喉が渇いたとき、水をコップ1杯飲んだのに、まだ喉が渇いていると感じることはないだろうか? 水のペットボトルを手放せない。何度も水分を補給しているのに、なぜかいつまでも喉の渇きが解消されない。そう訴える人は少なくないようだ。そこで、今回は日本耳鼻咽喉科学会認定専門医の宮崎裕子医師に、いくら飲んでも喉が渇くのはなぜか、予防や対策などについてうかがった。

  • いくら飲んでも喉が渇くのはなぜ?

    いくら飲んでも喉が渇くのはなぜ?

喉が渇くメカニズム

そもそも、なぜ私たちの喉は渇くのだろうか。

「水分は、血液とともに体全体を循環していますが、血液の中に含まれる水分が減少するのは体にとってよくない現象です。脳がその状態を感知すると、細胞の中に含まれている水分を血液に送るよう指令を出し、それと同時に脳は『喉が渇いた』という信号を人間に送り、補給した水分を各細胞に行きわたらせる仕組みになっています」

人間の体の約60~70%は水分であると言われているが、そのおよそ2%が失われると、喉が渇いたと感じるという。ちなみに5%失われると熱中症や脱水症状になり、10%失われると体内の循環不全が起こり、20%失われると死に至るケースもあるので注意が必要だ。

食事に含まれる水分を除き、人は平均で一日に約1,000ml以上の水分を摂取しているという。十分水分を取ったのに、喉の渇きが取れない。唾液があまり出ず、口が渇いて仕方ない――。このような症状があるとき、何らかの病気である可能性も考える必要があるそうだ。

一日に必要な水分量は?

厚生労働省によると、健康な成人男性の場合、一日に必要な水分量はおよそ2.5リットル。このうち、食事での摂取が1リットル、体内で生成されるものが0.3リットルで、残りの1.2リットルが不足してしまうため、この分を飲み水として確保しなくてはならない。

「日々の活動状態が活発な人は、もっと多くの水分を必要としますし、心不全、腎不全のある方は一日の飲用量の制限量があったりしますので、注意が必要です。 高齢者になると、水分を摂らなくなって(口渇感が少ない、トイレが近くなるからやめるなど)、気づかないうちに脱水状態になり、唾液量が減ったり熱中症になりやすくなったりします。また重篤な状態になると血液が濃くなり脳梗塞や心筋梗塞を引き起こす原因にもなります」

一日に必要な水分摂取量の求め方

必要水分量=尿量+不感蒸泄+(糞便など)-代謝水

簡易計算式での算出方法

必要水分量(ml/日)=年齢別必要量(ml)×実測体重(kg)

年齢別必要量

22~55歳の場合:35ml/kg/日
55~65歳の場合:30ml/kg/日
65歳以上の場合:25ml/kg/日

「この式で計算すると、例えば75歳で50kgの人の場合 25(ml/kg/日)×50(kg)=1,250mlとなります。なお、発熱や発汗、下痢や嘔吐をした後は、水分とともに体内のミネラル成分も失われるので、ただ水を補給するというだけではなく、経口補水液やスポーツドリンクを飲んで、ミネラルのバランスを整えることも必要です」

水の「滞り」が原因の可能性も

特に暑い季節に喉の渇きを覚えるという人は、体内の水分の「滞り」が原因となっている可能性も否定できない。

例えば、冷えた水分を一気に摂取すると、胃が急激に冷えてその機能が大きく低下してしまう。胃腸で水分がしっかりと消化・吸収ができないと水分の全身への巡りが悪くなり、水分が特定の部署に偏ってしまった結果、下痢やむくみなどが引き起こされてしまう。

このような水分の偏りが生じることで体の隅々まで水分が行きわたらず、結果的に、飲んでも飲んでも喉の渇きを繰り返してしまうという悪循環へとつながるケースも考えられる。

  • 一気に冷えた水分を摂取すると、下痢などにつながる可能性も

    一気に冷えた水分を摂取すると、下痢などにつながる可能性も

糖尿病や腎臓病……病的に喉が渇く原因は?

この年齢別必要量と同等、あるいは上回る量の水分を摂取しているにもかかわらず、喉が頻繁に渇くという人は、疾患などが原因となっているケースも考えられる。病的に喉が渇く要因として考えられるものを以下にまとめた。

(1)脱水、発熱

体の水分が汗などで失われて不足している場合や、発熱により喉が渇く。喉の渇きのほか、食欲不振、ふるえ、頭痛、腹痛などの症状が見られることもある。熱中症などによって引き起こされている可能性もあるため、意識がもうろうとしているような様子や、自力で水分があまり摂れないような様子があれば、すぐに受診した方がよい。

(2)高齢者

高齢になると体内水分量は約50%に低下する。喉の渇きも自覚しにくくなり、トイレの回数やオムツ交換など介護の手間を減らすために、水分摂取を自制してしまう高齢者も少なくない。身近に高齢者がいる場合には、こまめに水分補給できるように配慮しよう。

