近畿日本鉄道が2020年3月14日の運行開始を発表した、大阪難波~近鉄名古屋間を結ぶ新型名阪特急「ひのとり」。今回は7月に名阪特急・阪伊特急に乗車したことも踏まえ、話題を呼んでいる「ひのとり」の魅力を探っていきたい。

  • 近鉄の新型名阪特急「ひのとり」(画像:近畿日本鉄道)

    近鉄の新型名阪特急「ひのとり」(80000系)。外観は先進的でスピード感のある車体形状とし、メタリック塗装を施す

■デビュー後は上下各6本の名阪特急が「ひのとり」に

「ひのとり」として運行される新型車両の車両形式は80000系。近鉄の発表によれば、デビュー後は名阪特急を中心に運用される一方、大阪難波~近鉄奈良間を走る一部の特急列車にも使用されるとのこと。運行開始する2020年3月14日以降、平日・土休日ともに上下各6本の名阪特急が「ひのとり」となる予定。運行ダイヤも公開されている。

  • デビュー後の「ひのとり」は6両編成で運行。その後、8両編成も導入予定となっている

  • 2020年3月14日から運行開始し、平日・土休日ともに上下各6本の名阪特急が「ひのとり」に

現行ダイヤを見る限り、「ひのとり」はデビュー後すぐに停車駅の少ない名阪甲特急で運用される可能性が高い。近鉄が開設している「ひのとり」の特別ページを見ても、名阪間で示された駅は大阪難波駅、大阪上本町駅、鶴橋駅、大和八木駅、津駅、近鉄名古屋駅のみだ。最初は6両編成の「ひのとり」を3編成導入し、2020年度中に全11編成(6両編成×8編成、8両編成×3編成)を導入して「大阪難波駅、近鉄名古屋駅 毎時0分発ほか、停車駅の少ない名阪特急をすべて『ひのとり』で運行します」とのこと。

「ひのとり」はJRのグリーン車にあたるプレミアム車両、普通車にあたるレギュラー車両の2クラス制を採用した。1編成あたり6両編成または8両編成で構成され、先頭車2両がプレミアム車両となった。

近鉄特急は全席座席指定のため、規定の料金を支払えば確実に座れる。ただし、乗車する際は普通運賃と特急料金に加え、特別車両料金が必要。「ひのとり」の特別車両料金はクラスごとに異なり、大阪難波~近鉄名古屋間の場合、プレミアム車両が900円、レギュラー車両が200円。運賃・特急料金と特別車両料金の合計は、プレミアム車両が5,240円、レギュラー車両が4,540円となる。

  • 大阪難波~近鉄名古屋間で「ひのとり」に乗車した場合、運賃・料金の合計はプレミアム車両が5,240円、レギュラー車両が4,540円

「ひのとり」では特別車両料金が設定されているものの、観光特急「しまかぜ」の特別車両料金が大阪難波駅・近鉄名古屋駅から賢島駅まで1,030円、京都駅から賢島駅まで1,130円であることを思うと、比較的安いと感じられる。

■「ひのとり」プレミアムシートの座り心地は

新型名阪特急の車両名称と運行開始日が発表された直後から、「ひのとり」のプレミアム車両に設置されるプレミアムシートの展示イベントが各地で開催されている。筆者も大阪上本町駅で行われたイベントに立ち寄り、プレミアムシートを試してみた。

座ってみての第一印象は、座席というよりソファに近い。航空機のビジネスクラスの座席に似ているような気もする。リクライニングすると、「座る」というより「寝る」感覚に近い。しかもバックシェルが付いており、後部座席の乗客に気兼ねなく倒せるのがうれしい。各座席にコンセントも設置されているため、パソコンやタブレット端末を使った映画鑑賞なども楽しめるだろう。

  • 大阪上本町駅の地上コンコースに展示された「ひのとり」のプレミアムシート。インアームテーブルも用意している

これだけ豪華な設備でありながら、現行の「アーバンライナー」の料金に900円を追加するだけで利用できる。大変お得だと感じた。

■名阪間の“ライバル”新幹線・高速バスとの違いは

名阪間では近鉄特急の他にも、東海道新幹線や高速バスといった強力な“ライバル”が存在する。ここでは所要時間と料金、サービス面から「ひのとり」と東海道新幹線、高速バスを比較してみたい。

