ほっこりする風貌に油断させられるが、抜群の演技力を備え、近年人気急上昇の俳優・岡山天音(24)。ラブコメドラマ『ゆうべはお楽しみでしたね』のオタク男子や、朝ドラ『ひよっこ』の貧乏な漫画家など、主演でも脇役でも、観る者を惹きつけずにはいられない。そんな岡山が、第55回岸田國士戯曲賞を受賞した作家で演出家の松井周による舞台『ビビを見た!』(神奈川・KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ、7月4日~15日)で舞台初主演を務める。

本作は、大海赫による伝説の同名絵本を舞台化する野心作。岡山が演じる盲目の少年・ホタルは、なぜか7時間だけ目が見えるようになるが、逆に彼以外の町の人々が全員盲目となってしまい、大パニックになる。そんな中、ホタルは母を連れて避難中に、全身緑色の少女・ビビ(石橋静河)と出会うが、町では、ビビを探す巨人のワカオが大暴れしていた。

  • 岡山天音

    舞台『ビビを見た!』で主演を務める岡山天音にインタビュー

――舞台初主演となりますが、座長を務める今の心境を聞かせてください。

主演に決まった時は、期待感や高揚感など、ポジティブな感情が一斉にあふれてきましたが、その後、原作を読ませていただいたら、だんだん実感が湧いてきて怖くなっていきました。僕は舞台が好きで、よく観に行きますが、舞台はお客さんに委ねられる部分が大きく、映像のようにアングルで切り取られないし、操作されることもない。そこに自分が立つのは怖いけど、だからこそ楽しめるというドキドキ感があります。

――舞台は『袴垂れはどこだ』以来、2度目の出演となりましたが、今回、どんな思いで臨みましたか?

当時16~17歳で、稽古でこてんぱんにされましたが、その時の舞台はめちゃくちゃ印象に残っています。やはりお客さんに生で芝居を観てもらえたことで、いい作用が働いた気がします。でも今回は、映像作品で培ったものが少なからずあるので、その分、怖さがあります。10代の時は、自分自身が一番変わる時期でもあったので、それと横並びにして比べることはできないのですが、前回とは全然違うので、初舞台に臨むような感覚がすごくあります。

――プレッシャーには強いタイプですか?

めっちゃ弱いタイプというか、非常に緊張しやすいです(苦笑)。現場で「本当に緊張しているの?」と、よく言われますが、それは周りの人が気を遣って言ってくれているのか、本当にそう見えているのか、定かではないです。

  • 岡山天音

――大海赫さんの原作絵本は、1974年に出版された児童書で、よしもとばななさんら根強いファンの声を受けて2004年に復刊されました。実際に読まれて、どんな印象を受けましたか?

いまだに愛されている作品で、読んでトラウマになる人もたくさんいると聞きましたが、僕としては、出会ったことのないタイプの絵本でした。とにかく五感にどんどん入ってくる内容で、言葉が追いつかないようなインパクトを感じました。

僕は子どものころ、すごい心配症で、もしも親が死んだらどうしよう、戦争が起きたらどうしようとか、心配してはぶるぶる震えていたような感じでしたが、その感覚に引き戻されたような気がしました。すごく怖かったけど、すごく惹かれました。

――演出の松井周さんからは、なにか役についてのリクエストはありましたか?

柔軟でいてほしいと言われました。舞台の経験は浅いけど、映像ではいろんな現場に行かせてもらってきたので、役を固めすぎず、稽古場で柔軟に対応していってほしいと。だから僕も、素直に飛び込もうと思いました。

――盲目なのに、突如7時間だけ目が見えるようになるというホタル役には、どのようにアプローチされますか?

盲目だったり、少年だったり、異世界だったりと、振り切ったキーワードがたくさん詰まった舞台なので、いろんなことを試してみようとは思っています。自分なりに丁寧に模索しながら、答えを見つけていきたいです。

  • 岡山天音

――ヒロイン・ビビ役の石橋静河さんの印象について聞かせてください。

石橋さんは『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(17)など、映画での印象がすごく強いのですが、石橋さんにしかできないお芝居をされる方ではないかと。今回も石橋さんだけが演じられるビビを見せてくれると思うので、今から非常に楽しみです。僕も石橋さんとお芝居でちゃんと会話できるよう、しっかりと自分のホタルを見つけていきたいです。

――最後に、『ビビを見た!』をこれから観る方に、舞台の見どころを教えてください。

これまで映像作品で僕のことを観てくれていた方も、新鮮な気持ちで楽しんでもらえる舞台になるのではないかと思います。それは松井さんの演出や、大海さんの原作のパワー、今まで踏み込む機会がなかった舞台という環境など、いろんな作用を自分の力にしたいと、僕自身が思っているからです。

人生の選択肢が増えるようなポテンシャルを秘めた題材で、僕は絵本を読んだ時もゾクゾクしました。舞台は舞台ならではの仕掛けがたくさんあるので、絵本の世界がより立体的になり、また新しい形で『ビビを見た!』のメッセージや世界観が伝えられたらと思っています。

■プロフィール
岡山天音(おかやま・あまね)
1994年6月17日生まれ、東京都出身。2009年にNHK教育『中学生日記 』で俳優デビュー。2017年公開の『ポエトリーエンジェル』で第32回高崎映画祭新進男優賞を受賞。NHK連続テレビ小説『ひよっこ』(17)では売れない漫画家役を好演。2019年は、スカパー『I”s』、MBS『ゆうべはお楽しみでしたね』、テレビ東京『デザイナー 渋井直人の休日』、NHK『週休4日でお願いします』、メーテレ『ヴィレヴァン!』、WOWOW『東京二十三区女』などに出演。映画『新聞記者』、『王様になれ』、『踊ってミタ』が公開を控える。

ヘアメイク:森下奈央子 スタイリスト:岡村春輝