セルフメディケーション税制を利用するときの確定申告は、どのような手順で行えばいいのでしょうか。その際、医療費などを対象とする医療費控除も一緒に手続きできるのかどうかも気になります。

本記事では、セルフメディケーション税制を利用する際の確定申告の方法と、医療費控除とセルフメディケーション税制の併用について解説します。そのほかにも、セルフメディケーション税制の節税効果を試算してみましたのでご覧ください。

  • 「セルフメディケーション税制」を利用するときの確定申告の方法

    「セルフメディケーション税制」を利用するときの確定申告の方法

確定申告とは

確定申告とは、毎年1年間の所得とそれに対する所得税を申告するために行う手続きです。その時期は基本的に2月16日から3月15日で(土日祝日の場合は翌日に移動)、対象となる人は期間中に確定申告書を作成し、最寄りの税務署に提出します(※1)

令和2年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告の相談及び申告書の受付は、令和3年2月16日から同年4月15日まで

基本的に会社員の場合、年間所得が20万円以下であれば確定申告は不要です。ただし、以下の場合は確定申告が必要です。

  • 副業や運用益などの所得が20万円を超えた
  • 2カ所以上から給与をもらっており、本業以外の所得が20万円以上ある
  • 給与収入が2,000万円以上ある
  • その年に住宅ローンを組んだ
  • 年の途中で退職した
  • 医療費控除やセルフメディケーション税制を受ける

また、自営業者やフリーランスの方は確定申告が必要です。

セルフメディケーション税制は医療費控除と一緒に申請できるのか

気になるのは、医療費控除とセルフメディケーション税制は一緒に申請できるかどうかという点でしょう。これは結論から言うと、医療費控除とセルフメディケーション税制は一緒に申請することができません。

1年間に支払った医療費が10万円以上になったとき、超えた分が所得控除になる医療費控除。そして、1年間に特定の成分を含むスイッチOTC医薬品を購入した合計額が1万2,000円以上になったとき、超えた分が所得控除となるセルフメディケーション税制です。

どちらも手続きをする際は確定申告をします。自営業者やフリーランスの方は事業所得などの申告時に一緒に手続きをします。また、確定申告が必要でない会社員も、医療費控除またはセルフメディケーション税制の手続きをするときは確定申告を行う必要があります。

しかし、医療費控除とセルフメディケーション税制は併用できません。仮に医療費や医薬品に10万円以上の支払いがあり、なおかつ、その医薬品が対象となるスイッチOTC医薬品だとしても、医療費控除とセルフメディケーション税制のどちらか一方を選択します。

セルフメディケーション税制と医療費控除で迷ったら?

医療費控除とセルフメディケーション税制のどちらを選択しようか迷うことがあるかもしれません。

まずは選択ポイントとして、医療費控除とセルフメディケーション税制は対象となる医薬品が異なる点に注目しましょう。医療費控除は病院で処方された医薬品のほか市販薬も対象になります。しかし、セルフメディケーション税制は、市販薬でなおかつ特定成分を含むスイッチOTC医薬品が対象です。

また、セルフメディケーション税制は特定の健康診査を受けていなければ利用することはできません。健康診断やがん検診などを受けているかどうかも選択ポイントになります。

さらに、医療費控除とセルフメディケーション税制での所得控除の対象額を比較してみましょう。所得控除の対象額が多くなれば税制優遇も大きくなるので選択ポイントとなります(※2)

【例1 : 治療費や医薬品にかけた費用の合計額が15万円、そのうちスイッチOTC医薬品の購入費が8万円の場合】

  • 医療費控除による所得控除の対象額⇒15万円-10万円=5万円
  • セルフメディケーション税制による所得控除の対象額⇒8万円-1万2,000円=6万8,000円

この場合、選択すべきは控除対象額が多いセルフメディケーション税制です。

【例2 : 治療費や医薬品にかけた費用の合計額が15万円、そのうちスイッチOTC医薬品の購入費が5万円の場合】

  • 医療費控除による所得控除の対象額⇒15万円-10万円=5万円
  • セルフメディケーション税制による所得控除の対象額⇒5万円-1万2,000円=3万8,000円

この場合、選択すべきは控除対象額が多い医療費控除です。

医療費控除とセルフメディケーション税制は併用できないため、お得になるほうで申告しましょう。

セルフメディケーション税制を利用するときの確定申告の方法

セルフメディケーション税制を利用する際の確定申告は、次の手順で行います(※3)