所要時間と運行本数において、圧倒的優位を誇るのが東海道新幹線。新大阪駅から名古屋駅まで、「のぞみ」で50分、「こだま」で1時間8分(昼間時間帯)となっている。現行の近鉄特急だと大阪難波~近鉄名古屋間の所要時間は最速でも2時間5分。運行本数も新幹線には太刀打ちできない。一方、高速バスは大阪駅JR高速バスターミナルから名古屋駅(新幹線口)まで、JR東海バスで約3時間かかる。

ただし、大阪の中心地から離れている新大阪駅に対し、近鉄特急が発着する大阪難波駅は大阪・ミナミの中心地にある。御堂筋線を利用した場合、難波駅から新大阪駅まで所要時間は約15分。新大阪駅で新幹線への乗換えに10~15分程度かかると考えると、乗換えなしで大阪の中心地へ行けることはメリットのひとつといえるだろう。

加えて、近鉄は大阪難波駅で阪神なんば線と相互直通運転を行っており、同一ホーム乗換えで甲子園駅や神戸三宮方面に行けることも大きい。今年7月、筆者が大阪難波駅まで「伊勢志摩ライナー」に乗車した際、途中の伊賀神戸駅から阪神タイガースの応援シャツを来た乗客が車内に入ってきたことも思い出される。

次に料金を見ていこう。圧倒的に安いのは高速バスで、当日に乗車する場合でも大阪から名古屋までの料金は2,900円(2019年9月21日当日の価格)だった。

近鉄の新型名阪特急「ひのとり」の料金は前述の通り、大阪難波~近鉄名古屋間で4,540円(レギュラー車両)・5,240円(プレミアム車両)。一方、東海道新幹線は通常期において、「のぞみ」の指定席で6,680円、「ひかり」「こだま」の指定席で6,470円となった。なお、高速バス以外の金額は10月1日に予定される消費税率引き上げに伴う改定後の運賃・料金を反映している。

「ひのとり」の料金は高速バスと新幹線の中間に位置づけられる。特別車両料金が設定され、現行の「アーバンライナー」より高くなるとはいえ、プレミアムシートの座り心地から察するに、あまり割高感なく利用できるのではないかと考えられる。

  • 「ひのとり」ではプレミアム車両・レギュラー車両の全席でバックシェルを設置している

サービス面を見ると、「ひのとり」は日本の鉄道界では初という全席バックシェルを導入する。プレミアム車両だけでなく、レギュラー車両もバックシェルにより、後部座席を気にすることなくリクライニングできる。

筆者は今年7月に「アーバンライナー」で大阪難波~近鉄名古屋間を往復したが、「アーバンライナー」のレギュラー車両の座席でも新幹線普通車の座席より快適に感じた。「ひのとり」のデビューにより、座席の質において近鉄特急と新幹線の差は広がるのではないか。高速バスはバスという特性上、列車と比べて窮屈さは否めない。

所要時間と料金、サービス面で比較すると、近鉄特急は所要時間・料金において東海道新幹線と高速バスの中間に位置する一方、サービス面では上位にいるのではないかと考えられる。来年春に「ひのとり」がデビューし、座席の質が格段に高まれば、近鉄特急に対して「サービスの割に料金が安い」という印象になるかもしれない。

  • 「ひのとり」のベンチスペース。多目的な用途で利用可能

  • コーヒーサーバーなどを設置したカフェスポットも

新型名阪特急「ひのとり」のプレミアムシートを体験し、名阪間の新幹線や高速バスと比較しながら感じたのは、近鉄特急が「質」で勝負しているということだった。車内の居住性を大幅に向上させたという「ひのとり」の登場が待ち遠しい。加えて、近鉄は他にもフリーゲージトレイン(軌間可変電車)の実用化に向けた研究を進め、さらに2025年大阪万博をめざし、新たな直通特急の開発を検討しているとの情報もある。これからも「質」の高い近鉄特急の登場を楽しみにしたい。