1月の最終週になってようやく2021年の主要冬ドラマがそろった。世帯視聴率では、綾瀬はるか主演の『天国と地獄~サイコな2人~』(TBS系)、高畑充希主演の『にじいろカルテ』(テレビ朝日系)、上白石萌音主演の『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』(TBS系)が「2桁で好スタート」などと報じられているが、これはあくまで一つの数字に過ぎない。

ドラマの現場では、コア層(13~49歳)の個人視聴率、タイムシフト(録画)視聴率、見逃し配信数、ツイッターやインスタグラムなどの反響、番組のフォロワー数や動画の再生数など、さまざまな指標での評価がはじまっている。

冬ドラマで本当に質が高くて、今後期待できるのはどの作品なのか? ドラマ解説者の木村隆志が、俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視」したガチンコで、2021年冬ドラマ18作の傾向とおすすめ5作を挙げていく。

2021年冬ドラマの主な傾向は、[1]「オリジナルで勝負」の意味は? [2]変わりはじめたテレビ朝日の2つ。

  • 上白石萌音(『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』出演)

  • 香取慎吾(『アノニマス~警視庁“指殺人”対策室~』出演)

  • 浜辺美波(『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』出演)

■傾向[1]「オリジナルで勝負」の意味は?

『アノニマス~警視庁“指殺人”対策室~』(テレビ東京系)、『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』、『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』(日本テレビ系)、『ゲキカラドウ』(テレ東系)、『にじいろカルテ』、『ドリームチーム』(NHK)、『俺の家の話』(TBS系)、『バイプレイヤーズ~名脇役の森の100日間~』(テレ東系)、『レッドアイズ 監視捜査班』(日テレ系)、『モコミ~彼女ちょっとヘンだけど~』(テレ朝系)、『書けないッ!?~脚本家 吉丸圭佑の筋書きのない生活~』(テレ朝系)、『天国と地獄~サイコな2人~』、『君と世界が終わる日に』(日テレ系)。

主要ドラマの8割超にあたる18作中13作がオリジナルであり、意欲のほどがうかがえる。

また、原作アリ残りの5作も、これまでのような失敗を避けるような安全策はなし。『青のSP(スクールポリス)―学校内警察・嶋田隆平―』(カンテレ・フジ系)、『知ってるワイフ』(フジ系)、『江戸モアゼル~令和で恋、いたしんす。~』(読売テレビ・日テレ系)、『ここは今から倫理です。』(NHK)、『その女、ジルバ』(東海テレビ・フジ系)と、賛否両論必至の攻めたテーマがそろっている。

一年前の冬ドラマを振り返ると、病院が舞台の作品が6作放送されたほか、刑事事件を扱ったものも多く、安全策が目立っていた。当時は「命をめぐるシリアスなストーリーばかりで重苦しい」という声が挙がっていたが、今冬はハートフルなホームドラマや気楽に見られるコメディも多く、意識の変化を感じさせられる。

やはり、「ドラマ制作の基準を一変させた」と言われる昨春の視聴率調査リニューアルと、コロナ禍の影響は大きいのだろう。オリジナルは物語の展開も結末もわからないため視聴者の興味を引ける上に、「原作のイメージと違う」と批判されるリスクもない。その一方で時間や予算面での難しさや、大失敗のリスクもあり、社内で企画が通りづらいところがあった。

そんな難しさやリスクを乗り越えて生まれた「オリジナルで勝負しよう」というポジティブなムードが視聴者に伝わったのか、ここまではネット上の好反応につながっている。

  • 高畑充希(『にじいろカルテ』出演)

  • 小芝風花(『モコミ』出演)

  • 広瀬アリス(『知ってるワイフ』出演)

■傾向[2]変わりはじめたテレビ朝日

テレビ朝日のドラマと言えば、『科捜研の女』『相棒』を筆頭に、『特捜9』『遺留捜査』『警視庁・捜査一課長』『刑事7人』など、“刑事事件を扱う一話完結型のシリーズ作”というイメージがあるだろう。実際、その路線は現在も続いている。

しかし、それらの作品は高齢層がメインのドラマだけに、世帯視聴率は獲れても、広告効果やスポンサー収入は限定的。やはり視聴率調査のリニューアルで他局がコア層向けの番組に舵を切る中、テレビ朝日だけその流れに逆らうことはできないのだろう。刑事ドラマのシリーズ作をキープしながら、じわじわと変化のきざしを見せてはじめている。

その表れの1つと言えるのが、『にじいろカルテ』。同作を放送する『木曜ドラマ』は、『ドクターX~外科医・大門未知子~』『緊急取調室』『BG~身辺警護人~』『未解決の女 警視庁文書捜査官』など刑事か医療の1話完結型・勧善懲悪ドラマが大半を占めていた。対して『にじいろカルテ』は1話完結の医療ドラマではあるものの勧善懲悪ではなく、牧歌的なムードの作品。これは『ひよっこ』『姉ちゃんの恋人』などでも見られた脚本家・岡田惠和ならではの世界観だが、明らかにこれまでとは異なるムードがある。

さらにテレビ朝日は、「土曜23時台に30分ドラマを2作続けて放送する」という若年層に向けた戦略を実行。23時~の『モコミ』は主演・小芝風花×脚本・橋部敦子、23時30分~の『書けないッ!?』は主演・生田斗真×脚本・福田靖という座組で、しかもオリジナルとプライム帯のドラマ以上に力が入っている。

世帯視聴率を得やすい高年齢向けドラマと、スポンサー収入を得やすい若年層向けドラマの両立。ドラマに対するテレビ朝日の意識が変わってきたことは間違いなく、『おっさんずラブ』に続く名作誕生のムードが漂いはじめた。

  • 池脇千鶴(『その女、ジルバ』出演)

  • 江口のりこ(『俺の家の話』『その女、ジルバ』出演)

  • 山田裕貴(『ここは今から倫理です。』出演)

これらの傾向を踏まえた今クールのおすすめは、虚実皮膜を感じさせる『その女、ジルバ』『ここは今から倫理です。』『モコミ』の3作。「老いと女性の人生」「学校と生徒の問題」「生きづらさと家族の再生」という重いテーマをリアルとファンタジーを共存させた独特な世界観で描いている。いずれも土曜23時台に放送している作品であり、だからこそゴールデン・プライムでは難しい振り切った脚本・演出を実現できるのだろう。

その他では、『俺の家の話』『知ってるワイフ』『青のSP』『にじいろカルテ』『天国と地獄~サイコな2人~』『バイプレイヤーズ』も、それぞれに見応えがあり、好みひとつかもしれない。

「視聴率や先入観だけで判断して見ない」というのはもったいないだけに、TVerや各局のオンデマンドなどで、チェックしてみてはいかがだろうか。

■おすすめ5作
No.1 その女、ジルバ (東海テレビ・フジ系 土曜23時40分)
No.2 ここは今から倫理です。 (NHK 土曜23時30分)
No.3 モコミ~彼女ちょっとヘンだけど~ (テレ朝系 土曜23時)
No.4 俺の家の話 (TBS系 金曜22時)
No.5 知ってるワイフ (フジ系 木曜22時)