• 第29回(2020年)のフィナーレより (C)テレ玉

企業としては、番組でのCM放送に加え、ステージパフォーマンス、さらに堀尾正明とのトークで、これ以上ないPRの機会として活用。「社員の方はダンスやコーラス、小道具の製作などを準備されてくるので、会社が一体となってくださっているようです」と、組織力の向上にも役立っている。

また、「チャリティ歌謡祭を見てこの会社に入りたいと思いました」と志望してくる学生もいるそうで、リクルーティングとしての役割も果たしているようだ。

パフォーマンスの工夫は、政界側も力を入れている。ゆるキャラの稼働はもちろん、地元高校のチアリーディング部を動員するなど、財界側に負けない演出で会場を盛り上げている。

大野元裕知事は、昨年の選挙期間中にTwitterで「#埼玉政財界人チャリティ歌謡祭」のハッシュタグを付けるなど、もちろん首長もPRとして活用。しかし、第29回(20年)に出場した小鹿野町の町長は、地元の文化財である「小鹿野歌舞伎」をアピールするため、自ら白塗りで歌唱したことから、「誰が歌っているのか分からないくらいになってしまって(笑)。でも、それくらい力を入れてくれているんです」という事例もあった。

このように、それぞれの出場者が工夫を凝らしてパフォーマンスを考えてくれることから、全体として実にバラエティに富んだイベントになっている。

■大部屋の控室で“戦友”のような関係に

さらに、全出場者が大部屋の控室で待機し、リハーサルを含めて朝から晩まで一緒にいることになるため、政財界のトップ同士のコミュニケーションの場としても機能。「出番が来た人に、他の出場者の皆さんが『いってらっしゃい!』と拍手でお見送りして、出番が終わって戻ってくると『おかえりなさい!』と迎えてくれるんです。みんなが同じ緊張感を持って、それをクリアしていくので、結束力が生まれますよね」と、まるで“戦友”のような関係になるという。

もしかすると、ここで出会った企業同士のコラボレーションで、新たなビジネスチャンスにつながった事例があるのかもしれない。

応援席は、1出場団体に100席ずつ用意しているため、遠方からの参加となると、貸し切りバスで会場入り。客席ではおそろいのユニフォームに身を包み、企業カラーのペンライトを掲げるなど、その様子はさながら甲子園のアルプススタンドだ。また、ジャニーズアイドルのライブのように、出場者の顔写真を貼り付けたうちわを持って声援を送る姿も見られる。

  • 第28回(2019年)のフィナーレより (C)テレ玉

出場企業や自治体側としても年に一度の一大イベントだが、テレ玉側としても「いろんな部署が関わって、相当の数の社員が作り上げる、全社をあげて取り組む番組です」という位置づけ。定期的に放送する番組の中では、最も大きな規模だそうだ。

■かつては審査員が存在も…「大変そうでした(笑)」

ソニックシティ大ホールという、プロのアーティストがコンサートでも使用する会場だけに、日頃部下を束ねる企業や自治体のトップといえども、特に初出場者は緊張でうまく歌えないことがあるという。そんな人たちを支えるのが、第1回から全ての回の演奏で指揮を務めるバンドマスター・岡宏さん率いるクリアトーンズ・オーケストラだ。

「歌が多少ずれてしまっても、オーケストラの皆さんが熟練なので、演奏が歌に合わせてくれるんです。回を重ねて臨機応変に対応していただけるようになっているので、とても信頼を寄せています」と、欠かせない存在になっている。

そして、優勝者を決めることをしないのが、この歌謡祭の特色。かつては審査員を設け、「ほのぼの賞」などパフォーマンスを表彰することもあったそうだが、「何とか良いところを見つけて、お世辞にならないように褒めなきゃいけないから、審査員の皆さんは大変そうでした(笑)」と、特有の気苦労があったようだ。