『ザ!鉄腕!DASH!!』や『奇跡体験!アンビリバボー』といった人気番組の放送作家として活動していた当時、テレビ局独特の笑いにあふれた会議に参加するなかで会話力が磨かれたという戦略的PRコンサルタントの野呂エイシロウさん。テレビ業界に限らず、会話力に長けた人は、ビジネスシーンでも大いに重宝されます。そんな「話のおもしろい人」になるにはどうすればいいのでしょう。

  • 「話ベタでも相手をおもしろがらせる」無敵の法則 /放送作家、戦略的PRコンサルタント・野呂エイシロウ

野呂さんは、「自分だけのエピソードをつくる体験をたくさんして、なにより『話す練習』をすることが大切」だと語ります。

■「話のおもしろい人」の話は、自分のエピソードが主軸にある

——野呂さんが思う、「話のおもしろい人」のメリットとはどんなものですか?
野呂 メリットといえるかわかりませんが、どうせならおもしろいほうがいいですよね(笑)。わたしは、「使えるものは使ったほうがいい」と考える貧乏性なんですよ。せっかく言葉が使えるんだったらどんどん有効に使ったほうがいいし、つまらないよりおもしろいほうがいいじゃないですか。

——そうしておもしろい人になれれば、メリットも出てきそうです。
野呂 もちろん。職場でなら上司や先輩に好かれるということにもなるでしょう。そしてとても残念なのは、日本の社会では能力で人を判断しないケースが多いということ。就職するときに重視されるものってなんでしょう? 学校で習ったスキルや仕事に必要な能力ではなく、面接などにおけるコミュニケーション能力ではありませんか?

もちろん仕事にもコミュニケーション能力は必要ですが、それは仕事に必要な能力のひとつに過ぎません。でも、コミュニケーション能力をもっとも重視するのがこの国の社会なのだから、おもしろい人になることを考えるべきです。

もちろん考えようによっては、コミュニケーション能力が高ければ、就職や転職にも有利に働くということです。

——ただ、おもしろいかどうかというのは、個人の主観にも大きく左右されます。そういった主観を超えた「話のおもしろい人」にはどんな特徴がありますか?
野呂 「自分の体験やエピソードが話の主軸」にあるということですね。テレビのおもしろくないコメンテーターの共通点は…あたり障りのない一般論しかいわないことです。誰もが思いつくようなふつうの話など、おもしろいはずがありません。

でもたとえば、読売ジャイアンツで活躍したプロ野球である長嶋茂雄さんには、長嶋さんだけのエピソードや伝説がたくさんありますよね。過去に何度となくメディアで取り上げられている話だったとしても、聞くたびにおもしろいと思える。長嶋さんにはなれないまでも、そんなふうに自分でいろいろな体験をしてエピソードをつくっていく姿勢が大切だと思うのです。もしくは、長嶋さんのような他人の話であっても、エピソードとして語れるようにストックしておくこともひとつの手でしょう。

■話ベタなら「相手に話させる」仕掛けを用意する

——自分のエピソードをつくっていくために、どんな意識を持ち行動をするべきですか?
野呂 なにより、あらゆる場面をおもしろがって楽しむことでしょうね。長い人生には、怖い目や面倒な目に遭うこともあります。それをチャンスととらえることが大切ではないでしょうか。ネガティブにとらえるのではなく、「いいネタを仕入れられたぞ!」と考えるわけです。

わたしは過去に、テレビの仕事で暴力団事務所へ連れて行かれたこともあるし、電車で痴漢に間違われたこともありますが…(苦笑)、それらの体験は人を笑わせられるエピソードになっています。

――そういったネガティブな出来事について、多くの人が話の種にしようとしていないということですね?
野呂 というより、記憶から引き出せないだけなのでしょう。不良に絡まれたとか、便意を催したのにトイレが見つからなくて危機におちいったといったネガティブな体験は誰しもにあるはずです。それを記憶の奥底にしまい込んでいるだけ。

