JR西日本の新快速が10月1日、運行開始50周年を迎えた。新快速は京都・大阪・神戸を高速に結ぶことを目的としてデビュー。現在は福井県の敦賀駅から兵庫県の播州赤穂駅まで5府県にまたがり、JR西日本の看板列車として活躍している。これからの新快速は利便性・速達性だけでなく、快適性なども求められることになりそうだ。

  • 運行開始50周年を迎えた新快速。JR京都線・JR神戸線(東海道・山陽本線)で15分間隔の高頻度運転を行う

■進化をとげてきた新快速の歴史

新快速の歴史を簡単に振り返ると、デビューは1970(昭和45)年10月1日。大阪万博が開催された年に運行開始した。当初の運行区間は京都~西明石間で、日中時間帯のみ1時間間隔の運行だった。万博輸送で活躍した113系が新快速の初代車両となり、青色・クリーム色をまとった「スカ色」の113系も活躍したという。

1972(昭和47)年、急行形電車の153系が2代目車両として新快速の運用に就いた。153系は白地に水色の帯を巻いた専用塗装となり、「ブルーライナー」の愛称で親しまれることになる。運転区間は草津~姫路間に延長され、本数も大幅に増えた。

153系「ブルーライナー」で頑張っていた新快速であったが、車内の快適性において、ライバルである阪急電鉄や京阪電気鉄道の特急専用車両との差は大きかった。1979(昭和54)年、初の新快速専用車両として117系が製造され、翌年から運用に就く。117系の車内は横4列(2列+2列)の転換クロスシートで、当時の国鉄としては画期的な仕様だった。

1986(昭和61)年以降、東海道・山陽本線の複々線区間において、新快速は内側線(電車線)から外側線(列車線)を走ることになった。それまで内側線を走る新快速が外側線の特急列車を追い抜くケースもあり、いまでも鉄道ファンらの間で語り草になっている。その一方で、今日当たり前のように見られる、新快速が快速・普通列車を追い抜くシーンは意外と歴史が浅いことに気づく。

1987(昭和62)年、国鉄が民営化され、JR西日本が発足。新快速も新時代を迎えることになった。1989(平成元)年、片側3ドアながら大型窓を備えた221系がデビュー。車内は117系と同様、横4列(2列+2列)の転換クロスシートを採用した。1991(平成3)年、新快速の最高速度が120km/hに引き上げられ、速達性において並行私鉄を大きく引き離すことになる。

阪神・淡路大震災が発生した1995(平成7)年、130km/h走行が可能な223系1000番台が新快速に投入された。2000(平成12)年に新快速は223系に統一され、終日130km/h運転が実現した。

  • 新快速「Aシート」を連結した編成の京都・野洲方先頭車に、運行開始50周年を記念したヘッドマークシールが掲出された

新快速の運転区間も延長され、1991(平成3)年に長浜駅への乗入れが実現。2006(平成18)年には、北陸本線・湖西線経由で近江塩津駅・敦賀駅まで乗り入れることになり、運行区間は福井県から兵庫県まで5府県にまたがることになった。2010(平成22)年に225系を投入。昨年3月から、有料座席サービスの新快速「Aシート」が上下計4本の列車でスタートした。新快速は今後もJR西日本の看板列車として、進化を続けるに違いない。

■新快速が持つ3つのキーワード

神戸市在住の筆者にとっても、新快速は身近な存在。一利用者として特徴を挙げると、「新快速」と聞いて思い浮かべるキーワードが3つある。

まず「速達性」。日中時間帯における新快速のおおよその所要時間は、大阪~京都間が28分、大阪~三ノ宮間が21分。これに対し、JR京都線・JR神戸線(東海道・山陽本線)と並行する阪急電鉄、京阪電気鉄道、阪神電気鉄道の所要時間を確認すると、以下の通りになった。

[大阪・京都間]

  • 阪急電鉄 京都本線大阪梅田~京都河原町間 : 44分
  • 京阪電気鉄道 京阪本線淀屋橋~祇園四条間 : 48分

[大阪・神戸間]

