前回乗車した名阪特急(大阪難波~近鉄名古屋間)と並び、近鉄特急のメインルートといえるのが伊勢志摩方面へ向かう列車である。来年は近鉄難波(現・大阪難波)駅・近鉄名古屋駅から賢島駅への特急列車が運転開始されてから50年という節目の年を迎える。半世紀が過ぎようとしている伊勢志摩方面の特急列車に乗り、現状を探った。

  • 賢島行の特急列車として運行される新塗装の22000系「ACE」(写真:マイナビニュース)

    賢島行の特急列車として運行される新塗装の22000系「ACE」

■阪伊特急も甲特急・乙特急がある - 甲特急は土休日のみ

阪伊特急は長きにわたり、大阪都心部と三重県の観光地である伊勢志摩を結ぶ役割を果たしてきた。もちろん現在もその役割に変わりはないが、ダイヤを見ると阪伊特急の果たす役割が変化していることがわかる。

名阪特急と同様、阪伊特急も大阪市内の鶴橋駅から伊勢神宮の玄関口である伊勢市駅までノンストップとなる阪伊甲特急と、途中の主要駅にも停車する阪伊乙特急がある。ただし、現行のダイヤでは阪伊特急のほとんどが乙特急となっており、甲特急は土休日ダイヤで上下各1本のみの設定となった。

ちなみに1987(昭和62)年、いまから30年以上前のダイヤだと、阪伊甲特急は日中1時間間隔で運行されていた。現在、平日の阪伊乙特急における大阪難波~鳥羽間の所要時間は約2時間、終点の賢島駅までの所要時間は約2時間30分となっている。

今回、往路は大阪上本町駅を8時50分に発車する鳥羽行の特急列車に乗り、鳥羽駅で賢島行の特急列車に乗り換えることにした。始発駅の大阪上本町駅は地上ホームと地下ホームがあり、同駅始発の特急列車は地上ホームから発車する。

  • 大阪上本町駅から賢島駅までの特急券。鳥羽駅で乗換えが必要だが、きっぷは1枚のみで良い

筆者は発車30分前の8時20分に地上ホーム9番線に着いたが、すでに鳥羽行の特急列車は入線していた。編成は鳥羽方から22600系「Ace」4両・12000系4両・22000系「ACE」2両の10両編成。しかも22000系は新塗装、12000系は旧塗装と塗装が異なるため、じつにカラフルな編成となっていた。大阪方6両は途中の名張駅で切り離すとのことで、これらの車両の行先は「名張」と表示されていた。

筆者は2009年にデビューした22600系に乗車した。この車両は21020系「アーバンライナー next」と同じく「ゆりかご式」リクライニングシートを採用。フットレストの間にはコンセントが設置されている。背面テーブルに加え、肘掛にもテーブルが用意され、そのときのシチュエーションに合わせて使い分けができるので便利だ。

列車は8時50分に大阪上本町駅を発車。鶴橋駅で4~5名ほど乗り込んだが、この時点で乗車率は2割にも満たない様子だった。近鉄特急の予約サイトで確認すると、大和八木駅からの座席予約率は4号車が7割、1~3号車は3割といったところ。予約サイトから考えると、この列車は途中駅からの利用が多そうだ。

9時20分、橿原線との接続駅である大和八木駅に到着。夏休みを伊勢志摩で過ごすと思われる家族連れが車内に入ってきた。ビジネスライクな名阪特急と異なり、阪伊特急は観光色が濃い。名張駅で車両の切離しを行い、4両の身軽な編成となった特急列車は新青山トンネルを抜け、榊原温泉口駅に到着する。

阪伊乙特急でも停車駅は同一ではなく、榊原温泉口駅に停車する特急列車は1時間あたり1本(日中時間帯)のみ。伊勢中川駅から山田線に入り、10時35分に伊勢市駅に着いた。伊勢神宮外宮の最寄駅であるこの駅で、初めてまとまった降車があった。

  • 伊勢市駅

  • 宇治山田駅

列車は次の宇治山田駅、その次の五十鈴川駅にも停車し、終点の鳥羽駅には10時50分に到着。隣のホームに近鉄名古屋発賢島行の特急列車が停車しており、「ドアツードア」で乗り換えることができた。

■「伊勢志摩ライナー」登場から20年以上も衰え知らず

復路は賢島駅から大阪難波行「伊勢志摩ライナー」に乗車した。23000系「伊勢志摩ライナー」は近鉄グループの複合リゾートである「志摩スペイン村」への輸送を目的として、1994年にデビュー。2012年からリニューアル工事が進められ、車体の上半分が赤色の編成が登場。車体の上半分が黄色の編成も細部の配色などが変更されている。

  • 「伊勢志摩ライナー」は2012年からリニューアルが行われ、車体の上半分が赤色の編成も登場

「伊勢志摩ライナー」にはデラックスカー、サロンカー、レギュラーカーが連結されている。「デラックスカー」は横3列(1列+2列)の座席配置となっていて、グレーを基調としたゆったりした座席とも相まって落ち着いた雰囲気を醸し出している。サロンカーはグループ客をターゲットにした華やかな車両。横3列(1列+2列)のソファ式の座席が設置され、座席間にある大型テーブルはゲームや弁当を広げるのに適している。レギュラーカーは横4列(2列+2列)のリクライニングシートが並ぶ。

4号車では、車内販売コーナー「シーサイドカフェ」を見かけたが、営業を休止していた。以前はカフェスタイルで営業していたが、利用客の減少で休止しているという。現在は土日祝日の一部の「伊勢志摩ライナー」で車内販売が行われている。

「伊勢志摩ライナー」は13時0分に賢島駅を発車。すぐに志摩スペイン村の玄関口にあたる鵜方駅に着き、ここで志摩スペイン村からの帰りと思われる家族連れが乗車した。サロンカーからにぎやかな声も聞こえる。伊勢市駅までは観光客の比率が高かったが、伊勢中川駅では近鉄名古屋駅始発の特急列車から多数のビジネスマンが乗り換えてきた。これを境に、車内の雰囲気も変わったように思う。

  • 近鉄山田線を走行する「伊勢志摩ライナー」

伊賀鉄道との接続駅、伊賀神戸駅からは阪神タイガースのシャツを着た男性が乗車。「難波から乗換えなしで甲子園に行ける。ホンマに便利になった」という声が聞こえ、2009年の阪神なんば線開業、近鉄との相互直通運転開始が近鉄特急にも少なからず影響を与えていることを実感する。

その後、他線と接続しない榛原駅や大和高田駅などでもビジネスマンらが乗車し、車内はほぼ満席に。観光からビジネスまで幅広く対応する「伊勢志摩ライナー」の活躍を目の当たりにした。15時32分に大阪難波駅に到着し、乗客を降ろした「伊勢志摩ライナー」は回送列車となり、慌ただしく発車して引上げ線に入って行った。

■阪神なんば線直通の近鉄特急、乗ってみたいが…

2019年現在、神戸三宮方面から阪神本線・阪神なんば線を直通して定期運行を行う近鉄特急は設定されていない。ただし、ツアー形式の貸切列車として、近鉄特急が神戸三宮駅へ乗り入れることはある。阪神線内は専用車を使った特急列車が設定されていないこともあり、定期運行となると料金面を中心にハードルは高いだろう。

それでも鉄道ファンの1人として、神戸三宮駅、さらには山陽姫路駅から近鉄線へ直通し、定期運行を行う近鉄特急に乗車してみたいものだが……。