NHKの連続テレビ小説『エール』(総合 毎週月~土曜8:00~ほか ※土曜は1週間の振り返り)で、窪田正孝演じる主人公・古山裕一の恩師・藤堂清晴役を好演しているシンガーソングライターの森山直太朗。22日に放送された第18回では、藤堂先生が、人生の岐路に立たされた裕一の背中を押すという重要なシーンで久しぶりに登場。この朝ドラで、俳優・森山直太朗の株が急上昇しているようだ(以下、第18回のネタバレを含みます)。

  • 藤堂清晴役の森山直太朗

■裕一に希望の光を照らしていく藤堂先生の名台詞

『エール』の主人公・古山裕一は、全国高等学校野球大会の歌「栄冠は君に輝く」や阪神タイガースの歌「六甲おろし」などで知られる福島県出身の作曲家・古関裕而(こせき・ゆうじ)氏がモデル。のちに裕一の妻となる関内音のモデルは、歌手の古関金子(きんこ)氏だ。やがて2人は結ばれ、夫婦二人三脚で、波乱万丈の音楽人生を生きていくことになるが、今週は裕一たちが文通で、愛を育んでいく様子が描かれていく。

2020年は、森山にとって、俳優開眼イヤーとなりそうだ。過去に木村拓哉主演の連ドラ『HERO』第2シーズンでゲスト出演をしたことがあったが、連ドラレギュラー出演を果たしたのは、今年1~2月に放送されたNHKの『心の傷を癒すということ』が初となった。演じたのは、主演の柄本佑演じる主人公の精神科医・安智明の兄・安智明役だったが、そのあと3月30日に放送がスタートした『エール』で、一気にお茶の間でも、俳優としての認知度がアップ。

森山は今回、藤堂を演じるにあたり、いかにもミュージシャンらしい感性豊かなコメントを出していた。「台本を読んで、自分にとってはモノクロームな時代を生き抜いた音楽家古関裕而さんの葛藤と成長、そしてそれを取り巻く人々の活気ある姿が確かな色彩を持って感じ取れました。劇中にも度々出てくるオルガンやハーモニカを奏でるように、スタッフや出演者の皆さんと一つ一つ感情を積み上げていけたらと思います」

音楽教師の藤堂役はまさに森山にとっては、うってつけの役柄だが、さらに、裕一の人生において、常に希望の光を照らしていくという、なんともおいしい役どころなのだ。

森山は、裕一だけではなく、視聴者のハートをも鷲づかみにした名台詞を、ここぞとばかりにキメてきた。まず、最初に藤堂の存在価値を知らしめたのが、吃音にコンプレックスを持っていた裕一に放ったこの台詞だ。「僕と君、同じ顔をしているか? 歩く速さも違う。話し方も違う。違いを気にするな」というもので、今では当たり前となった、多様性を重視すべき、というメッセージだった。

続いて、裕一のただならぬ音楽の才能をいち早く見抜いた藤堂が、「人よりほんの少し努力するのが辛くなくて、ほんの少し簡単にできること、それがお前の得意なものだ。それが見つかれば、しがみつけ。必ず道は開く」と説く。これはロイヤルストレートフラッシュ並みにバチッと決まった!

この台詞は、裕一の心を射抜いただけではない。今度は裕一が、苦境に立たされた同級生の村野鉄男(子ども時代:込江大牙、その後、中村蒼にバトンタッチ)にも「しがみつけば、必ず道は開く」という同じ言葉を投げかけ、彼の心をも奮い立たせたのだ。

そして、成人した裕一はすでに才能を開花させ、見事「国際作曲コンクール」で日本人初、さらに史上最年少での入賞という快挙を遂げた。ところが、祖父の権藤源蔵(森山周一郎)が他界したことで、裕一の伯父、権藤茂兵衛(風間杜夫)が、いよいよ裕一の養子縁組をすべく動き出し、またまた裕一は大ピンチ!

裕一からSOSの手紙を受け取り、駆けつけた藤堂。裕一に「先生ならどうしますか?」と問われた藤堂は「自分の人生だ。自分の人生を生きる。天から授かった宝物はドブには捨てない」とキッパリ言い放つ。この言葉は、またもや裕一の心にガツンと響く一発になったはずで、藤堂はここでも素晴らしい仕事をしたわけだ。

■ミュージシャンが持つ独特のエネルギー

前作『スカーレット』では、ミュージシャンの西川貴教が、芸術家のジョージ富士川役で強烈なインパクトを放っていたし、『エール』でも、このあと、RADWIMPSの野田洋次郎が、裕一と同期の作曲家・木枯正人役で出演予定だ。両者はすでに主演作なども経験していて、役者としてのポジションも確立しているが、森山はそうではない。だが、役者として、経験が浅い点が、逆に強みになるケースもある。

例えば、『孤狼の血』(18)の白石和彌監督が、斎藤工主演映画『麻雀放浪記2020』(19)で、ミュージシャンのチャラン・ポ・ランタンのももや、岡崎体育を起用していたが、2人とも映画は初出演だったにも関わらず、実にキャラ立ちをしていた。白石監督は、当時のインタビューで、ミュージシャンを演出する面白さをこう語っていた。

「ミュージシャンの方々は、独特のエネルギーがあります。また、役者がプロパーじゃないと、自分がどう映っているのか、経験がなければないほど考えないので、自分が信じて思ったことをやるしかない。そういうエネルギーが、映画の推進力になるんです」と言っていたが、大いに納得。『エール』の森山も、実にナチュラルな演技が妙味をもたらしていると思う。

また、音楽をモチーフにしたドラマということで、俳優陣の美声も話題となっている。すでにアーティストとしての評価も高い柴咲コウが、世界的オペラ歌手の双浦環役を演じているが、吹替えなしの美しいハイトーンがかなりのインパクトを放ち、大いに反響を呼んだ。

そして今週は、関内音役の二階堂ふみがいよいよ美声を披露。二階堂は、大河ドラマ『西郷どん』の愛加那役で歌った島唄も記憶に新しいが、今回は歌手役ということで、歌唱シーンも数多く登場しそうだ。さらにこのあと、裕一の小学校時代の同級生・佐藤久志役で登場するミュージカル俳優・山崎育三郎の出番も待ち遠しい限りである。

願わくば、いつか藤堂の歌声も聴きたいところではあるが、そういう気の利いたシーンが用意されているかは、脚本家のみぞ知るところだ。いずれにしても、俳優としての森山の伸びしろは未知数だし、おそらく今後もドラマや映画出演のオファーが殺到するに違いない。今後も俳優・森山直太朗の動向をチェックしていただきたい。

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