厚生労働省は先ごろ、「健康寿命を伸ばそう」をスローガンに、健康づくりにおける睡眠や休養の重要性についての理解を深める、「スマート・ライフ・プロジェクト2019」睡眠啓発イベントを開催した。

  • 「スマート・ライフ・プロジェクト2019」睡眠啓発イベント

睡眠不足は健康にも経済にも打撃

イベントは、東京慈恵会医科大学教授で、太田睡眠科学センター所長の千葉伸太郎氏による「あなたの睡眠は大丈夫? パワーナップの活用」と題した講演からスタート。

まず取り上げられたのが、現代の日本社会では睡眠時間が不足していること。本来必要な睡眠時間が8時間であるのに対し、実際は平均6時間くらいしか取れていない。睡眠時間が不足すると、人間はどうなるか。

「スリーマイル島の原発事故やスペースシャトル・チャレンジ―の爆発事故は、睡眠不足による人為的ミスが原因のひとつと言われています。また、アメリカでは睡眠不足による経済損失が年間600億ドルに相当するという調査結果も報告されています」と千葉氏は話す。

そのほか、かつての受験戦争で言われていた「4当5落」のような生活を続けていると、「キレる子供」になったり、肥満やメタボ、ガンにもなりやすかったりするといったことも紹介された。

「4当5落」といっても、若い人には聞き慣れない言葉かもしれない。これは受験で、「4時間睡眠で頑張れば合格し、5時間寝ているようでは合格できない」ことを端的に表した造語だ。逆に、良い睡眠は最高のアンチエイジングになるそうだ。

  • 東京慈恵会医科大学教授 太田睡眠科学センター所長 千葉伸太郎氏

仮眠を取ると仕事のパフォーマンスが向上

とはいえ、忙しい今日、睡眠時間を改善するのは簡単なことではない。そこで、すぐに取り組める対策として、お勧めなのがパワーナップすなわち仮眠(昼寝)だ。

千葉氏「仕事や生活の都合で、必要な睡眠時間が確保できなかった場合、午後の眠気を改善するのに役立つのが昼寝です。昼食後、午後2時くらいまでに30分以内の仮眠を取ることで、眠気による作業効率の低下を防ぐことができます」。

  • 紹介された、昼寝によるパフォーマンス向上の調査データ

これを裏付ける根拠のひとつとして示されたのが写真の調査データだ。これは真っ暗な部屋で横になったとき、何分で眠るかを調査したもの。なかでも、グリーンの折れ線が睡眠不足のOLのデータで、薄いグリーンが昼寝なしの日、濃いグリーンが昼寝ありの日になる。明らかに昼食以降は、昼寝ありの場合が眠るまでの時間が長くなっている。

また、仮眠を取ることで、「ワーキングメモリーのパフォーマンスが34%改善」する、3週間30分の昼寝で「心臓疾患にかかるリスクが37%減少」したという調査データも紹介された。

「大切なのが、昼寝は30分以内に留めること。横になって30分以上昼寝をすると、目が覚めても脳が眠っている状態の睡眠慣性になり、逆に作業効率が落ちてしまいます」(千葉氏)

そこで、千葉氏がお勧めするのが、机に突っ伏して15~20分仮眠を取る方法。仮眠の前にコーヒーを一杯飲むと、もっと良いという。コーヒーのカフェインが効果を発揮するのは、飲んでから15分以降なので、目覚めがすっきりするそうだ。

企業が取り組む社員の睡眠改革

千葉氏の講演に続き、実際に睡眠・仮眠による働き方改革に取り組んでいる企業の事例が紹介された。

  • CRAZY取締役の松田悠介氏(左)とヤフーのグッドコンディション推進室長の市川久浩氏(右)

CRAZYは、日本初となる「睡眠報酬制度」を導入。スマホアプリで社員1人ひとりの睡眠時間をチェックし、1日6時間以上の睡眠を取った社員には、食堂やカフェで利用できるポイントを付与する制度だと松田氏は言う。

またヤフーでは、「睡眠・休養サポート」に力を入れ、「グッドコンディション」をコンセプトとして、健康な食生活や休憩しやすいオフィスづくりに力を注いでいると市川氏は話す。

いびきを抑えるエクササイズ

また、睡眠の質を高めることも大切なことから、千葉氏から「いびき」を抑えるためのエクササイズが紹介された。誰でも簡単にできるそうなので、実践して睡眠の質を高めてはみてはどうだろうか。

  • 「いびき」を抑えるためのエクササイズ

「昼寝は『サボる』人間ではなく、『デキる』人間がすることです」と、千葉氏は印象的なメッセージを最後に紹介した。生活習慣の改善や健康づくりには、まず私たちの意識改革が必要なようだ。

筆者プロフィール: 大塚立誌

1961年2月8日生まれ。金沢大学法学部を卒業し、大手就職情報会社で編集を担当。その後、企業広報のプロダクションでライターとして経験を積み、35歳で独立。企業広報や求人広告のライティングを中心に活動している。