NHK連続テレビ小説『なつぞら』(毎週月~土曜8:00~)で、広瀬すず演じるなつの夫、“一久さん”こと坂場一久役を演じている中川大志。真っ直ぐかつ気難しい性格で、仕事ではとことん理想を追求していく坂場は、最初はなつとも衝突していたが、やがて互いの良さを知ってからは、生涯を通じてベストパートナーとなっていく。

「正直、いままでやってきた役のなかで、一番、軌道に乗るまでに時間がかかりました」と役作りの苦労を語る中川。なつと結婚してからは主夫として、子どもが生まれてからは、あの時代には珍しくイクメンとなり、二人三脚で子育てをする坂場が好感度大だ。

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    『なつぞら』坂場一久役の中川大志

――一筋縄ではいかない坂場役には、どのようにアプローチをしていきましたか?

久しぶりに出演した朝ドラで、まさかヒロインのだんなさんになる役を自分がやらせてもらえるとは思ってもみなかったので、最初はプレッシャーをずっと感じていました。また、坂場の役は、読めば読むほど難しいなと感じてしまって。朝ドラは半年間、視聴者がヒロインを通してドラマを観ていくので、「ああ、なつはこの人と結婚して良かったな」と思ってもらえるようなキャラクターにしないとダメだと思いました。

――確かに最初に登場した頃の坂場は、なつや同僚、上司たちとぎくしゃくする場面が何度もありました。でも、やがて坂場の情熱や演出力が認められ、仲間たちに受け入れられていきました。

こんなに第一印象が最悪の人を少しずつでも好きになってもらうためにはどうすればいいのか、魅力をどう伝えていけばいいのかと、最初は正直、迷いました。でも、台本を読んでいくにつれて、坂場の良さをたくさん知っていけたんです。いろいろ探ったので、時間がかかりましたが、だんだん坂場の魅力が見えてくるというのが、間違いなく台本の構造にあったので。

――おっしゃるとおり、少しずつ、坂場の人となりが見えていきました。

それは坂場というキャラクターが変わっていったわけじゃなくて、もともとあったものがだんだん見えてきたということかなと。なつやアニメチームなど、坂場がいろんな人たちと関わり、成長させてもらうことで、「実はこの人は、こんなことを思っていたのか。こんな一面があったのか」と、だんだんわかっていったのではないかと。

――中でも、なつとの出会いが大きかったですね。

作品を作っていく過程で、常に、他のアニメーターたちとの間に立ってくれたのもなつでした。「あの人、ああいう言い方をしているけど、本当はこういうふうに思っているんです」と、坂場の欠落している部分をなつが補ってくれたりと、いろんなことを気づかせてくれました。2人はずっと同じ方向を見て、並び続けてきたのかなとも思います。

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――喫茶店でプロポーズをしたけど、自分が演出を担当した長編アニメーションが不入りに終わったという理由で別れることになったシーンが実に切なかったです。

きっと坂場のなかで、なつとずっと一緒にいたいという思いはあったけど、そこは作品作りと切り離せないという点もあったと思います。それで喫茶店で別れを告げるシーンで、自分がなつを思う感情と上手く向き合えてなかったのかなと初めて気づいたのではないかと。なつとアニメーションを一緒に作ることがすべてだと思っていたけど、それを失ってでも、この人と一緒にいたいんだとようやくわかったのがあのシーンでした。

――だからこそ、そのあと、風車で再度プロポーズするシーンが実に感動的でした。

あのシーンは、本当の意味で、坂場が初めて感情で話しています。頭じゃなく、心で湧き出たものを話すシーン、ちゃんと脱皮できる瞬間にしたいと思いながら演じました。なつと坂場は、くっつきそうでくっつかない感じがずっと続いていたけど、見えないところではずっとつながっていたと思います。きっと視聴者の方は、観ていてもやもやさせられたと思いますが、僕も初めてああいう関係性を演じたので、いろいろと考えさせられました。

――『なつぞら』は『真田丸』を手掛けたスタッフ陣ですが、今回の現場にはどういう思いで臨まれたのですか?

3年くらい前に参加させてもらった『真田丸』は、自分にとってとても大きな現場でした。たくさん反響もいただきましたし、すごく尊敬できる役者の大先輩の方々と一緒の舞台に立たせてもらったので、非常に印象深く、僕にとっては大事な作品でした。今回、そういうお世話になった方々とまたがっつりやらせてもらえたことが、すごくうれしかったし、安心感もありました。前回より演出部のみなさんともいっぱいお話をする時間がありますし、非常に心強いです。

――大河ドラマでの経験が生かされたと思ったことはありましたか?

大河や朝ドラは、セットで長回しをすることが多いんですが、その一瞬にかける瞬発力、その空気感のなかでしか生まれない緊張感や感情があると感じています。最初の方で、坂場がなつに「馬の画がおかしくないですか?」と指摘するシーンも、10分以上の長回しでしたが、楽しんでやらせてもらいました。大河の現場を経験したことで、ちょっとやそっとの現場ではビビらない度胸は間違いなくついたので、そこは生かされていると思います。前回とは演じるキャラクターが全く違うけど、少しでも成長した姿をみなさんに見せたいです。

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■プロフィール
中川大志(なかがわ・たいし)
1998年6月14日生まれ、東京都出身。ドラマ『家政婦のミタ』(11/日本テレビ)で注目され、『南くんの恋人~my little lover』(15/フジテレビ)、NHK大河ドラマ『真田丸』(16)、『花のち晴れ~花男 Next Season~』(18/TBS)などに出演。映画は『きょうのキラ君』(17)、『ReLIFE リライフ』(17)、『虹色デイズ』(18)、『覚悟はいいかそこの女子。』(18)などで主演を務めた。10月からTBS系ドラマ『G線上のあなたと私』に出演予定。

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