(1)レシート・領収書を用意する

1月1日から12月31日までに購入したスイッチOTC医薬品のレシート・領収書を用意します。レシート・領収書には「商品名」「金額」「セルフメディケーション税制の対象である旨」「販売店名」「購入日」の記載があるか確認しましょう。また、合計金額が1万2,000円を超えていることも確認します。

(2)健康診断等の証明を用意する

セルフメディケーション税制を受ける条件となる健康診査や定期健康診断、予防接種などを受けたことが証明できる領収書や結果通知表、予防接種済証を用意しましょう。

健康診査などの結果通知表には、「健診等の名称」「健診等を受けた年(確定申告の対象となる年であること)」「健診等を行った健康組合など保険者の名称や市町村名、勤務先名など、または医療機関の名称や医師名など」の記載があることを確認しましょう。

確定申告の際は、領収書は原本を、結果通知表はコピーを提出します。

(3)確定申告書を作成

確定申告書の用紙は税務署でもらうことができますが、国税庁ホームページの「確定申告書等作成コーナー」のページでは、必要事項を入力するだけでパソコンから確定申告書が作成できます(※4)。これはスマートフォンからでも作成可能です(※5)

完成した確定申告書は住所地を管轄する税務署に提出しますが、マイナンバーカードがあれば、ネット上で申告が完結する「e-Tax」が利用できます。ただし、e-Taxを利用する際は、市区町村の窓口でマイナンバーカードに「電子証明書」を発行してもらう必要があります。

また、パソコンでe-Taxを利用する場合は、ICカードリーダライタの準備が必要です。スマートフォンで申告する場合は、「マイナポータルAP」というアプリをインストールすれば、あとはマイナンバーカードを用意するだけでe-Taxでの申告ができます。

セルフメディケーション税制による節税は可能なのかどうか

セルフメディケーション税制は、実際どれくらいの節税効果があるのか気になるかと思います。そこでAさんを例に減税額の試算をしてみました。

<Aさんの場合 : 課税所得500万円(※6)(※7)

  • 所得税率 : 20%
  • 住民税率 : 10%

◎2020年の1年間に対象のスイッチOTC医薬品を4万円購入したとする

  • 【所得税】(4万円-1万2,000円)×税率20% =5,600円
  • 【住民税】(4万円-1万2,000円)×税率10% =2,800円
  • ●減税額の合計 8,400円

所得税は2020年度に5,600円が還付され、住民税は翌年分から2,800円が減額となります。

対象のスイッチOTC医薬品を購入した合計額が増えれば、その分減税額も増えます。また、所得税は累進課税なので、課税所得が上がると税率は上がり(たとえば、課税所得が800万円になると所得税率は23%に、1,000万円になると33% になります)、その分減税額も増えていきます。

節税効果は、課税所得や医薬品の購入額によって違いが出てきます。ただ、減税効果の違いはあっても、所得税と住民税を軽減させることには変わりありません。もし該当する場合は節税対策の1つとして、セルフメディケーション税制を活用しましょう。

まとめ

セルフメディケーション税制と医療費控除は併用できないため、どちらを利用するかを決める際は、所得控除の対象額を試算してみましょう。

また、セルフメディケーション税制での確定申告は、スイッチOTC医薬品を購入したレシートや領収書の他、特定の健康診査や定期健康診断などの結果通知表や領収書などが必要です。日頃から、セルフメディケーション税制の必要書類は保管しておくようにしましょう。

確定申告書は国税庁の「確定申告書等作成コーナー」からネット上で作成できます。スマートフォンでも申告が可能なので、国税庁のホームページで詳細を確認してみましょう。

参照 :
(※1)国税庁「確定申告が必要な方
(※2)国税庁「No.1134 取組を行ったことを明らかにする書類の具体例
(※3)国税庁「令和2年分 確定申告特集・セルフメディケーション税制の概要・手続きなど
(※4)国税庁「確定申告書等作成コーナー/e-Tax(国税電子申告・納税システム)
(※5)国税庁「令和2年分 確定申告特集・国税庁からのお知らせ
(※6)国税庁「No.2260 所得税の税率
(※7)東京都主税局「個人住民税