今回のテーマは、私たちが日常会話の中で何気なく使用している言葉「どうも」です。どうもは多くの場面で使用される便利な言葉ですが、どんな時にどう使用するのが正しいのでしょうか。本稿では、どうもの正しい使い方について解説します。

  • 「どうも」の正しい使い方を理解していますか?(写真:マイナビニュース)

    「どうも」の正しい使い方を理解していますか?

どうもの語源

はじめに、どうもの語源を調べてみたところ、もとは江戸時代の頃に使用されていた「どうも言えぬ」という言葉で、当時は、「どうも言えぬ気持ち」「どうも言えぬ景色」といった使い方で、「なんとも言いようがない」「言葉にできないくらいの」という感動を表現する言葉として用いられていたそうです。

それが、時代の流れとともに「どうも」と簡略化されると、「どうもありがとう」「どうもご無沙汰しておりました」などと、謝意を示す場面や挨拶にも使用されるなど、徐々に、その用途の幅が広がっていったようです。

どうもの使い方と例文

どうもという言葉は、動詞や形容詞を修飾する【副詞】になります。よって、「どうも」の後には動詞や形容詞が続かなくてはなりません。時折、挨拶代わりに、どうも単体で使用する人がいますが、これは文法上は誤った使い方になります。

では、本来は、どんな場面でどのように使用するものなのか、例文とともに見ていきましょう。

満足・納得できない場面

いろいろ考えたり、できるだけのことをやってみたりしても物事が思うようにいかず、なかなか満足できない気持ちの時に、「どうもうまくいかない」「どうも納得がいかない」などと表現します。言い換えるならば、「どう考えても」「どうやっても」といった表現になるでしょう。

  • あの判定には、どうも納得がいかない。
  • 何度やっても、どうもうまく作ることができません。
  • 部長の考えていることが、どうも理解できない。
  • どうも腹の虫がおさまらない。

疑念を抱く場面

原因や理由がわからない状況の中で、現状に疑念を抱かざるを得ないような場合に、「どうもおかしい」などと表現することができます。「なんとなく」「なんだか」などと言い換えてもよいでしょう。

  • どうも体調が悪い。
  • 昔から、どうも高い所が苦手だ。

推測する場面

理由や根拠が不確かな状況で、ただ漠然と物事を推測するような状況で、「どうも~らしい」といった使い方をします。「どうやら」に近いニュアンスになるでしょう。

  • 明日はどうも雪になりそうだ。
  • 2人ともどうも無事らしい。
  • 今回の件は、どうも課長に非があるようだ。

深い謝意を示す

深い感謝や謝罪といった謝意を表したい場合に、文頭にどうもをもってくることにより、その後に続く謝意を強調することができます。

例えば、本来「ありがとう」だけでも感謝の気持ちは伝わりますが、「どうもありがとう」の方が丁寧ですし、より感謝の気持ちが感じられます。言い換えるならば、「とても」「大変」といった言葉になるでしょう。

  • お土産、どうもありがとうございます。
  • 先日はどうも失礼いたしました。
  • お待たせしてしまい、どうも申し訳ございません。
  • お騒がせしてしまい、どうもすみません。

軽い挨拶やお礼

親しい相手と気楽な挨拶を交わしたり、軽くお礼を述べたりする場合に、「どうもこんばんは」「先日はどうも」といったフレーズで使用します。

  • 昨日はどうも。
  • どうもこんにちは。

どうもを用いる場合の注意点

どうもは軽い挨拶でも使用されますが、中には、「どうもこんばんは」の「こんばんは」を省略して「どうも」単体で挨拶を済ませる人や、「先日はどうも」などと「どうも」で会話を終わらせてしまう人も多いと思います。しかし、どうも単体やどうもで終わる挨拶は、相手やシーンによっては失礼にあたるため、注意が必要です。

どうもは副詞であるため、文法のルール上、どうもの後には動詞あるいは形容詞が続く必要があります。そのため、どうもだけでは文章が途中で切れてしまっているとみなされ、中途半端な文章と言わざるを得ません。

「先日はどうも」の後に「ありがとうございました」と続くのか、それとも「すみませんでした」と続くのか……。どうもだけでは、相手に正しく伝わらない可能性もあるでしょう。

例えば、落とし物を親切に拾ってくれた人に対しどうもと言ったとして、相手に感謝の気持ちは伝わるでしょうか。きちんと、「どうもありがとうございました」と最後まで述べるべきではないでしょうか。

また、お悔やみの場面で「この度はどうも」と終わらせてしまうのも、言葉を省略していることから失礼にあたります。お悔やみの言葉としては、「この度はご愁傷様でした」「この度は誠に残念です。お悔やみ申し上げます」などと述べるのがマナーです。

いずれにしても、文章を途中で省略するような使い方は相手に不快感を与えかねませんし、どうもだけでは非常に軽い印象になってしまうことから、ビジネスシーンにおいて挨拶として、どうもを使用するのはNGとされています。特に、目上の人やお客様に対して使用することのないよう、注意しましょう。

ただし、気心の知れた同僚や友人、毎日挨拶をかわすご近所さんなど、親しい間柄であれば、どうもという挨拶で何ら問題はありません。相手との関係性によって、臨機応変に使い分けると良いでしょう。

どうもは敬語?

「深い謝意を表す」使い方のところでお話ししたように、どうもを付けた方がより丁寧な表現になります。そのため、どうもを付ければ敬語になると思っている人もいるようですが、どうもは敬語ではありません。

また、後に続く言葉を敬語にして「どうも申し訳ございません」としたとしても、謝罪の場面での「どうも」は少々軽い印象になってしまうため、ビジネスシーンでの使用は、やはりお勧めできません。特に、目上の人やお客様に対して謝罪する場合には、「誠に」を用い「誠に申し訳ございません」とすると良いでしょう。


普段何げなく使用している「どうも」には、さまざまな意味や使い方、そしてルールが存在することがお分かりいただけたと思います。

ビジネスシーンで挨拶や謝意を表す場合には使用しない方が無難です。相手やシーンによって正しく使い分けるよう、心がけましょう。