フジテレビのドラマが海外で売れまくっている。『電車男』のハリウッド版制作が始動し、リメイク権を結んだ数が50作品を超えたのだ。韓国をはじめ、アメリカ、中国、ロシア、トルコなど世界各地からオファーを受け、ビジネスが広がっているという。

近頃、ハリウッドドラマの日本版が作られるケースも増えているが、なぜドラマの国際取引が活発化しているのか。そして、どのようなドラマがリメイクされやすいのか。これまで数々の案件を成立させてきたフジテレビ総合事業局コンテンツ事業室部長職の久保田哲史氏に、その理由を聞いた――。

  • 『電車男』ハリウッド版の制作を発表したMIPCOMにて フジテレビの久保田哲史氏(右)、大多亮常務(中央)ら

    『電車男』ハリウッド版の制作を発表したMIPCOMにて フジテレビの久保田哲史氏(右)、大多亮常務(中央)ら

■『プロボーズ大作戦』の映画化も

『離婚弁護士II』『医龍-Team Medical Dragon-』『東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~』などのドラマを制作してきた久保田氏が初めて海外にリメイク権を売った作品は、韓国への『リッチマン、プアウーマン』だった。同作のようなフジの恋愛ドラマが、中国などのコンテンツ発展途上国でリメイクされるケースが増えている。

その理由について、久保田氏は「中国はここ数年で動画配信サイトが莫大に増え、ドラマを制作する環境と購入する資金力が急速に伸びています。一方でオリジナル作品を生み出す力が追いついていません。そこで手っ取り早くドラマをそろえる方法として、リメイクが選ばれているのです。またリメイク権を購入することによって、脚本だけでなく、作り方から衣装、セットまで、クリエイティブの細かな情報が教えてもらえるバイブルも手に入れることができます。勉強熱心な中国人にとって、リメイクはノウハウを学べる手段でもあるわけです。そして、伸び盛りの国はウキウキした気分になることができる恋愛ドラマを好みます。恋愛ドラマが強かった日本のバブル時代と中国の今の状況は合致しています。だから、『東京ラブストーリー』や『101回目のプロボーズ』など、大量にあるフジテレビのトレンディドラマが今、売れているのです」と分析する。

久保田哲史氏

リメイク権が売れた50作品のラインアップをみると、『最高の離婚』など最近の作品も並んでいる。世界的に動画配信サイトが普及し、ニーズが多様化されていることも影響しているのだろうか。

「動画配信サイト用にもよく売れています。20~25歳の女性に刺さるドラマのニーズも高まっています。中国では上海や北京など都市部では都会的な恋愛ドラマも大変人気があります。今、中国最大のIT企業アリババグループのアリババ・ピクチャーズで『プロボーズ大作戦』の映画化の話も進んでいます」。

ドラマ大国の韓国でもフジの多くのドラマがリメイクされている。この1年だけでみても、『リーガルハイ』など5本のリメイクドラマが韓国で放送された。韓国版が作られることによって、大きな恩恵も受けるというのだが、それはどういうことなのか。

「韓国は地上波に限らず、ケーブルテレビから動画配信サイトまでドラマを制作する数は日本よりもはるかに上回ります。かつては恋愛ドラマばかりでしたが、今は刑事、弁護士、医療ものなどジャンルの幅も広いです。オリジナル作品を育てる力は十分にありますが、それでも数が足りないほどで、日本にも頼っているのです。韓国版が作られることでリメイク権を売る以上の利益ももたらしてくれます。韓国は販売力がありますから、全世界に展開されることも多いのです。正式に取引されたものですから、オリジナルは日本であることがクレジット表記されます。世界の人に日本のドラマの良さをわかってもらうきっかけになることが大きなメリットでしょう」。

■世界的に評価される坂元裕二作品

坂元裕二氏

日本のドラマは、具体的にどのような点が世界から評価されていると久保田氏は分析しているのだろうか。

「やはり、ストーリーの面白さに尽きます。アイデアが素晴らしいと言われます。中でも、世界的に今、坂元裕二氏の脚本が評価されています。ハリウッド的な分かりやすい劇的なストーリーと差別化した作品も今、求められている傾向が高く、『This is US』のような心情的なドラマもヒットしています。人間模様を丁寧に描くドラマは日本の得意とするところ。その最たるものが坂元裕二作品です。ちょうど、『それでも、生きていく』がある国と交渉中です」。

そうした流れの中、ついにアメリカでもリメイク権の交渉がまとまった。大ヒット映画『ヘアー』の監督と、エミー賞受賞のシチュエーションコメディ『HEY!レイモンド』のプロデューサーを有するチームによって、ミュージカル調にリメイクする米版『電車男』の制作が進められている。最近、Netflixのリアリティ番組 『KonMari~人生がときめく片付けの魔法~』を代表例にアジアブームが来ていることも相まって、ドラマに限らず日本の作品全般が注目されることが期待できるのか。

「アメリカからリメイクの引き合いが殺到しています。また、日本をロケ場所に選ぶケースも増えています。日本で独自に育ってきた文化が注目されているからです。日本人にとって『KonMari』のコンセプトは決して目新しいものでもないのですが、海外で評価されることよって気づかされることは多々あります。ドラマの取引の現場でも海外の方から日本の良さを改めて教えてもらうことはしょっちゅう。気づきの連続です。日本の時代劇にも興味を持たれていることが最近わかりました。世界が日本に向いている今こそ、発信する絶好のタイミングです。日本はガラパゴスなどと表現されることも多いのですが、自分たちの良さをあらためて理解して、世界展開させていくことにも目を向けるべきだと思っています」。