――『ウルトラマン』を撮影していた東京美術センター(後の東宝ビルト)はどんな場所だったのでしょう。

僕たちは"美セン"と呼んでいました。あそこは広大でキレイな東宝撮影所とはぜんぜん雰囲気が違っていて、畑に囲まれた中にあったんです。豚や牛、鶏を飼っている農家さんもいらっしゃるので、たとえば撮影中に牛や鶏が鳴くことも多かったんです。ステージ内で芝居をすると、雨が降ってきたらトタン屋根なのですごく大きな雨音が響いたり、上空に飛行機が飛ぶ音が聞こえたり……。そんな環境ですから、セリフを同時録音することができない。仕方がないからアフレコ(先に撮影した映像に合わせて、後から役者が声を収録する方式)で行くしかなかったんですよ。

撮影の外は実に素朴な環境だったけど、テレビ画面の中ではそんな印象などぜんぜんなくて、科学特捜隊本部のセットとか、メカのミニチュアなんてすごく未来的に映っていますよね。当時は成田さんを慕う美術学校の学生さんたちも多数手伝いに来ていて、とても精巧なビル街のミニチュアセットなどを一生懸命に作っていたのを思い出します。

――ウルトラマンが怪獣に挑む際、やや前かがみになってポーズを取るのが凄く印象的です。あのポーズは古谷さん自ら考えられたそうですね。

あれはアメリカ映画『理由なき反抗』(1955年)に出ていた俳優ジェームス・ディーンをイメージしたんです。僕は中学生のころ、ジェームス・ディーン主演の『エデンの東』(1955年)を見て以来のファンで、『理由なき反抗』で彼がナイフを構えて決闘するときのポーズがカッコよくて、目に焼き付いていたんです。ウルトラマンが怪獣と戦うのなら、ああいった構えがいいかなと思ってやってみたら、OKが出た。映画で主役になったら、ぜひジェームス・ディーンみたいなポーズを取りたいなという"夢"があったから、それが叶ったときはうれしかったなあ。

最初に『ウルトラマン』のエピソードを撮られた飯島敏宏監督(制作第1回作品として第2、3、5話を手がけ、スペシウム光線の構えをはじめとするウルトラマンの基本要素を築き上げた)からはよく「ウルトラマンは宇宙人なので、拳を構えて戦闘意欲を示すようなポーズはやめましょう」と言われていました。だからウルトラマンは拳を握りしめたファイティングポーズをしていないんです。両手は開いたまま指先に力を入れず、怪獣を"いなす"動きを心がけていました。怪獣を積極的に痛めつけるのが目的ではない、どちらかというと"受け身"のアクションなんですね。

――ウルトラマンのマスクは時期によってAタイプ(第1~13話)、Bタイプ(第14~29話)、Cタイプ(第30~39話)と変わったようですが、演じていた古谷さんにとってはこの変化はどう思われましたか。

最初のウルトラマンの顔は、やわらかい材質で出来ていたんだよね。でも、いつから硬いいマスク(FRP製)に変わったのか、なんて全然気にしていなかったな。僕の顔のサイズを取って作ったのは一緒ですから、いつものようにスーツを着て、マスクを被ってウルトラマンを演じていただけで、何の違和感もなかったんです。後でファンの方たちから「ウルトラマンのマスクは3種類あったんですね」と言われても、いつ変わったんだろう?なんて思っています(笑)。

――もともと東宝の若手俳優のお一人で、アクション専門ではなかった古谷さんでしたが、スラリとした長身とプロポーションの良さを見出されてウルトラマン役に決まったとうかがっています。ただでさえ動きにくそうなウルトラマンのスーツを身に着けて、怪獣相手に激しいアクションを続けていたあのころ、スタミナをつけるためにどんなお食事をされていたのでしょう。

いやいや、ウルトラマンをやっていたころは、昼ごはんなんてまともに食べることができなかったんですよ。あまりにもハードな撮影だから、ちょっと何かを食べても撮影後に気持ち悪くなってしまうんです。だから、撮影開始前と後では、10kgくらい体重が落ちていましたね。成田さんからは「ビンさん(古谷さんのニックネーム)、ウルトラマンをやってもらうためにはこれから体型を維持してほしい。痩せてもダメだし、太ってもダメ。それだけは守ってね」なんて言われていたんですけど、撮影が進むたびにどんどん痩せていきました。そのせいかどうかわからないけれど、スーツの中に"詰め物"をしてウルトラマンがどんどん筋肉質になっていったようです。

――Bタイプマスクと共に、スーツも新調されて肩や胸のところに筋肉を思わせる詰め物がしてありますね。

胸の厚みを増したのは、僕としてはイヤでした。ゴツゴツしたものが中に入っていると違和感があって、動きにくくてね。その点、最初のスーツ(Aタイプ)のほうがスムーズに動けました。

最初のころのウルトラマンは立っただけで「強い!」みたいな威圧感はそんなになくて、ちょっと弱そうというか、ナヨナヨした雰囲気があったんだけど、そっちのほうが子どもたちは応援したくなるんですよね。テレビを見ていて「ウルトラマン、こんどは怪獣に負けちゃうんじゃないか」って心配してしまうようなムードが、ウルトラマンにはありました。

ときどき、スペシウム光線をはじき返す怪獣が出たりしたでしょう。金城哲夫さんをはじめとする脚本家の方たちがアイデアをしぼって毎回のお話を考え、それを高野宏一さん(特殊技術)が素晴らしい映像にしてくれた。ウルトラマンと怪獣をいかに魅力的に描くか、みんなが情熱を注いで作ったからこそ、すごい人気になったと思うんです。