(3)ドライマウス

ドライマウスとは「口腔乾燥症」と呼ばれる症状のことで、病気ではない。主に口や喉の渇きといった自覚できる症状全般を指す。特に50~70歳代の女性に多く見られると言われており、理由は加齢に伴う唾液の分泌量の低下によるもの。最近では、30~40歳代の女性にも増えており、女性ホルモンの分泌量の減少や自律神経のバランスの乱れが原因とも言われている。食べ物をよくかんで、ストレスを減らすことが対策として重要。

(4)糖尿病

インスリンの不足により、血糖値が慢性的に高くなる病気。遺伝的な影響もあるが、食生活や運動不足、肥満などによって起きる生活習慣病でもある。糖尿病の場合はインスリンが十分に働かないため、血糖が取り込めなくなり、高血糖の状態になる。すると、体は吸収されなかった糖を尿として排出しようとするため、尿の量が多くなったり(多尿)、トイレに行く回数が増えたりする(頻尿)。

「尿が排出されるときには当然水分も出ることになるため、体は脱水の状態になって喉が渇くのです。初期はこれといった症状はありませんが、進行するに従って喉の渇きや多飲多尿、夜間の頻尿、疲労感などが出現するケースがあります」

(5)腎臓病

腎臓は尿を排泄する器官であるため、腎臓がうまく働かなくなると尿の濃度を調整する機能が低下する。その結果、尿量が増えて水分が失われ、喉が渇く。腎臓疾患は自覚症状が現れにくいのが特徴だが、「尿に色がついている」「朝起きたら、まぶたがむくむ」といった症状が続くときには、受診して相談しよう。

(6)シェーグレン症候群

自己免疫疾患の一つで、涙腺と唾液腺に異常を引き起こす。口の渇きや目の乾き、関節痛、筋肉痛などが特徴。主に50代で発病し、男女比は1:14と女性に多い病気となっている。気になる症状があれば、病院で相談してみてもよいだろう。

(7)薬の服薬

「鼻炎や鼻づまりがある方は口呼吸になり喉が渇きます。また鼻炎薬の抗アレルギー薬や抗ヒスタミン薬、風邪薬よる口内の乾燥は、主に薬の抗コリン作用により唾液の分泌を抑えてしまうことで起こります。睡眠薬、精神安定剤、抗うつ薬は喉が渇きやすいようです」

(8)飲料

コーヒー、紅茶、緑茶、エナジードリンクなどの過剰摂取は、利尿作用があるため多尿になり喉が渇く。

(9)塩分やアルコールの摂りすぎ

塩分摂取が多いと血液を薄める必要から、細胞の中の水分が取られて喉が渇いたように感じる。また、アルコールは利尿作用があり、喉の渇きが出やすくなる。

(10)ストレス(自律神経の乱れ)

ストレスがかかると交感神経の興奮状態が続き、唾液の分泌が減るため喉が渇く。

(11)妊娠、更年期

「妊娠すると『プロゲステロン』という女性ホルモンの分泌量が上昇します。プロゲステロンは子宮内膜を分厚くするといった、妊娠のキープに欠かせない効果を発揮してくれますが、それ以外にも水分を保持する効果と体温を高くする効果があり、どれだけ水分補給を行っても喉が渇きやすく感じると言われています。また汗をかきやすくなり、つわりなどで食事や水分摂取に変化も生じやすく、喉が渇きやすいです」

更年期とは年齢によるホルモンバランスの変化を原因とした、さまざまな不快な症状を起こす状態。のぼせ、ほてり、発汗、不眠、抑うつが5大症状と言われているが、ほかにも喉の渇きやイライラなどが見られる場合もあるとのこと。

体に負担をかけにくい効率的な水分補給の方法

水分補給として一度に大量の水を摂取すると、かえって体内の電解質バランスを崩して体調不良を引き起こしてしまう。では、どのように飲むのが効果的なのだろうか。

「飲む量は、かいた汗の量を目安にし、汗で失われる塩分(ナトリウム)もきちんと補給しましょう。冷えたイオン飲料や経口補水液の利用が手軽ですが、1リットルの水、ティースプーン半分の食塩(2g)と、角砂糖を好みに応じて数個溶かして、自分で作ることもできます。長時間運動を続ける場合には、ナトリウム濃度をやや高くすることが必要です。トライアスロンなど長時間の運動では、血液のナトリウム濃度が低下して、熱けいれんが起こることが報告されています」

糖を含んだ飲料が推奨される理由としては、腸管での水分吸収を促進する点が挙げられている。主要な糖であるブドウ糖は、腸管内でナトリウムが同時にあると速やかに吸収される。そして、それらに引っ張られて水分も吸収されるというのが、そのメカニズムと考えられている。また、エアコンの効いた屋内で長時間過ごす場合は、冷たいものよりも常温や温かい飲みものを取り入れるほうがおすすめという。

これらのアドバイスを参考に、「たかが喉の渇き」と侮らずに適切な水分補給を心がけ、気になる体の変化があれば早めに受診するのがよいだろう。

※写真と本文は関係ありません