のうち(1)のり災証明書は、自然災害によって、家屋等に被害を受けられた方に調査の上、その被害の証明をするものです。お住まいの自治体に申請をする際、本人確認書類(免許証や健康保険証等)が必要となります。火災の場合も近くの消防署に「火災損害届」を提出して「り災証明書」を発行してもらいます。盗難の場合は警察に被害届を出して、被害に遭った証明を受けます。

(2)(3)(4)の書類は資産の取得価格等がわかる書類で、購入時の契約書や領収書等があれば用意します。また、不動産や家財の多くが被害を受けた場合は、一覧表にしておくと便利でしょう。

特に、「資産が古くて取得価額がわからない」「領収書を失くしてしまった」などの場合や被害が大きくて個別に家財等を把握することが困難な場合は、どうしたらよいのか悩むことでしょう。しかしこの場合には、「被災した住宅、家財等の損失額の計算書(※)」により計算した金額を使用して簡便に申告することができます。

(※)国税庁「被災した住宅、家財等の損失額の計算書

また、計算書での計算の方法がわからない場合は、税務署で相談をすることで丁寧に教えてくれます。ただし、相談をする場合にも上記の書類は必要ですので、できる限り用意をして行きましょう。

(5)の書類は、災害後に支出した費用ですので領収書など必ず保管してください。

(6)の書類は、保険会社が作成する書類ですので、届いたら大切にとっておきましょう。

なお、被害を受けた資産の写真は必要書類ではありませんが、後日でもよいので証明のために写真を撮っておくとよいでしょう。写真は、被害額を算定するときにも役立ちます。

また、被害状況によって、準備する書類が異なる場合もありますので、確定申告書を提出する場合は、事前に税務署に問い合わせをすると二度手間をかけることがなくなります。

これらの書類は、確定申告書と一緒に税務署に提出します。給与所得者の場合は源泉徴収票を提出する必要はありませんが、税務署に相談をする場合や直接確定申告書を持参する場合は、確認をすることもありますので持っていくとよいでしょう。また、確定申告を電子申請で行う場合はPDFなどにして送信します。

雑損控除の対象となるもの

雑損控除の対象になる資産の要件は、以下の通り。

  1. 資産の所有者が次のいずれかであること
    ・納税者
    ・納税者と生計を一にする配偶者やその他親族で、その年の総所得金額が48万円以下の者
  2. 生活に通常必要な住宅、家具、衣類などの資産であること
    ※事業用の資産や別荘や書画、骨董、貴金属などで1個または1組の価額が30万円を超えるものなどは、当てはまらない

また、上記の要件を満たす資産であっても、損害の原因によっては控除の対象外となる可能性もあります。控除の適用を受けるには、損害の原因が、下記のいずれかである必要があります。

  • 震災、風水害、冷害、雪害、落雷など自然現象の異変による災害
  • 火災、火薬類の爆発など人為による異常な災害
  • 害虫などの生物による異常な災害
  • 盗難
  • 横領

詐欺や恐喝の場合は、雑損控除は受けられません(※3)。そのため、例えば少し前から問題になっている「振り込め詐欺」は、その名の通り「詐欺」であるため雑損控除には該当しませんので被害に遭わないように注意が必要です。

また、「害虫などの生物による異常な災害」においては、シロアリの被害例が多くあるようです。ただし、実際にシロアリの被害に遭っても「シロアリ駆除の費用」は当てはまりますが、その後の「予防のための費用」は含まれませんのでご注意ください(※4)

そのほか、盗難では、車上荒らしにあって車を傷つけられたり、お金を盗まれたりしたことも含まれます。横領は、知人に貸した車や本などを勝手に無断で売却されたケースも当てはまります。

  • 雑損控除の対象となるもの、ならないものを理解しておきましょう

    雑損控除の対象となるもの、ならないものを理解しておきましょう

雑損控除と差引損失額について

差引損失額とは、下記の計算で算出された金額で、雑損控除の額を計算する場合に必要となります。

  • 差引損失額=
    損害金額+災害等に関連したやむを得ない支出の金額 - 保険などにより補填される金額

損害金額とは、損害を受ける直前の時価で、今同じものを購入した場合に必要な価格から使用した年数による減価償却費用を引いた金額です。

災害等に関連したやむを得ない支出の金額とは、「災害関連支出の金額」に加え、盗難や横領により損害を受けた資産の原状回復のために支出した金額を指します。また、火災保険や自動車保険等保険に加入していた場合は保険金を受け取ることができますので、その金額はマイナスします。

差引損失額が出たら、下記の2つの計算式に当てはめて、多いほうの金額を確定申告書の雑損控除の欄に記入します。これで雑損控除の金額が確定します。この金額を所得から控除して税金を軽減することになります。

  1. 差引損失額 - 総所得金額等×10%
  2. 差引損失額のうち災害関連支出の金額 - 5万円

まとめ

雑損控除はさまざまなケースがあり、それにより必要書類は異なります。どんな書類が必要か、損害金額はどのように計算をするのか等、わからないことは事前に税務署で相談をすることをお勧めします。

相談窓口は、確定申告時期やその直前以外であれば、それほど混んではいませんので、待ち時間も少なく丁寧に相談に乗ってくれることでしょう。

「被害を受けて一刻でも早く税金の還付を受けたい」という気持ちは理解できますが、あわててその年の確定申告時期に確定申告書を作成して還付を受けると必要書類の見落としや領収書等を探す時間的余裕がなくなってしまいます。

5年以内であればいつでも確定申告はできますので、じっくりと必要書類の準備に取り組んではいかがでしょうか。

参照 :
(※1)国税庁「No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)
(※2)江津市「災害などによる雑損控除の申告
(※3)国税庁「詐欺による損失
(※4)国税庁「シロアリの駆除費用