でも、人をおもしろがらせるには「ダメ人間」になったほうが断然お得です。「わたしは開成高校、東大を卒業しました」なんていう話をしても、まわりはなかなかおもしろがってくれません。ただ、「ああ、優秀な人なんだな」と思われるだけですよね。ネガティブな体験をさらして自分をダメ人間に見せるほうが、まわりをおもしろがらせることができるはずです。

——なるほど。でも、いくらおもしろいエピソードをストックしたとしても、実際に話すことが苦手という話ベタの人もいます。
野呂 そういう人は、「相手に話させることを考える」ことも大切です。たとえば、わたしの名刺は一般的なものより小さくしているのですが、初対面の人は「どうしてこの大きさなんですか?」というふうに必ず聞いてきます。話のきっかけにするため、意図的に名刺を小さくしているのです。そのような仕掛けを用意しておくのもおすすめです。

目立つ服装を意識するのもいいかもしれません。これはあくまでも極端な例ですが、もしわたしが『鬼滅の刃』の主人公が着ているような緑と黒の市松模様の法被を着ていたらどうですか? そこでスルーする人は絶対にいませんよね。

——それは確かにスルーできません(笑)。
野呂 あるいは、iPhoneといった注目度の高い製品の最新版がリリースされたらすぐに買ってみる。そうすれば、数カ月間は「新しいiPhoneですか? 使い心地はどうですか?」と、会話のきっかけに困ることはないでしょう。これらは多少のお金さえかければできることですから、そこで話術は問われません。いますぐに実践できることです。

■話ベタを自覚しているなら、話す練習をするべし

——相手から話させるきっかけをつくることなら、話ベタな人にもできそうです。
野呂 自分からエピソードを話すことが苦手な場合、できることがもうひとつあります。それは、「相手を褒める」ことです。相手のバッグやアクセサリーといったものについて褒めてみましょう。褒められて嫌だと思う人はいません。むしろ、こだわりのあるものを褒められたならよろこんでくれ、その後の会話も弾みます。

ただ、そのためには知識が必要になる。仕事で異性と接する機会が多い人なら、異性向けのファッション誌なども読んでおかなければならない。話ベタをカバーするためには、話術を磨くこととは別の方向での努力も必要なのです。

そうはいっても、やはりもっとも重要となるのは、「話す練習」をすることでしょう。スポーツをしている人なら誰もがそのスポーツの練習をするのに、話す練習をする人はそうはいません。話ベタを自覚しているなら、話す練習をしてみてはどうでしょうか。

——具体的にどんな練習をすればいいですか?
野呂 たとえば、少しお金はかかりますが、いま結婚を考えている人なら、恋人や結婚相手を探すデーティングサイトに登録してみるのも手でしょう。そこでチャットをしてみる。話すことが苦手だという人でも、チャットでならコミュニケーションを続けやすいものです。デーティングサイトを話す練習をするためのツールとして使うのです。それに限らず、いまはいくらでもSNSがあるのだから、どんどん文字で会話の練習をすればいい。これが、実際の場面での会話の練習になっていきます。

それから、YouTubeなど動画共有サービスで見つけたおもしろい映像の内容を口頭で説明する練習もおすすめです。簡単なように思えるかもしれませんが、これはなかなか難しい。淀川長治さんといったかつての映画評論家の話はとてもおもしろかったわけですが、それはなぜかというと、視聴者の頭のなかに映像が浮かぶように話をしていたからです。

「話ベタで…」と悩んでいるなら、好きなYouTubeの番組がどんな内容なのかを、自分の感性で言語化してみるのです。その番組を知らない人に説明するのは簡単ではないと思いますよ。テレビのように誰もが知っている芸能人でない人が出ていて、内容もテレビとはまたテイストが異なりますからね。

コロナ禍のいまは、リアルのコミュニケーションが減っています。でも、見方を変えれば、話す練習をするには最適な時期といえるかもしれません。ぜひ、自分なりの特訓方法を見つけて、話がおもしろい人になってください。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/塚原孝顕