  • 阪急電鉄 神戸本線大阪梅田~神戸三宮間 : 27分
  • 阪神電気鉄道 阪神本線大阪梅田~神戸三宮間 : 31分

並行する私鉄の特急と比べて、新快速は大阪~京都間で10分以上、大阪~三ノ宮間で5分以上速い。大阪~京都間において、阪急電鉄や京阪電気鉄道のほうが京都市の中心地に近いところを走るというメリットがあるものの、筆者のように神戸市から京都市へ速く移動したい場合は、やはり新快速が第1の選択肢となる。実際に新快速に乗車すると、130km/hで走行することもあり、並行する私鉄の特急より段違いに速く感じる。内側線(電車線)を走る快速・普通列車を次々と追い抜くシーンも気持ちいい。

2つ目のキーワードは「利便性」。新快速は5府県にまたがって運行しているため、通勤・通学だけでなく、観光にも使える便利な列車になっている。遠方の観光スポットを訪れる際、距離的に自宅から遠くても、新快速で最寄り駅までアクセスできれば、ずいぶんと近く感じる。実際、「新快速1本で行けるから近い」は、京阪神エリアで当たり前に聞こえてくるフレーズだ。

  • 新快速の現行車両223系・225系でも、横4列の転換クロスシートが採用されている(筆者撮影)

  • 新快速「Aシート」の車内。座席はリクライニングシートに(筆者撮影)

3つ目のキーワードは「快適性」。新快速は国鉄時代に投入された117系から現行の223系・225系まで、一貫して転換クロスシートを採用している。ロングシートや4人掛けのボックスシートと比べて、着席時の快適性ははるかに高い。昨年3月からスタートした新快速「Aシート」も利用したが、立席客がいない中でリクライニングシートを使える新快速の旅は、在来線を走る特急列車の普通車とほぼ変わりない快適さだった。

■新快速を支える人々の声

運行開始50周年を迎えた新快速は、多くの人々によって支えられてきた。JR西日本の社員たちはどのように新快速に接してきたのだろうか。

網干総合車両所で行われた報道公開にて、取材に応じた姫路列車区専門主任車掌、森元克好氏は、新快速で乗務する際の注意点について、「新快速の特性は停車駅が少ないこと。長くて次の駅まで10~15分かかる間に、快適にお客様が旅行や通勤・通学することを考えると、とくに車内空調に注意しています」と答えた。速達性と快適な車内環境の維持を両立させるべく、努力している車掌の姿が垣間見られた。

  • 親子で新快速の車掌を努める(写真左から)森元克好氏、森元啓介氏(筆者撮影)

新快速「Aシート」での注意点も尋ねたところ、「Aシートは快適な車内空間に特化しているので、お客様には放送も含め、ゆったりゆっくり座っていただくことを心がけています。車内巡回ではお客様の顔色など、いろいろ考えながら、特段に注意を払うようしています」とのことだった。従来の速達性だけでなく、快適性も追求する現代の新快速の在り方を感じた。

新快速に使われる車両のメンテナンスを手がける網干総合車両所所長、羽田克幸氏は、「新快速の車両は221系、223系、225系と、JR西日本の中でも新しい車両が投入されてきました。それら新しい車両のメンテナンスを私たちが担っていることに誇りを持ち、新しい車両を検修していることから、メンテナンスのパイオニア的な気持ちで頑張っていきたいと思っています」と話す。新造車両が優先的に投入される点は、新快速がJR西日本の看板列車であることの証といえる。新快速に投入される最新の車両を通じて、JR西日本全体におけるメンテナンスのスキルが向上するのだろう。

  • 153系に掲出された「新快速」の銘板を持つ網干総合車両所の所長、羽田克幸氏(筆者撮影)

今年は新型コロナウイルス感染症の影響を受け、どの鉄道事業者も厳しい状況にある。JR西日本も例外ではないが、新快速については今後も引き続き、同社の看板列車として、関西の大動脈となって活躍を続けるものと予想している。混雑回避と着席需要の高まりにより、新快速「Aシート」の重要性も増すかもしれない。これからの社会情勢の変化に新快速がどのように対応するか、一利用者として注視していきたい。