働く前から企業を見抜くことは難しい。結果として、企業の見極めに失敗して、転職がうまくいかなかったケースは往々にしてある。

『「いつでも転職できる」を武器にする 市場価値に左右されない「自分軸」の作り方』(KADOKAWA)の著者であり、人事・戦略コンサルタントの松本利明氏に、「危険な企業」の見極め方を聞いた。

  • 企業を見極めることは難しい(写真:マイナビニュース)

    企業を見極めることは難しい

性急な判断で失敗しないように

一つの会社にずっと勤め続けることが常識だった昭和の時代と比べ、いまは転職が当たり前となった。選択肢が増えたということは、悩みの種も多くなったということでもある。マイナビの調査によれば、これまで転職について考えた20代のビジネスパーソンは全体の7割を超えている。
※出典:4月23日発表「マイナビ転職動向調査」

転職は急な決断を迫られるものだ。「合わない上司の下で限界が来た」「元同僚からウチの会社に来ないかと誘われた」、どんなケースであっても、そこに何カ月もの猶予は無い。短期間で転職先について冷静に分析し、決断し、家族を口説かねばならない。もちろん、普段の仕事をしながら。

松本氏は転職時に「危険な企業」を見分ける3つのポイントがあるという。転職の目利きはどんな着眼点を持っているのだろうか。

  • HRストラテジー代表 人事・戦略コンサルタント 松本利明氏

    HRストラテジー代表 人事・戦略コンサルタント 松本利明氏

人事に「アルムナイはありますか?」と聞く

松本氏が挙げる分析ポイントの1つ目は「アルムナイの有無」だ。聞き慣れない言葉かもしれないが、アルムナイとは「企業の退職者や転職したOB・OGのつながり」のことである。

「当然のことながら『辞めた人間は裏切り者』と考えるような組織にアルムナイはありません。逆に、アルムナイが集まるイベントを定期開催するような会社は『辞めた相手もビジネスパートナー』と思っています。アルムナイの有無から、その企業の労使関係がリアルに見えてくるのです」

どちらが働きやすい社内文化を持っているかは明白だろう。また、アルムナイの存在は「その企業に入って成長できるかどうか」を見分けるポイントでもあると松本氏は続ける。

「辞めた後、いい仕事に就けず落ち目になってしまったら、『同窓会』には行きづらいものでしょう。アルムナイがにぎわっているということは、その会社で身に付けたスキル、学んだ知識・価値観が他の市場でも通用した社員が多いという証拠の1つです」(松本氏)

その企業独自の業務慣習をいくら身に付けたところで、転職先には通用しない。働くことでポータブルスキルを身に付け、自分の市場価値を上げることができるかどうか。これは転職先を選ぶ上で、とても重要な視点だ。

なおポータブルスキルとは、特定の業種や職種などにとらわれない能力のこと。松本氏は「どんな組織でも『仕事を前に進めていく』ために必要な共通能力」と話す。

転職サイトの裏を見抜く

2つ目のポイントは「転職サイトのテキスト」である。

「求人原稿のテキストをコピペして使い回しているような会社は、真剣に人を採用して活かそうという気がありません。複数の転職サイトを見ていれば、採用への力の入れ具合が分かってくるはずです」

転職サイトを読み解く力を身に付けるには、ある程度の時間が必要だ。転職をするにせよ、しないにせよ、直面するまえに普段から情報を収集しておいた方が良いようだ。

「ずっと見ていれば、いつも同じ職種を募集している会社は『定着率が低くて危険』といったことが分かってくるでしょう。また転職サイトごとに得意な業種・分野も違います。医療業界に行きたいのに、そこが得意でないメディアを見ても意味が無いですし、また、業界に特化した求人メディアに大手に無い情報が掲載されているケースもあります。

まずは各サイトのメルマガに登録しておきましょう。わざわざサイトを見に行かなくとも、めぼしい会社の紹介が送られてきます」

  • 「この会社で働いて良いのか」というモヤモヤを解消するため本を出したと言う松本氏

    「この会社で働いて良いのか」というモヤモヤを解消するため本を出したと言う松本氏

仲間第一主義には要注意

どんな企業も、リクルート用には良い顔だけを見せたがるものだ。「企業のホンネ」を察して危険な企業を見分ける3つめのポイントは「仲間意識の強調」である。

「仲間を『やたら強調する』ケースは危険な場合が多いです。会社への帰属意識が強いほど辞めにくくなりますから、経営者は給与を高くしなくても済むのです」

多少給料が低くても、気の良い同僚と堅実に長く働ければいい。そう考える転職志望者もいるかもしれない。しかし、その考えには落とし穴があると松本氏は警告する。

「仲間を第一に強調する会社は、それ以外の売りが無い会社ともいえます。尖った技術や優れた製品を世に出していない、独自のビジネスモデルを持たない下請け会社で、本当に安定して働き続けることができるのでしょうか? また、『人財』と表記している企業もリスクがあります。

人が財産という当然のことを言わなければならないほど、劣悪な環境である可能性があるからです。本当に財産として扱っているならば、タンス預金のような『社員の飼い殺し』をせずに、人材を輩出して、価値を高めている企業かどうかを見極めましょう」

これからは「転職力」を磨いていく

松本氏は「『他の企業に行くこと』が必ずしも転職ではありません」と、偏った転職志向にくぎを刺す。

「『転職』という言葉の本来の意味は『他の職業に変わること』です。同じ会社で営業から経理に移っても転職なのです。自分から手を挙げて他部署や子会社に移り、自分を強くすることも転職を考える上で大切な視点です」

社内の出世競争で打ち勝てるのは一握りだ。その場所でエースになれないとしたら、オンリーワンの存在として活躍できる領域を、自分の手で探して作り出さねばならない。

「これからの時代は、社外であろうと社内であろうと関係無く、自分で人事異動できる『転職力』を磨くことが必要になってくるでしょう。そのためには、まず安全な場所を社内に確保し、その上でチャレンジしていくことが重要です」


社内評価ばかり見て働いても、市場評価が上がらなければ転職力は磨かれない。社外に転職するだけでなく、社内の異動や昇進など、自分の好きなように自分を売れる力を身に付け、今後の人生をサバイブしてほしい。

取材協力: 松本利明(まつもと・としあき)

外資系大手コンサルティング会社であるPwC、マーサー、アクセンチュアなどのプリンシパル(部長級)を経て現職。国内外の大企業から中堅企業まで600社以上の働き方と人事の改革に従事。5万人以上のリストラと6,500人を超える次世代リーダーの選抜や育成を行った「人の目利き」。
主な著書に『「いつでも転職できる」を武器にする ー市場価値に左右されない「自分軸」の作り方―』(KADOKAWA)、『「ラクして速い」が一番すごい』(ダイヤモンド社)、『「稼げる男」と「稼げない男」の習慣』(明日香出版社)などがある。