――坂本監督が単身乗り込まれたことになる、東映京都撮影所スタッフの方々のお仕事についてお聞かせください。

京都には僕だけでなく、カメラマンも一緒に行っていますから、たった1人ではないんです(笑)。ただ確かに、僕が京都撮影所で作品を撮るのは初めてで、事前にいろいろウワサを聞いてはいましたね。京都の人たちは厳しいぞ!……とか。だから最初は少し不安があったのですが、実際に行ってみたらぜんぜんウワサと違って、みなさん本当に僕をあたたかく迎えてくださって、嬉しかったですね。伝統的な時代劇の撮り方を心得ている方たちなんですが、ふだんはあまりやらないようなアイデアを僕が提案しても、面白がってノッてくださいました。

――東京での撮影スタッフと、京都のスタッフとの大きな"違い"とはどこにあるでしょう。

どちらも映画作りのプロフェッショナルに違いないですが、京都の方たちはみな、何十年もこの道一筋でやっていらっしゃるベテランの方が多く活躍されているところが大きな特徴ですね。僕が少年時代に観て大好きだった『伊賀忍法帖』(1982年)や『魔界転生』(1981年)『里見八犬伝』(1983年)に関わられていたスタッフの方たちが、今でも現役で仕事をされているのには感激しました。合間にみなさんとお話をしていて、当時の現場のようすなどを聞くとテンションが上がりました。当時、撮影で使った衣装なども残っていて、現場のスナップ写真とかも見せていただいて、あれは興奮しましたね(笑)。

――物語の鍵を握る重要な役どころである「宮」には、アイドルグループ「℃-ute」出身の矢島舞美さんが起用されました。矢島さんの印象をお聞かせください。

以前、僕の後輩が舞美ちゃんと一緒に仕事をしていて、アクションができると聞いていましたし、本人もアクションに意欲的だというので、過去にも何度かお名前を出させていただいたり、オファーをかけていたんです。スケジュールの都合もあってなかなか実現しなかったのですが、今回やっと念願が叶い、出演していただくことができました。この作品では激しいアクションこそありませんが、彼女のお芝居に対する姿勢がすばらしく、すごくいい出会いができたなと感じています。

――アニメ版の「メリッサ」にあたるキャラクター「明里咲(めりさ)」は、『宇宙戦隊キュウレンジャーVSスペース・スクワッド』(2018年)でご一緒された大久保桜子さんが演じられました。

桜子ちゃんは「癒し」担当ですね。彼女が出てくると周りがパッと明るくなって、雰囲気が和らぐというのが狙いです。アニメのメリッサと同じく、明里咲にも今回の映画では明かされない"秘密"をかかえている設定がありますので、今後の展開次第ではそういう部分も明かしていくことができるかもしれません。

――重次の命により宮の命を狙う忍者集団「根来衆」の4人の手練れの存在感もすばらしく、みなそれぞれ特徴的なアクションを繰り広げていました。中国武術を使うリーダー「白(はく)」を演じる藤岡麻美さん、琉球拳法の「ウト」を演じる宮原華音さん、朝鮮武術の「ジン」を演じる出合正幸さん、力士くずれで怪力の持ち主「黒竜(こくりゅう)」を演じる中村浩二さん、それぞれのキャラクターと技についてお話を聞かせてください。

藤岡さんは台湾で"剣舞"のほうをやられていて、形がすごく美しく決まるんです。今回は相手を倒すための剣、アクション用の動きをつけさせていただいたんですが、現場でもうまく対応してくださって、やりやすかったですね。白はすごい姉御肌の性格ですけど、藤岡さん本人はホワ~ンとした印象で、会話をしていてもテンポがどんどんズレていったりして、そこがとてもチャーミングなんです。映画の印象のまま本人に会うと、すごくギャップがあってびっくりするんです(笑)。

