感情の起伏が激しい場合、精神面ではなく身体面に原因がある場合も

「最近、なんとなく気分の波が激しい」「生理前でもないのにやたらとイライラする」「急に寝つきが悪くなった」……。いつもと変わらない日常生活を過ごしている中で、このような症状に苦しめられた経験がある女性はいないだろうか。

何の前触れもなく、突然情緒不安定な日々が続くと、精神系の疾患を疑いたくなるかもしれない。ただ、ちょっと待ってほしい。もしかしたら、原因は女性ホルモンにあるかもしれないのだ。

今回はホルモン補充療法などを行うAACクリニック銀座の院長・浜中聡子医師に、女性ホルモンと精神面の関係性について伺った。

女性ホルモンがイライラや物忘れにつながる

女性ホルモンは、外見だけではなく、内面にも多大な影響を与える。

「精神面で言うと、月経前症候群(PMS)で女性の皆さんは感じていると思うのですが、『エストロゲン』が足りないと気分が落ち込んで抑うつ的になります。エストロゲンの減少が前面に出やすい人は、ぼーっとして判断低下や物忘れが多くなるなどを訴えるケースがよく見られます。一方で、『プロゲステロン』が足りないとイライラすることが多いですね。睡眠も同様で、プロゲステロンの不足が目立つと睡眠のときもイライラしてしまって、眠りづらいということをおっしゃる人が多いです」。

女性ホルモンは、副腎や胎盤から一部分泌されるものの、大半が卵巣によって作られており、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の2つに大別される。エストロゲンはさらに「エストロン」「エストラジオール」「エストリオール」の3種類に分別され、体内にホルモンを補充するホルモン補充療法では、エストラジオールとエストリオールを用いる。

女性ホルモンは、一生のうちでわずかスプーン1杯分ほどしか分泌されないが、肌や髪にはりを出したり、生活習慣病をはじめとするさまざまな疾病リスクから体を守ってくれたりする。そして、浜中医師が解説するようにメンタル面とも深いかかわりがあるのだ。

どのような影響が出るかには個人差がある

エストロゲンが減ると気分が沈みがちになることが多く、プロゲステロンが減ると気分が高まることが多い。まったく正反対の感情になるわけだが、女性ホルモンの減少で実際にどのような症状が出るかは、人によって異なるという。

「PMSでも個人差があるのと同様、女性ホルモンによる症状にも個人差があります。イライラや不安、怒りが前面に出る人もいれば、体がだるくて重いというタイプの方もいますし、その両方だという人もいます。私たちのクリニックに訪れる患者さんは40代が多いですが、来院される方ですと、『イライラする』『涙もろくなった』『気分が沈む』『やる気が出ない』『不眠で睡眠の質が悪くなった』という症状が目立ちます」。

50歳前後で女性は閉経を迎え、この閉経前後の更年期にはさまざまな症状に悩まされるケースが多い。精神面の変化もその一つで、メンタル面の改善を期待して更年期の女性がホルモン補充療法を選択する例もあるという。

実際、「睡眠がとりやすくなった」「落ち着く」「気分の波が小さくなった」など、治療によって改善を自覚する女性も少なくなく、30代でもホルモン補充療法を受ける人もいると浜中医師は話す。また、20代や30代の女性も該当するPMSに関しても、痛みだけではなく精神面の改善を希望してピルを使用するケースが多いそうだ。

精神面の症状には、体が影響している可能性

女性の体は非常にデリケートだ。ただ、体調の変化や精神面の浮き沈みがある周期を、自分の中である程度は把握できているだろう。そのサイクルから全く外れている中で情緒不安定になったら、女性ホルモンが影響しているかもしれないと覚えておこう。

「精神面の症状は、実は身体面からの影響によって出ているのかもしれません。そこをきちんと把握し、体に何も問題がないということを確認してから、場合によっては精神科を受診した方がよいでしょう」。

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記事監修: 浜中聡子(はまなか さとこ)

医学博士。北里大学医学部卒業。AACクリニック銀座院長。米国抗加齢医学会専門医、国際アンチエイジング医学会専門医などの資格を多数取得。アンチエイジングと精神神経学の専門家で、常に丁寧な診察で患者に接する。