華音ちゃんはこれまで舞台『NINJA ZONE』シリーズ(2018年&2019年)で一緒にやっていましたが、それ以前にも映画『ハイキックエンジェルス』(2014年)のプロモーションを僕が手伝っていたりして、面識があったんです。そのころから、彼女のアクションにかける情熱と、常に努力する姿勢がすばらしいと思って見ていましたが、今回ついに映像作品で組むことができてよかったです。根来衆がそれぞれ異なる技で律花と戦っていくのは、僕なりに"異種格闘技"戦をやりたかったためなんです。出合くん演じるジンの朝鮮武術は"テッキョン"という韓国に伝わる伝統格闘技で、踊りながら蹴りを出す、みたいな舞踊と格闘を合わせたようなスタイルです。作品の舞台が江戸時代なので、近代風の格闘技ではなく、その当時に存在していたであろう伝統的な格闘技を意識しました。華音ちゃんが「手技」を中心にした戦い方なのも、空手の「蹴り技」はずっと後になってから発達してきたものだったから。必ずしも史実に忠実というわけではないですが、それっぽい雰囲気には寄せています。中村さんは体格の良さを活かして、パワーファイターの相撲取りになっていただきました。少しアタマが弱く、チームのムードメーカー的存在ですね。根来衆の4人は衣装にも凝っていて、みな「僧兵」上がりという設定から僧侶が身に着けているもので統一しているのですが、あちこちから集まった外人部隊というところを強調するため、衣装部さんとも相談して4人それぞれの個性を作っていきました。

――根来衆を操る公儀見回り組の頭・戸田重次役にキャスティングされた久保田悠来さんもまた、クールな二枚目でありながら激しいアクションもこなせる俳優さんですね。

久保田くんとは『KIRI-「職業・殺し屋。」外伝-』(2015年)で初めてご一緒したとき、顔も声もいいし、芝居も上手。しかもアクションもこなして、この人すごいなと思いました。重次は律花と1対1で立ち回りをすることになる役ですから、よほどの人でないと千尋ちゃんの動きについていけません。その点久保田くんは、千尋ちゃんと互角に渡り合うくらいハードなアクションを見事にこなしてくれました。決戦シーンはワンカット長回しで、うまくいくまで何テイクも重ねて撮っていたんですが、久保田くんは千尋ちゃんの動きにしっかりついてきてくれました。これはほんとうにすごいことだと思います。

――坂本監督の師匠である倉田保昭さんが、律花の祖父・兵衛(ひょうえ)を演じられたことも注目を集めています。倉田さんに演出をつけられたときのご感想を聞かせてください。

いや~、すごく緊張しましたよ。先生に出演していただいたのは『KIRI』に続いて2作目なんですが、今回は特に兵衛という役を先生に演じていただきたくて、出演依頼をしました。先生も快く引き受けてくださって、ありがたかったですね。僕が16歳のころより弟子入りした先生に「こうしてください」と注文をつけるのは緊張しましたが(笑)、先生も楽しんで演技してくださり、撮影中もいろいろなお話ができて、とても充実した現場になりました。そもそも今回は、倉田先生の門下生が結集しているんですよ。僕もアクションコーディネーターの高橋伸稔さん、出合くんや中村さんもそうですし、隣の現場でアクション監督をやっている谷垣健治くんも、待ち時間の長いときなんかでこちらに遊びに来てくれたり(笑)、「ファミリー」の雰囲気に包まれていました。

――時代劇の立ち回りを専門にされている「東映剣会」のみなさんの印象はいかがでしたか。

剣会のみなさんは、『太秦ライムライト』(2014年)のころから千尋ちゃんを娘か、孫娘のような存在として可愛がっていまして、今回は彼女が主演だということで、とても熱心に協力してくださいました。寒い中での撮影が続いたんですけど、千尋ちゃんのためにみなさんが一丸となって立ち回りシーンなどもこなしてくださって、ほんとうにありがたかったです。

――後半、律花が「黒い狐」と称される仮面と装甲を身に着けて戦うという、特撮ヒーロー作品にも通じるシーンが出てきますが、仮面のデザインなどもあまり突飛になりすぎず、時代劇であることを強く意識したかのような落ち着いたイメージになりましたね。

アニメ版『BLACKFOX』と同じデザイナーさんだったのですが、僕のほうから「時代劇なのであまり"未来的"になりすぎず、この時代にありそうなイメージでお願いします」とリクエストさせていただき、"時代劇的説得力"を持たせた外見に落とし込んでいきました。